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【取材ノート:福岡】威風堂々。チームに安心感を与える守護神・小畑裕馬の成長

2025年11月11日(火)


明治安田J1リーグ第36節・東京ヴェルディ戦は、小畑裕馬のGKとしての成長を強く実感する試合になった。


立ち上がり、いきなりピンチは訪れる。試合開始約40秒、スローインから左サイドを突破され、相手の松橋優安はゴールに向かってスピードを上げて迫ってくる。

「あれを決められていたら試合の展開が難しかった」

ゴール隅に飛んできた難しいシュートを右手一本で見事にセーブ。後半、さらに攻勢をかけてくる相手に多くのピンチを招いたが、慌てることはなかった。79分の森田晃樹の強烈なシュート、84分の深澤大輝のコントロールショットも次々にストップ。アウェイの地で苦しみながらも無失点に抑え、勝点1を手にした。

「シーズン通してこういうようなゲームは絶対にあるので、その中で勝点を落とさなかったというのはポジティブですけど、逆に僕らの中では誰も納得いっている人はいないので、そういう意味では、勝てた試合だったのかなと思います。後半はセカンドボールが全く拾えなくなって相手の時間が増えて、ああいうシュートをかなり打たれていたので、本当に正直に言ったら(失点するのは)時間の問題でした。そんな中で、守備としてはギリギリまで我慢できたので、0(無失点)で終われたところは、とりあえずよかったと思います」

勝てなかった悔しさはあっただろうが、自らのプレーに手応えを感じつつ、自信に満ちた表情で試合後取材対応してくれた小畑。そんな頼もしい姿をこの日目の当たりにして、彼が以前誓った「『小畑だったら大丈夫』と思ってもらえるような安心感や信頼というものも勝ち取らなくてはいけません」という言葉が現実になる瞬間に出逢えたような気がして、筆者の中で感慨深い気持ちが沸き起こった。

振り返れば、小畑にとって紆余曲折の1年だった。アカデミー時代から11年所属した仙台から今シーズン移籍してきた背番号24は、開幕戦で福岡デビューを飾り、3試合連続でゴールマウスを守った。しかし、チームは3連敗。失点を重ねる中で、スタメンの座を明け渡した。

「初めての移籍でいろんな環境が変わった中で、開幕戦にスタメンで起用してもらったのですが、3戦勝ちなしという結果をはじめ、その後サブのときもあれば、メンバーに入れないときもあり、いろんな状況があって非常に難しかったですね。改めて振り返れば、あの3試合は、自分がやりたいことを周りに伝えることもできず、なかなか形として結果に出せませんでした。でも、逆にそういう期間があったからこそ、一歩引いたところから自分を見ることができました」

試合に出られない時期も決して腐ることなく、前向きに捉え、自分自身を客観的に見つめ直した。小畑の最大の特徴は、足元の技術の高さを活かした攻撃への関与。自らの武器にさらに磨きを掛け、6月のJリーグYBCルヴァンカップ プレーオフラウンド・広島戦から再び本格的に出場機会を得る。

「大きく変わったのは、ポジションを取る準備や、一人ひとりのボールの受け方、パスの質でしょうか。まだまだ改善していかなくてはいけない部分はありますけれども、そこの質や準備のスピードというのが一番変わったのかなというふうに思います。僕が高い位置にポジションを取るメリットもあれば、もちろん、そうすることのリスクもあるので、周りを早く準備させなければいけません。ただそれは僕一人でできることではなく、みんなが繋がっていかないとやれないことなので、そういう意味では、そこの質は開幕当初と比較すれば、だいぶ上がったなというふうに思います。

