
11月9日の明治安田J1リーグ第36節(ガンバ大阪戦)で引き分けたヴィッセル神戸は、その時点でリーグ3連覇への道が絶たれた。試合後のミックスゾーンに現れたキャプテン山川哲史は毅然とした態度でメディア取材に応じていたものの、どこか宙を見るような、いつもとは少し違う様子だった。
G大阪戦の後、2日間のオフを挟んで11月12日にチーム練習が再開された。練習前には長めのミーティングが行われ、吉田孝行監督は残りの戦いで神戸がめざすものを選手たちと再確認したという。
「天皇杯優勝とリーグ3位以上。ACLEは年内にあと1勝しておけばリーグステージ突破の8位以内は固いと思う。そういうことを伝えた上で、目の前の試合(天皇杯準決勝)に向けての話をしました」

この日の練習は、軽くフィジカルトレを入れたウォーミングアップなどで身体を起こした後、ロンドやミニゲームなどが行われた。オフ明けのいつものメニューである。どんよりと沈んだ空気ではないものの、この日のように陽気な雰囲気でもない。天皇杯準決勝の広島戦に向けて、たんたんと調整しているような印象を受けた。

サンフレッチェ広島戦について吉田監督は「ルヴァン(カップのタイトル)も獲って、ここに来て調子も上がっている。相当な覚悟がないと勝てない」と話す。
神戸、広島ともにインテンシティーの高いサッカーが信条で「肉弾戦のような戦いになるのは間違いない」とも話す。その中で、勝つためには“気持ち”の強さが必要になるだろう。あるいは勝利への渇望だ。

囲み取材の中で、吉田監督が話した「単純にタイトルに飢えている」という言葉が耳に残った。リーグ3連覇が絶たれた今、神戸は天皇杯を全力で獲りに行く、その覚悟のような言葉だ。
その言葉を聞いた後でこの日の練習を思い返してみると、たんたんと調整しているように見えた風景が違う印象になった。そう「虎視眈々」である。黙々とメニューをこなしながらも、選手たちの内側には熱いものがたぎっている。11月12日の練習は、再び立ち上がるための大事な1日に思えた。
Reported by 白井邦彦