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【取材ノート:藤枝】小兵GKの希望。北村海チディのポテンシャルと成長過程

2025年11月28日(金)
前節・鳥栖戦ではチーム一丸の粘り強い戦いで勝点1をつかみ取り、自力でJ2残留を確定させた藤枝MYFC。プレーオフ進出に向けて必死の猛攻を仕掛ける鳥栖を無得点に抑えきった守備に関しては、GK北村海チディの働きも非常に大きかった。

とくに88分の右CKから今津佑太が放ったボレーシュートを至近距離で止めたビッグセーブは、今季の名シーンのひとつとして語り継がれるだろう。

身体能力以上にポジショニングの良さが武器に

北村は、桐蔭横浜大学から藤枝に加入してプロ3年目のGK。1年目から出場機会をつかんで着々と成長し、今季は37節まで全試合フルタイム出場を続けている。

身長は178cmとGKとしては小柄と言われるが、ナイジェリア人の父と元体操選手の母の血を受け継いで身体能力はとにかく抜群。とくに全身のバネが素晴らしく、それを武器にプロ入り当初から「小さいキーパーたちに夢や希望を与えられる選手になりたいです」と語ってきた。

チーム内でもジャンプに関する各種の測定で飛び抜けた数値を叩き出し、キックの飛距離もJリーグのGKの中で屈指。ハンドスローもゴール前から投げて楽々ハーフウェーラインを越えていく。北村がジャンピングセーブを見ると、ネコ科の野生動物のようなバネや躍動感が感じられる。

さらに今季は、個人スタッツでも堂々とした数値を各種データサイドで確認できる。

J2リーグのGKの中で、セーブ総数1位、セーブポイント1位、PA内シュートセーブ率5位、1試合平均セーブ数7位。攻撃面でも、パス総数とパス成功数がGKでは1位。ロングパス総数はフィールドプレーヤーを含めてもダントツのリーグ1位だ。自陣から一発でセンターバックの裏まで飛ぶ北村のキックは、相手のハイプレスを無効化する意味でも大きな役割を果たしている。

また1試合平均走行距離も、J1のGKで4~5kmと言われているが、北村は平均6kmを越え(チーム内計測)、7km以上走った試合も多いという。この飛び抜けた走行距離とパス数は、GKもフィールドプレーヤーと同様にビルドアップに関わっていく藤枝のスタイルによる影響が大きいが、阿部謙作GKコーチは彼の攻撃センスによる面も大きいと言う。

「チディは自分がパスを出す選手のことだけでなく、次につなぐ選手の立ち位置も意識してポジションをとっているんですよ。次につなげるためには、自分がこの角度に立たないといけないとか意識して細かく動き直しているので、走行記録も伸びていると思います」(阿部コーチ)

そのポジショニングのセンスは、守備でより生かされている。

「シュートでもクロスでもGKが届く距離は決まっているので、その範囲の円をどこに置くかが重要です。その意味でチディはすごく良いポジションがとれていると思いますし、だから背は高くないけどクロスにも積極的に出られる。クロスに出られなかったときのポジション修正も良いので、鳥栖戦のようなセーブ(冒頭で紹介したシーン)もできるんだと思います。ポジショニングのエラーが本当に少ない選手で、それは状況に応じて無意識に身体が動くように日々の練習の中で培ってきたものです。そこが彼の一番の持ち味と言ってもいいと思いますし、身体能力だけでなく、そこでも身長の不利を補えていると思います」(阿部コーチ)

また阿部コーチによると、北村のロッカーは整理整頓が行き届き、衣類もきちんと畳まれて非常にきれいだとのこと。明るいキャラクターでチームの盛り上げ役を担うことも多いが、細かいところまで気を配る繊細さも兼ね備えている選手だ。

日本代表の先輩GKにも刺激を受けて

こうしてJ2有数のGKに成長してきた北村。今季伸ばせた部分について、本人は次のように語る。

「どんな状況になっても慌てずにプレーできるようになったのが、今年試合に出続けて伸ばせたところだと思います。まだミスもけっこうありましたけど、その後のプレーで大崩れすることなく、いつも通りにプレーすることができるようになったのかなと。シュートストップやクロス対応の部分でも、自分のところで収める回数を増やせたと思います」(北村)

藤枝はGKがペナルティエリアを飛び出してビルドアップに参加し、最後尾から細かくパスをつないでいくので、自陣でミスが出ると即失点につながることが多い。今季も、北村自身のミスから失点に至ったシーンも何度かあったが、そこで自分を見失ってプレーが乱れるというシーンは見られなかった。

その背景には「副キャプテンになってプレーに対する責任感も強くなったと思いますし、チームをまとめる仕事とか、須藤さん(須藤大輔監督)からはチームのことを考えた立ち振る舞いを求められているので、そこも意識しています」(北村)という想いもある。

ただ、須藤監督は「メンタル面はまだ物足りないです。良いときは良いけど、全部の試合でできているわけではないし、期待してる選手だからこそ厳しく言いたいと思っています。つねに周りに対して良いオーラを出せる選手になってほしいです」と、あえて厳しい要求を課している。

北村自身も、その期待を前向きに受け止め、より高いところを目指す意識を高めている。

「(自分自身の)欲はかなり大きくなってますし、代表に入ることを目指してます。そのために、まず(藤枝を)J1に上げることが大事ですし、世界にも行きたいと思ってます。鹿島の(早川)友基くんが代表で待ってるよと言ってくれたので、じゃあ待っててくださいと伝えました。小さいキーパーたちの希望になるためにも、もっともっと頑張らないといけないと思っています」(北村)

日本代表GK早川友基は桐蔭学園高の出身で、桐蔭OBつながりでオフのトレーニングを一緒にやる機会があり、技術だけでなく姿勢も含めて大きな刺激と学びを受けた。そして今季はプレーのクオリティも、守護神としての自覚も、上昇志向も大いに高めてきた。

来季は個人昇格する可能性もあるだろうが、GKに対する要求レベルが非常に高く、リスクを冒してチャレンジする姿勢も奨励する藤枝MYFCは、ポテンシャルの塊である25歳にとって最高の環境であることは間違いないだろう。

Reported by 前島芳雄