最終ラインに加わってボールを回すというのは(金)明輝監督の戦術もあるのですが、正直、こんなに高い位置でプレーしたことは高校のときも含めてなかったですね。今はもう普通にやっていますけれど、やはり最初は慣れない形だったんで恐怖心もありましたし、すぐに味方にパスをつけて、相手に矢印を向けられてしまうという形もありました。試合を重ねる中で、徐々に、徐々に、良くなってきているとは思いますけれど、僕自身、こういう形でやるのは今年が初めてです。明輝さんから具体的に『ここに入ってほしい』とか、『こうやってほしい』と言われたというよりも、『ここに入ってこれたらチームとして楽』というような話があって、それでいろいろと試行錯誤をしながら、結局、自分で判断して今の形になったというか…。今は相手を押し込んでいる時にハーフライン近くまで行ったりしていますが、あそこに入ると、失った時のリスクが大きくてセンターバックの縦パスが難しくなるので、最初はあまりやっていなかったんですけれどね。監督から言われたわけではなく、自然と今のような形になっていました。

前提条件として、練習の中で培ったお互いの信頼関係や、お互いの技術力というのを信用した中での立ち位置というのがあります。でも、GKとしてのそもそもの役割はゴールを守ることで、まずはそれを最優先にした中での攻撃参加ですから、失うかもしれないという意識は常に持ってプレーしています。例えば、我々のセンターバックが縦パスを入れたときには、もう自陣のゴール前へ走り始めたりと、攻守の切り替えという部分は強く意識しています。僕の立ち位置を見てミドルシュートを狙うというのは、どのチームも考えていることだと思いますが、逆に『いつ打ってきてもいいよ』というくらいの思いで準備はしています。ですから、走行距離とかも意外と伸びていたりするんです。天皇杯3回戦の北九州戦はPK戦までもつれたこともありますが、走行距離は9キロ弱ありました。高い位置を取っているときだけではなく、どういう状況の時に、どこにポジションを取っているか、どのタイミングで戻っているのか、そういったところを見てもらえると、さらに面白みがあるかもしれません」

もちろん、GKとして最も重要視されるのは失点を防ぐこと。その為に冒頭に記述したシュートストップのみならず、守備のあらゆる面に磨きを掛けている。例えば、東京V戦の13分、前方にポジションを取り、高く設定した最終ラインの背後の広大なスペースをケアしながら、その隙を狙って放ってきた染野唯月のロングシュートに対して素早く戻って冷静に対応する姿や後半多くなった相手のハイボールに対して何度も果敢に前へと飛び出し、守備範囲広く対処する姿を見ると、この1年、彼が試合を重ねるごとに自信を深め、成長していることを実感する。

「僕以外の3人のGKも素晴らしい選手ばかりでかなり質の高い競争だと思います。みんなが持っているもの、特徴がそれぞれ違いますし、それぞれの得意なところで勝負すれば、それぞれがトップに立つでしょうし、そういう仲間と切磋琢磨できる環境は刺激的ですね。キーパーとしてゴールを守るというところは、最低限やっていかなければいけないですし、僕らのチームのGKは、そういう(守備の部分で特徴がある)選手が多いので、見て盗むところであったりというのを年間通してやっていて、それがクリーンシートに繋がっていると思います」

村上昌謙、永石拓海、菅沼一晃。日々、レベルの高いGKたちとしのぎを削りながら今、ピッチに立つ小畑。東京V戦で仲間とともに4試合連続クリーンシートを達成し、自信を胸にホーム最終戦へと臨む。

「GKコーチとも連続でクリーンシートというのは目標にしていこうということは話していました。やはりクリーンシートにすれば負けることはないですし、勝点を積み重ねることができます。ただ、それは僕だけではできないので、そういう面ではやっぱりフィールドプレイヤーにも感謝していますし、僕もまだまだ貢献していかないといけないと思います。前節(の湘南戦でJ1)残留が決まった中で、ホームでああやって勝ちを届けられてすごく嬉しかったですし、やはりサポーターの方もそういう勝ちを望んでいると思うので、ホーム最終戦しっかり勝ってサポーターと一緒に喜びたいと思います」

ここまでGK陣でチーム最多の18試合に出場し、すっかり福岡の守護神に定着した小畑。11月30日、ホームの地でも成長した姿をしっかりと見せてくれるはずだ。

Reported by 武丸善章