
10月25日に行われた前節(明治安田J1第35節)のアウェイ・清水エスパルス戦、東京ヴェルディは1-0で敗戦を喫した。だが、同日に行われた横浜FCvs柏レイソル戦で18位の横浜FCが敗れたため、東京Vの2年連続のJ1残留が決定した。
この残留を、格別な想いでかみしめたのが齋藤功佑である。「めちゃめちゃホッとしています」と、安堵の表情を隠さない。なぜなら、それほどまでにクラブ、チームのために尽力し続けてきているからだ。
2023年、ジュニア時代から13年間身を置いた横浜FCから東京Vへの移籍を決断した。26歳(加入当初は25歳)という年齢、プロ7年で94試合出場12ゴールの実績に加え、加入早々からレギュラーの座を勝ち取れたこともあり、新天地での再出発を機に意識的に立場を一変。「今までは与えてもらう立場でしたが、もう自分も若くはないですし、自分の経験してきたことを伝えることも中堅・ベテラン選手の価値だと思うので、いろいろな選手とコミュニケーションをとりながら要求しあって、自分が上手くなるため、チームとして結果を出すために大事だと思ったことは全てやりたい」と、チームの牽引役を率先してきた。J1復帰を成し遂げ、東京Vで3年目を迎えている今も、そのスタンスはいっさい変わりはない。
だからこそ、今季は苦しんだ。2021年、横浜FCで「J1の2年目」の難しさを身をもって経験しており、J1昇格を果たした昨季から常に「少しでも気を抜いたら、あっという間に残留争いに巻き込まれる」と警笛を鳴らし続けてきたが、それでも厳しい現実の訪れを食い止めることはできなかった。
中でも齋藤にとって痛恨だったのが、夏の移籍ウィンドウで千田海人(現鹿島アントラーズ)、翁長聖(現V・ファーレン長崎)がチームを去ったことだった。
「チームがここからだという夏の時期に、組織を動かしていくための大きな歯車を担ってくれている選手が急に2人も抜けてしまったので、さすがにダメージはありました」
だからといって、嘆いているわけにはいかない。「チームがより良く、より強くなるために何をすべきか?」と考える中で、自身の役割を変えていったという。
「もともと(千田)海人くんやヒジくん(翁長聖)が1番上の位置で組織を俯瞰しながら、重要な局面で発言したり、姿勢やプレーで示したり、まとめ役みたいになってくれていたことで、僕は常に熱量を発信し続けていられました。仮にそれでチームメイトと衝突したりしても、それをうまく緩和したり消化してくれていたんです。その先輩が2人とも抜けてしまったことで、今度は自分がそういう立場になるべきだなと。これからは主格として、自分が先頭に立つのももちろん大事ですが、それ以上に今中心として試合に出ている若い選手の中に、これまで僕がやっていた役をやってくれる選手を作る、増やしていく。で、僕がそういう選手を引っ張っていけるような、引き上げみたいな役割に変わっていくことの方が、チームとっては大事だと自分の中で思ってて。なので、夏以降は『一緒にチームを勝たせよう』というお願いというか、助けてもらうみたいなコミュニケーションの取り方を意識しています」
最も工夫するようになったのが「伝え方」だ。これまでは、齋藤が「チームとしてこうやるべき」だという視点で話しても、違う選手は自分視点でプレーしていて、そこで意見がぶつかることも少なくなかった。だが、(チーム内での)立場を変えるからには、「自分の今までのコミュニケーションでは共感してもらいづらい」と気付いた。「事実を直接ぶつけるのではなくて、柔らかく伝えることで、相手も受け入れやすくなることを学びましたね」
そして、そんな齋藤の変化を感じ取り、これまでの自分の役割を担ってくれているように映るのが谷口栄斗、深澤大輝、稲見哲行らだという。「オン・ザ・ピッチではもちろん、オフ・ザ・ピッチでも彼らが年上とも年下ともコミュニケーションをとってつなぎ役となってくれていることが、今のチームの底力になっていると思います」
その象徴的なシーンが前節の清水戦だった。前半4分の早い時間にイエローカードを受けた齋藤が珍しく冷静さを失い、相手選手や主審に対して激昂した振る舞いを見せたシーンがあった。その際、まっ先に止めに入り齋藤の肩を張り飛ばして「落ち着けよ!(イエローカード)2枚目もらうだろ!」と諫めたのが谷口だった。
「栄斗はずっと、『チームが緩いときには自分が締めるんだ』という意識をもってくれている選手。それがすごくありがたいですし、彼だけではなく、(深澤)大輝やうっちー(内田陽介)など、年齢とか全然関係なく、だいぶお互いに要求できるようになってきています。自分の未熟さが出てしまいましたが、あの場面はチームとしての成長を感じました」
また、誰よりも強い使命感も抱えながら戦っている。
「『東京ヴェルディ』は絶対にJ1にいなければいけないクラブ、チームです。もちろん自信はありましたが、何が起こるかがわからないのがサッカーなので、ちょっとした気の持ち用とかで崩れることもある。そこはすごく感度高く過ごした1年間でした」
その中で、あらためて感じたのが「組織としてのこのクラブの素晴らしさ」だったと、背番号『8』はしみじみ語る。
「とにかく一貫性が素晴らしい。城福浩監督のマネジメント力から始まり、スタッフ陣との信頼関係、その監督・スタッフの意図に応えられる選手の素直さ。シーズン中、どうしても緩みがちな時もありましたし、矢印が良くないところに向きそうな状況も、組織なのでもちろんたくさんありました。それでも、そこをスタッフ陣が同じ方向を向かせるための誘導や声かけ、“締め”みたいものも要所であったし、それぞれの選手がちょっとずつ『チームのために』を考えて、みんなで必死に乗り越えているというのがすごく感じられている1年です。
そして、もう1つ大きいのがサポーターです。負け続けていた時の、あの試合後の声援。あれが1つブーイングになっていたとして、それで選手が変なストレスを抱えてしまっていた可能性もあったと考えると、本当に“クラブ”としてすごく素敵なクラブだなと思う。そんなクラブチームの中で、自分が今季ここまで全試合出させてもらっているからこそ、『残留』は最低限の目標として達成しなきゃいければいけないと思っていたので、ものすごくホッとしています」
ただ、これで満足しているはずもない。当然、目指すのはもっともっと強く、魅力的なクラブ、チームへの成長だ。そのためにも、「ここからの今季残りの3試合をどう戦っていくか。その成長幅によって僕らの今後が変わってくる」と襟元をただす。
次節(11月8日)のアビスパ福岡戦は出場停止となる。チームとっては大きな痛手だが、齋藤自身は「ここでもう1個成長できる時間にしたい」と前向きに捉えている。代表ウィークによる中断期間が入るため、次に出られる試合は11月30日第37節の鹿島アントラーズ戦となる。「約1ヶ月もあるこの期間の過ごし方によっては、自分のサッカー人生を左右するぐらいの危機感をもって取り組んでいます。この期間は、エクストラ(東京Vではおなじみの、全体練習後の強化トレーニング)にも加わることになると思うので、強度を高めながらしっかりと自分と向き合って、もうワンランク成長したいなと思っています」
個の成長と同時に、「クラブ」「チーム」という組織を俯瞰し、全体がポジティブな方向に、同じ方向を向いて進むために気配りのできる選手がいることがいかに重要か。そして、東京Vにはそんな選手の存在が脈々と受け継がれている。
Reported by 上岡真里江