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【取材ノート:神戸】なぜ神戸は天皇杯2連覇を逃したのか。町田・昌子の“涙”に1つの答えがある

2025年11月27日(木)
105回目となる今年の「天皇杯 JFA 全日本サッカー選手権大会(天皇杯)」を制したのはFC町田ゼルビアだった。大会2連覇をめざしたヴィッセル神戸は3失点の屈辱を味わって敗れた。


敗因は何か。初優勝にかける町田の想いが勝ったのか、それとも神戸が決勝という独特の雰囲気に飲まれたのか。

答えは1つではないだろう。ただ、1つだけ気になる点があった。誤解を恐れずに言えば、この勝利を「誰に捧げたいか」に違いがあったのではないだろうか。

明治安田J1での対戦成績は神戸が2勝1分1敗で白星を先行させている。今季は1勝1敗だが、“経験値”では神戸がやや優勢かと思われた。

だが、神戸はストロングポイントを町田にうまく消された。例えば、大迫勇也の競り合いから、武藤嘉紀や佐々木大樹、宮代大聖らが相手DFの裏へランニングするパターンは町田の徹底したカバーリングに潰された。それでも神戸はクロスから何度か決定機を作り、それを決めていれば優勝の行方はまた違った結果になっていたかもしれない。逆に言えば、それを許さなかったのが町田DFでもあった。

町田のディフェンスリーダー昌子源は試合後のピッチインタビューで、目に熱いものを溜めながらサポーターへの感謝を述べた。背景には、5失点を喫した明治安田J1第28節の川崎フロンターレ戦でのエピソードがある。試合後にはこんなコメントを残している。

「5失点して下を向いていた時、厳しい声もあった中で“顔を上げてほしい”と言っていただいた。その光景を忘れることができません。自分のため、チームのため、家族のためを思うことが多い中で、ファン・サポーターの皆さんのためにも頑張らないといけないと感じました。その恩を返すのは決勝だと決意して臨みました。場内のインタビューで泣くつもりはなかったですが…。“昌子、ありがとう!”という声がメインスタンドの方から聞こえたことがうれしかったです」

もちろん、神戸もサポーターとの絆は深い。1995年の阪神・淡路大震災から30年をトモニ歩んできた歴史もある。ただ、この天皇杯決勝に関しては町田が少しだけ上回っていたのかもしれない。

戦前、吉田孝行監督をはじめ、神戸の選手たちは「チーム全員で勝ち上がってきた決勝戦」といったニュアンスの言葉を口にしている。大怪我で今季を棒に振ったGK新井章太しかり、決勝の舞台に立てない選手たちのためにも連覇を達成したいとも話している。もちろん、サポーターへの感謝も聞かれたが、天皇杯の勝利を「誰に捧げたいか」のベクトルは「チーム」に向いていたのかもしれない。

この話は個人的な感想に過ぎない。ただ、昌子の涙に感じる部分もあった。

Reported by 白井邦彦