【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:憧れに近づく目標の達成。佐藤瑶大が放ち始めた“点の取れるセンターバック”としての存在感

久々に“点の取れるセンターバック”が名古屋に誕生した。先の横浜FC戦で今季5得点目を挙げたのは佐藤瑶大で、名古屋のDFでこの数字を突破しているのは18年の金井貢史の4得点、センターバックに限れば15年の田中マルクス闘莉王の7得点にまで遡らなければいけない。数字だけで言えばこの10年、やはりチームは得点力のあるセンターバックを求めてきたところがあり、「強いチームはやっぱりセットプレーでセンターバックが点取るんすよ、絶対」という佐藤の言葉は名古屋が刻んできた歴史にもどこか通ずるところがある。それを知ってか知らずか「僕はそれができるセンターバックだと思ってる」と語る佐藤が5得点の壁を突破したことは、またひとつ新たな扉が開いた感もするのだった。
G大阪や浦和を経て名古屋に移籍してきた佐藤が今季掲げてきた目標もまた、5得点という数字だった。とはいえ今季の得点がプロ入り後初のリーグ戦での得点で、「練習では“叩けてる”んですけど、試合では入らなくて。『またお前触ってるだけかよ』『試合で決めてくれよ』ってどのチームでも言われていた」と苦笑しながら振り返る選手としてはなかなかに高いハードル設定だ。闘莉王やセルヒオ ラモス(CFモンテレイ/メキシコ)に憧れて、蹴り方まで真似した幼少期から始まった“得点を取れるセンターバック”への挑戦は、実際にもそう言えるだけの数字を残せた今、ひとつステージを上がった感もあるのではないか。5点目をマークしたアウェイの横浜FC戦、試合後に佐藤は「今は運がいいと思っているだけ」と謙遜しつつ、点が取れるようになった理由を明かす。
「以前から言ってるんですけど、やっぱりその…ふざけてでもこぼれ球に詰めてきた練習がいま、功を奏しているとは自分でも思います。ただ、それはやっぱり可能性のあるシュートを打ってくれている選手、今日ならアキくん(河面旺成)だったり、前のなら(稲垣)祥くんだったりがいるからこそ、ああやってこぼれ球を詰めてゴールを取ることができているので。シュートを打っていくっていうのは大事だなって思いますし、走っておくことは大事だなって思いました。そこにいなかったら取れないんで、自分はそこにいるようには意識しています」

