
GKとは因果なポジションだ。どれだけファインセーブ、好プレーを重ねても、ワンプレーが失点につながり、勝敗を分ける重大な場面になり得る。
明治安田J2リーグ第33節、プレーオフ圏内を目指して戦い続けるFC今治は、ホーム、アシックス里山スタジアムにレノファ山口FCを迎え撃った。
19位とJ3降格圏内の山口はロングボールを多用し、球際に焦点を絞った戦いを挑んできた。タフではあるが、決してラフなサッカーではなく、今治は思うように試合を運べない。
とはいえ決して受け身にはならず、積極的にラインを押し上げながら、攻撃の加圧を図る。自ずと山口に狙われる背後は、GK立川小太郎がたびたびペナルティエリアを飛び出して対応した。
後半開始からの2枚替えを行った今治は、投入された1人、横山夢樹の48分のゴールで鮮やかに先制に成功する。
流れをたぐり寄せるための交代策が見事にはまり、ゴールの時間帯も理想的。しかも得点者は先日のFIFA U-20ワールドカップチリ2025でも大活躍したU-20日本代表の横山と、今治のペースで進んでいくかに思われた。
だが、山口の戦意はまったく落ちない。前節、中山元気監督が退場となり、吉澤英生ヘッドコーチが指揮を執るチームは、交代策を交えながら強度を保ち続けて今治にとって危険な存在であり続けた。
そして迎えた88分、自陣深い位置でDF喜岡佳太がボールを持ったとき、長いボールを蹴らせないために前から行くのか、ロングボールに備えて後方で構えるか、今治のプレーが一瞬、あいまいになった。
すかさず広大なスペースが広がっていた中盤で三沢直人にボールを受けられ、そこから浮き球で山本桜大に背後に抜け出される。ここでも立川が飛び出したが及ばず、痛恨の同点ゴールを許してしまった。まさに止めるか否か、紙一重の瞬間だった。
昨シーズン、選手として今治の昇格を支えて現役を退き、今季は指導者としてチームとともに戦う修行智仁GKコーチは、必ずしも自分たちのペースではない前半が終わると、すぐに立川の下に歩み寄ってコミュニケーションを取っていた。GKの立場から、どのように勝機につなげる考えだったのか。
「今治を分析してというのもあったでしょうし、山口が残留争いをしているという状況もあったと思います。明確な、ある意味で割り切った戦術を取ってきました。
それに対して自分たちも長いボールが増えていって、それは決してやりたい戦いではなかったですけど、小太郎はディフェンスの背後のスペースをケアするトレーニングをしっかりしていますし、そこに出て行くこともできる。あそこまで行けるGKは、J2にはなかなかいません。山口も背後を狙ってきましたが、そこは別に心配していませんでした。
その中で小太郎とコミュニケーションを取り続けていたのは、自分たちから崩れないこと。前半0-0でいいよ、でした」
そして狙いが的中しての、後半早々の先制ゴール。勝利目前まで持って行っただけに、GKコーチとしても悔いの残る失点シーンだったのではないか――。
修行GKコーチの捉え方は、ほぼ全肯定といっていいものだった。
「一発で背後を取られたボールでしたが、GKとして狙えていました。小太郎はいったん出ないという判断をして、相手のコントロールが大きくなったところで狙い直した。そのタイミングも良かったです。あとは、前に詰めるときの迫力をもっと出せていれば、あのゴールは防げたと思います。
相手と競り合った味方のDFもいたので、GKはステイするという選択肢もありました。ただ、そこで出て行った小太郎の前向きなプレーは尊重されるべきだし、それが彼の良さでもある。だったら、相手をつぶすくらいの球際の迫力を持って行ってほしかった。そうすればビッグセーブ、さらにチームを勝たせるプレーになっていたと思います。
GKやDFは、本当に紙一重のプレーの連続です。あの場面、小太郎は僕が常にトレーニングから言っているディフェンスラインの背後に出てくるボールを狙いながら、無理なら一回下がって、でもさらにもう一回、相手のトラップを狙うところまで完璧にできていました。最後、シュートを止めればベストだった」
ワンプレーでチームが勝点を失うこともあれば、落としかけたポイントを積み上げることもある。重大な責任に向き合わないといけないのがGKというポジションだ。「だからこそ熱量を持って、日々、トレーニングをやっています。継続するだけです」と、修行GKコーチはまったくブレることなく、チームのGK陣と前に進んでいくつもりだ。
「昇格争いを目標として、今シーズンが始まっています。今も変わらず、その方向に進んでいる。プレーオフ圏内に至る、昇格するためにトレーニングからやっていきます」
チームにとって、大一番の連続である。次節は、ついにJ2首位に立ったV・ファーレン長崎に、アウェイで挑む。試合前のウォーミングアップでまず出て行くのがGKだ。
「すばらしいスタジアム(PEACE STADIUM Connected by SoftBank)であることは分かっています。試合の映像を見ても、どちらのゴール裏にも長崎のサポーターがたくさん入っている。最高の雰囲気だと思います。
選手として、これ以上幸せなことはないはずですよ。完全なアウェイに行って、互いに昇格を争って戦う。うちの選手はみんな、スタジアムを埋め尽くしてほしいと思っているんじゃないかな。そこで相手に全力で噛みつきに行って、今治らしくプレーできる舞台がある。選手として最高の充実感を味わえるし、これほどやりがいのあるシチュエーションはないです」
今治の守護神を万全の状態でピッチに送り出す修行GKコーチ自身、今から武者震いを抑えられない。そんな熱気がびりびり伝わってくる。
Reported by 大中祐二