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【取材ノート:琉球】キャプテンの帰還――佐藤祐太、3か月の苦闘を経てピッチへ

2025年11月20日(木)


11月16日、相模原ギオンスタジアム。
明治安田J3第36節・SC相模原戦の後半30分、スコアは1-3。厳しい状況の中で、ついにベンチ前に背番号24が立ち上がった。

キャプテン・佐藤祐太。

軽く足を弾ませ、右脚の反応を確かめる仕草には、緊張よりも「確かめに行く覚悟」が滲んでいた。


13試合ぶり、約3か月ぶりの復帰。ピッチに踏み出す一歩は、ただの復帰ではなく、長い間抱え続けた「もう一度、仲間の真ん中で戦いたい」という願いが結実した瞬間だった。投入後すぐに彼は味方へ声を張り、中盤のラインを整えに走る。その10分間に刻まれたのは、プレーの多さではなく、戻ってきたことの意味をチームへ示すような存在感だった。

佐藤が倒れ込んだのは8月19日のトレーニング終盤だった。練習でのゲーム中、後ろから体を預けられた瞬間、「右もも裏に『ぶちぶちぶち』という感覚」があったという。筋肉が上から順に剥がれていくような、経験したことのない感覚。剥離していく感触が自分の身体の内部から伝わってきた。

「裂けたっていうのが一番しっくりきた。『ああ、これはやばいな』って。悟った感じでしたね」。
彼は数歩進んだところでそのまま崩れるように座り込んだ。立ち上がろうとするが、脚がついてこない。駆け寄ったスタッフが肩を抱くと、彼はしばらく黙ったまま空を見上げていた。このときチームは5試合2勝3分と好転の兆しが見えてきた頃。その沈黙には痛み以上に、このタイミングで離れる悔しさが滲んでいた。

診断は「右ハムストリングス腱膜損傷」。復帰時期が読めない怪我だった。痛みは1週間、2週間と体から抜けず、痛みが走るたび、あの瞬間がフラッシュバックのようによみがえった。キャプテンとしてチームを置いていく苦しさを抱えながら、「一日でも早く戻るために最善を尽くす」という強い意志でリハビリは始まった。

復帰までの3か月は「今まで体験したことのなかった苦しさ」だった。松葉杖の生活を終え、ランニングを再開し、スプリントを許可されるまでの長い期間、彼はスタンドやモニター越しにチームの試合を見続けた。
勝利した試合では、仲間と喜び合う姿を想像し、厳しい敗戦の日には「自分ならどの局面で流れを変えられたか」を考え続けた。だからこそ、「早く戻りたい」という焦りだけでなく、「戻ったときに必要とされる自分でいたい」という思いが強くなっていった。復帰にかけた3か月は、彼にとって心を磨く時間でもあった。



リハビリの日々、佐藤はサポーターと同じ気持ちでチームを見ていたという。

「練習では手を抜くやつなんて一人もいない。なのに試合で結果が出ない。そのもどかしさがすごくあった」。
チームが勝てない時期は悔しさと苛立ちが入り混じった。そして同時に「自分に何ができるのか」を考えた。少し動けるようになると、選手たちに声をかけ、気持ちを触ろうとした。

「どう鼓舞できるか。どうやったら前を向かせられるか」。
外から言う言葉には限界があると分かっていながら、それでもできることを探した。

「外から言うのと、中で一緒にやって言うのは全然違う。一緒にピッチに立って、同じものを感じながらプレーして、そこで話したかった」。
彼が戻りたいのは、試合に出るためだけではない。チームの中で戦う人間として、感じたことを共有し、言葉をかわし、同じ方向を向かせる。その役割を、彼は怪我をしていても忘れなかった。

復帰戦は1-4の敗戦。ただ、彼にとっての10分間は、再スタートとして十分な内容だった。ボール奪取やデュエルの数は統計的には小さな数字に映るが、「10分だけ」という条件を踏まえれば、シーズン序盤に見せていたボール奪取力を取り戻しつつある証拠だった。
何より、彼がピッチに入った直後の数プレーは象徴的だった。中盤のこぼれ球に真っ先に触れ、体をぶつけ、前向きのパスを引き出す。そこに戻っていたのは、「キャプテンがいるとチームが締まる」というあの感覚だった。この10分は、数字では測りきれない「復帰にかけた思いの結晶」だった。
今季、負傷前まで佐藤は23試合中22試合先発。タックル数はリーグ1位で、琉球の守備バランスを支え続けてきた中心選手だった。その選手が戻ってきた。終盤戦に差し掛かるチームにとって、それは大黒柱が再び刺さるような感覚だ。

10分の復帰を終えたあと、佐藤の表情には安堵と悔しさと、そして僅かな光が混ざっていた。「ここからだ」と言っているような眼だった。もちろん、すぐにフル稼働とはいかない。だが、彼が再び90分を走り切るようになれば琉球の中盤は大きく姿を変える。
佐藤祐太は、ただ怪我から戻ったのではない。キャプテンとしての誇りと、3か月分の思いを両肩に背負って、チームの中心へ帰ってきた。
ここから、彼の復帰の物語は本当の意味で始まる。

Reported by 仲本兼進