
FC今治にとって、J2初年度でのJ1昇格の可能性が消滅した明治安田J2第36節・モンテディオ山形戦。1-2で敗れた試合の90分、左ウイングバックの弓場堅真は、抜け出そうとした山形MF氣田亮真を倒し、決定機阻止で一発退場となった。
瞬間的に「転ぶほどのファウルじゃないでしょ?」と主審の須谷雄三レフェリーとコミュニケーションを取ったが、「映像で見直したら、僕かコタくん(GK立川小太郎)がファウルで止めなければ、氣田選手にかわされて失点していました。レッドカードは仕方ない」と納得した。
72分に通算4枚目となるイエローカードを受けていたので、合わせて2試合の出場停止。退場したため、チームとともに試合後、サポーターへあいさつすることもかなわず、ひと足早く2025シーズンが終わることになった。
国士舘大学からJFLのHonda FCに加入したのが2年前。昨年、完全移籍でJ3の今治の一員になると、左右どちらでもプレー可能なウイングバックとして夏以降、レギュラーに定着した(25試合出場1得点)。163cmと上背はないものの、小気味よいドリブルで果敢に勝負し、利き足の左から鋭いクロス、シュートを放つ。また、セットプレーのキッカーとしても存在感を発揮して、J2昇格に貢献した。そして今季は36節終了時点で34試合に出場し、2得点と、戦いの舞台が一段階上がって、さらなる輝きを見せた。
「シーズンが始まる前は、J2がどういう世界なのか、自分がやれるのか、本当に分かりませんでした。『きっとすごいやつらばかりで、毎試合、打ちのめされて、悔しい思いをするんかな』と想像していましたけど、チームも自分もやれる部分はたくさんありました。まだまだなんですけど、『俺、こんだけできるんや』と自信を付けることができた。本当にいい経験ができたシーズンになりました」
大阪府出身で、今も変わらず関西のイントネーションで話すレフティーにとって、初めて挑んだJ2はどのような舞台だったのか。
「僕は、考えすぎると自分の特徴を出せないんです。それもあって、去年の後半のプレーで得られた感触を出し続けたいという気持ちがありました」
昨季、チームを昇格に導いた服部年宏監督(現ジュビロ磐田U-15監督)の下で、瞬発力とスピードを全面に、思い切りの良いプレーで戦い抜いた手応えがあった。今季、新たに今治を率いる倉石圭二監督がこだわるのは、攻守のハードワークに加えて、ボールを奪った後の攻撃の高いクオリティーである。
「クラさんにはボールをつなぐところで、去年以上のもの、足元の技術が要求されます。どちらかというと、自分は『走ってなんぼ』というタイプ。足元は決して得意とするところではないんですけど、監督とも話して、『自分のプレーを最大限出せるように、考えながらやってほしい』と言われて、すり合わせていきました」
J2でも戦える自信をつかんだのは、夏のナイトゲームが始まるころ。「試合をやっていくたびですね。『これでは、まだ粗削り過ぎる』『これだと考えすぎで、もっと自分を出した方がいいんかな』といった具合に、試合を重ねながらああでもない、こうでもないと考え、プレーし続けていきました」。8月9日の第25節・ロアッソ熊本戦では、横山夢樹の右からのクロスをファーサイドでダイビングヘッド。このチーム3点目が、貴重な決勝ゴールとなった。
シーズン残り2試合となるところで、J1昇格プレーオフへの道が断たれたチームに足りなかったもの。それは、まさに決定力だと即答する。
「ヴィニ(マルクス ヴィニシウス、36節終了時点で16ゴールを挙げ、リーグ得点ランキング2位)、夢樹(6ゴール)が自分たちの得点源になっているけれど、毎試合、2人が決めてくれるわけじゃない。彼ら以外でも、誰が点を取れるのか。そこが大きかったと痛感しています。
J3では、点を取らなくても相手のミスに助けられて負けない試合もありました。でも今年は、点を取られないとやられてしまう。自分たちが攻撃力で上回らないと勝てない、そんな試合がたくさんありました。去年よりも、はっきり出た部分でした」
チームが残すのはホーム、アシックス里山スタジアムでの今季最終戦となる第37節・コンサドーレ札幌戦と、J1昇格が懸かるジェフユナイテッド千葉とのアウェイでの最終節の2試合。倉石監督はチームを先発メンバー、ベンチスタートのインパクトメンバー、試合のメンバー入りを目指すネクストメンバーの3つのグループで捉えるが、弓場が求められるのはネクストメンバーの一人として、チームがあと2勝、上積みするために貢献することである。
「もちろん昇格を目指してやってきたし、チャンスがある状況でモチベーション高く最終節を戦いたかったです。その可能性が無くなったのは残念だし、気持ちの持って行き方も簡単ではないかもしれない。それでも最後2試合、自分たちの成長のために戦いたいと思います」
J2で1年間、戦い切った自信を全面に、チームの準備の質をとことん上げていく。
Reported by 大中祐二