“そこにいる”ことの重要性を実感したのは9月のことだった。それまで2得点を挙げていたその内訳は、セットプレーの折り返しをスライディングシュートで押し込んだものと、自慢のヘディングで叩き込んだもの。ホーム横浜FM戦でようやく公式戦で決めることができた頭での豪快な一撃は「やっと、やっと…って感じっす」と感慨深げだったが、その後はなかなかチャンスに恵まれず。チームも浮き沈みを繰り返す中では、佐藤も出場機会を失う時期があった。序盤戦では武器のひとつに数えられた名古屋のセットプレーも輝きを失い、当然のごとく佐藤のゴールへのアプローチも減少していくなか、転機となったのはやはり、8月21日に発表されたイングランド・プレミアリーグのエバートンFCとの戦略的パートナーシップ締結だったのは間違いのないところだろう。
「名古屋・愛知から世界へとつながる次世代の選手育成・国際交流・事業連携の可能性や機会をさらに拡大してまいります」とされたエバートンとの戦略的パートナーシップだが、現場レベルでの交流も活発で、さっそくとばかりに行なわれたのが両チーム分析班のミーティングが複数回あり、セットプレーについての情報交換および、名古屋のセットプレー映像をエバートンの分析チームに“添削”してもらうような機会もあったという。「アナリストの数が違うし、データがすごい」と長谷川健太監督も唸る世界最高峰リーグの分析はすぐさま吉村圭司コーチはじめ現場のコーチたちが活用し、たしかに9月以降の名古屋のセットプレーの精度は飛躍的に向上した。一目見てわかるのは明らかにセットプレーのターゲットになっている選手がフリーになれていることで、今までセカンドボールをスーパーゴールで叩き込む役割だった稲垣の位置取りも様々になったあたり、現在の名古屋の持つセットプレーの“設計図”は、相手と状況に応じてかなりのバリエーションを得ていることがわかる。
その恩恵を受けているひとりが佐藤であるのは間違いない。8月31日のホームFC東京戦から7試合で3得点。すべてセットプレーの中でその得点は記録されている。ホームのFC東京戦ではコーナーキックを山岸祐也が落とし、こぼれ球を押し込んだ。岡山戦もコーナーキックで、稲垣のヘディングシュートがややずれたところを頭で流し込んでいる。そしてアウェイ横浜FC戦でもコーナーキックが流れた後の展開で、河面のシュート性のパスが相手に当たってこぼれたところを確実にゴールへ詰めた。こうして振り返ると3得点すべてがセカンドチャンスを仕留める形だが、どうやら設計として彼がその役割を担っているというほどではないらしい。ではなぜそこに彼がいるのか。前述の金井は「なぜそこに金井(NSK)」と呼ばれる神出鬼没のスコアラーだったが、セットプレー限定の佐藤は神出鬼没とはまた違う。ではなぜ彼はそこにいるのか、“NSS”の理由は。それは前述の“ふざけてでも”に隠された、彼の地道な意識づけに起因するものだった。
「逆に今は僕が得点を取るパターンは大体ああいうところしかないので(笑)。でも、やっぱりチャンスはものにしたいですし、自分の得意な部分でもあるので、より得点の“匂い”がするところに行くような意識をしています。特に祥くんのシュートはいつも何かがあると思って、練習ではふざけながらででもこぼれ球に行くようにしてきたので、勝手に足が動いているところはありますね。岡山戦ではあの場所に勝手に吸い寄せられていた感じでしたし、そこがチャンスだと思ったのかどうか…。でも、ゴールを取りたいからそっちに行ったんだろうなとは思います。これって嗅覚なんですかね?(笑)」
そこにいるようにしている、つまり意識はしているのだから、嗅覚という本能的な働きではないのかもしれないが、習慣づけた“こぼれ球に詰めておく”という作業が無意識的になってきているのもまた事実。頼もしいのはチーム有数のストロングヘッダーである彼をおとりに使って仲間がフリーになり、そのフィニッシュの作業に佐藤が養ってきた“嗅覚”が高い貢献を見せていること。当然のように強いマークをつけられる選手を有効的かつ効率的に活用できることが、現在の佐藤のレアリティだろう。繰り返すがDFで5得点は立派な数字である。それ自体が彼を起用する理由になるほど、得点が取れるという能力は価値が高い。ただ、向上心と野心の塊のような男はそこに満足せず、自分の理想を追うこともやめはしなかった。今の自分の価値と、自分本来の価値。その両方をもって佐藤はさらなるスケールアップを夢見る。

「シーズン前から目標にしていたので、5点取れたことは良かったんですけどね。そこはひとつの通過点として、僕はもっともっと存在感を出さなきゃいけない。もっともっと正確なプレー、的確なプレー、判断の間違いのないプレーで。それに、ここまでの得点のうち、自分の理想が1点しかない。“あれ”で5点取りたいんですよ。だから得点を取っていることはいいと思う一方、それが自信につながっているかって言われたらそうじゃないですね。直接、自分で決めたい。鹿島戦にあったチャンスも決められたと思う。最近、ヘディングの調子が100のうち85ぐらいしか出せてないんですよ。僕はもっと高く飛べるし、もっと上で止まれるし、守備のヘディングも全部跳ね返せるはずなんですけど、なんかうまくいってない感覚で、全然手応えがないんですよ、正直言って今は」
大卒5年目の27歳は決して若くはない。だが、佐藤の醸し出すギラギラ感は良い意味で若々しく、何かを期待させる雰囲気が出てきた。勝ち残っていくために必要な守備力、そしてここぞの得点力。その双方にかかわることができるようになった今、名古屋の背番号3はさらなる存在感を放つようになっていくに違いない。
Reported by 今井雄一朗