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【取材ノート:琉球】藤春廣輝の攻守一体──経験が紡ぐ哲学

2025年11月7日(金)


2位・栃木シティと激突した明治安田J3リーグ第34節。結果は2点ずつを取り合うドローだったが、この試合で藤春廣輝が左サイドで繰り広げた90分間は、まるでJ1時代を思い起こさせるような濃密な時間だった。


試合後、肩で息をしていた藤春は充実感をにじませながら語った。

「いや、あれはヤバいっす。キーパーが持った瞬間、もう全部俺のところに蹴ってくる」

彼と対峙したのはバスケス バイロン。GK相澤ピーター コアミがボールを保持すると即座に反応し、常に藤春の背後を狙い続けた。その動きは機械的で正確に、一瞬の迷いもなく「すごい真面目に裏抜けする選手」と藤春は評した。ガンバ大阪で数々のウイングと対峙してきた彼にとっても、容易には封じ切れないスピードとタイミング。「懐かしい90分」という表現が、バスケス バイロンのレベルの高さを物語る。

3バックを採用するFC琉球。藤春は左の一角としてウイングバック茂木駿佑と同サイドを守った。

「モテ(茂木)をあんまり下げさせないようにしたかった」と、藤春が前に出て対応することで、茂木は攻撃参加を続けられる。これは単なる個の守備対応ではなく、チーム全体のリズムを保つための戦術的決断だった。

「リスクはあるけど、自分が負けなければモテを下げる必要もない」と藤春。相手に合わせてラインを下げるのではなく、自らの判断で主導権を握ろうとする経験に裏打ちされた哲学があった。

藤春の貢献は守備だけにとどまらない。荒木遼太のゴールシーンでは、藤春の「見えない仕事」が光った。定位置を離れて敵陣左サイドでボールを受けた後、足を止めずに栃木シティのDFとの間に立つ。相手DFラインを引き付けながら押し下げ、右サイドにスペースが生まれたことで荒木のゴールにつながった。

「そういう走りも大事。無駄走りじゃなく、誰かのためにスペースを作ることを意識してる」



得点に直接関わらずともチームに貢献する。それが彼の真骨頂だ。

「最後の質。クロス一本、入り方、全部が違う。上位のチームは個が強い」と、まだまだ上を目指すうえで足りない現実的な部分を冷静に認識する藤春。ただ、次のアスルクラロ沼津戦に向けて気を引き締め、勝利への意欲を燃やす。今月28日で37歳を迎える彼は、今もなお上を目指す気持ちが息づいている。



この試合で見せたのは、守り抜くだけのディフェンダーの姿ではなく、リスクを取り、走り続け、仲間を支え、ピッチに立つ意味を体現する藤春廣輝の真価だった。

Reported by 仲本兼進