
明治安田J1リーグ第35節・湘南戦。後半アディショナルタイムに獲得したPKを見木友哉が冷静に沈めて土壇場で勝ち切り、J1残留を決めた。
ただ、試合後、ベスト電器スタジアムに漂う福岡サポーターの感情は、喜びよりも安堵感が強かったように感じた。勝ったことが何より。ミックスゾーンに現れた選手たちにも笑顔はなかった。理由は明確。「最後のところというのはずっと課題」と攻撃のタクトを振るう名古新太郎が言うように今シーズン続いている「決定力不足」という課題を露呈してしまったからだ。この試合、相手の3倍近い14本のシュートを放ち、ゴール期待値は3.13。だが、得点はPKによる1点にとどまった。
「映像を見直してみないと、細々したところまでは、まだ少しぼんやりしているのですが、やはり、単純にフリーで上げているクロスの質、ボックス近辺でボールは持っても怖い仕掛けができない。それが特徴の選手だったりもするんですが、そこにもうひとつ踏み込めないという状況があります。やはり個で最後は外さないと、個で仕掛けられる選手がいて初めてゴール前でズレが生じるので、特徴ある選手たちが並んではいるものの、そこで仕事ができていないという現状もあります。その辺りは、当然、当人たちが感じていると思いますし、途中で入った選手たちは、それぞれに良いものを出してくれているので、こうやって勝ちながらいろんな競争が出てくる中で、次の試合のスタメンはおそらく同じようにはならないでしょうし、そうやって勝ちながら次に向かっていければいいのかなと思います。やはり、単純に落ち着き、質、そういったものは日々求めているものの、まだ本気で守備している相手を上回ることができていないという表現の方がいいのか、僕も含め、まだまだ足りなかったなという感想です」(金明輝監督)
リーグ戦6位以上、カップ戦優勝を目標に掲げ、新指揮官を迎えた今シーズン、これまで築き上げてきた堅守をベースにチームの長年の課題であった得点力の向上を目指して戦い続けてきた。昨シーズン、J1で2番目のアシストを挙げた鹿島の名古や東京Vの中盤で主軸を担っていた見木、サイドを切り裂くドリブル突破が魅力の町田の藤本一輝ら攻撃面に特徴を持った実力者が加入。「相手コートで相手を揺さぶりながら勝つ」(金監督)。攻守に強度高くアグレッシブに戦い、保持を大切にしながら縦に鋭く攻めてゴールを奪うべくGKに足元の技術に長けた小畑裕馬を多く起用し、後方から立ち位置を可変させて局面で数的に、位置的に、質的に優位性を作りながらボールを前進させ、チャンスを創出。見ていて楽しい、ワクワクする試合が増えたのも事実だ。
だが、ここまで得点数は33。J1で6番目の少なさで今シーズン3試合残した時点ではあるが、リーグ最少に終わった昨シーズン終了時と同じゴール数で課題を克服できていない。ここまでチーム最多の得点を挙げているのがMFの見木(6ゴール)、次点がDFの安藤智哉(4ゴール)というデータが物語るように顕著なのはセンターフォワードの得点数の少なさだ。昨シーズン、チーム最多の9ゴールを挙げたシャハブ ザヘディは、ここまでリーグ戦無得点。ナッシム ベン カリファは怪我で離脱する期間が長く、ウェリントンも37歳という年齢を感じさせないタフな姿を見せ続けてくれているが、2人のリーグ戦の得点は合計3点。ルーキーのサニブラウン ハナンはプロデビュー戦でゴールを挙げ、6月に富山から加入した碓井聖生も3ゴールと活躍を見せているが、全てを足しても見木1人とほぼ同じ数字だ。
「どう決めるかというのが上手く自分たちで分かっていないからこそ今シーズン難しくなっているので、やっぱり最後のクロスの質だったり、飛び込む部分、相手の前に最後入るところだったり、ゴールを決められるところにいるというのがやっぱり足りないと思います」(見木)
決してセンターフォワードだけの責任ではないが、ゴールを決める重要な役割を担う選手をここまで固定できず、ゴールを奪う再現性の高い形をあまり表現できていないことが得点力不足に陥っている大きな要因として挙げられる。
「やっぱりFWとして得点を取れていない以上はまだまだというところとやっぱり自分が決め切るべきところで決めなければこういう苦しい展開を生んでしまうので、次節は自分が点を取ってチームを楽にさせてあげたいと思います。やっぱりまずは(シュートを)枠に入れるというところとあとはシュートをするタイミングだったり、仲間を使う方がよい時もあると思うので、その冷静な判断というのは今後鍵になってくると思います。もっと自分がボールを収めて攻撃の起点になることができればよりシュートチャンスというのを増やせると思いますし、味方を上手く使って自分がフリーになるということもできると思うので、そういったコンビネーションだったり、コミュニケーションをとっていきたいと思います」(碓井)
今の福岡にとってJ1残留は最低限であり、通過点。ここで満足できるチームではない。残りの今シーズン、新たに目標に設定した10位を達成するためにも、来シーズン以降上位進出を果たすためにも「決定力の向上」という課題に向き合い続ける必要がある。言うは易く行うは難し。簡単に克服できるものではないが、残り3試合、一歩ずつでも課題を乗り越えようとチャレンジする姿が見られることに期待したい。
Reported by 武丸善章