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【取材ノート:東京V】いざ、鹿島戦!今季、怪我での長期離脱に苦しんだ林尚輝が、初の古巣対決で苦境から得た収穫を証明する

2025年11月28日(金)
今季の明治安田J1リーグもいよいよ残り2試合となった。3週間の中断期間を経て迎える今節第37節、東京ヴェルディは首位・鹿島アントラーズが対戦相手だ。鹿島はこの試合に勝てば9年ぶりのリーグ制覇の可能性がある(勝点1差の2位柏レイソルが敗戦の場合のみ)。東京Vにとっては今季ホーム最終戦となるだけに、何としても勝利して味の素スタジアムでの優勝決定は阻止したいところだ。

この状況に、人一倍闘争心をたぎらせているのが林尚輝である。「個人的には応援はしていますが、目の前で、特に僕らのホームで優勝は絶対に見たくない」と、“古巣”だからこそのフクザツな感情が胸に渦巻いている。

林は今季、怪我の連続に長く苦しんできた。

昨季の反省と向上心から、「もっと進化したい」「成長したい」と、フィジカル、プレーの質などあらゆる面から前向きにトライし、負荷をかけて今年を迎えた。だが、結果としてそれが裏目に出てしまった。

「新しいことをするって、けっこう難しいこともあって。その中での怪我もけっこうあったんです。自分はもっとやりたい。でも、体的にはその方法は少し違っている、みたいな。うまく自分の体と向き合えていないことで、大きな怪我をしてしまいました」

開幕に間に合わず、今季初出場は第5節アルビレックス新潟戦(3月8日)だった。その後、7試合連続先発出場が続くも、4月後半に再び戦線離脱。一度、第24節FC町田ゼルビア戦(7月20日)での途中出場で復帰を果たしたが、再び悪化し、以後9月15日の第29節FC東京戦(ベンチ入りのみ)まで、トータルとして約5カ月間の長期離脱を余儀なくされたのだった。

5カ月―

それは、林にとってあまりに長い時間だった。「その怪我の期間で、自分と向き合う時間はすごく長かったですし、向き合っても、その向き合ったことが報われないこともたくさんありました。だけど、逃げずに向き合い続けたことで、例えばトレーニングについて。何を意識するかで、その方法はまったく違ってきますし、一般的にコンディションを上げるようなトレーニングでも、実は自分の骨格などによって、そのやり方が適してない場合もあるということを学ぶことができました。自分自身では良いトレーニングをしているつもりでも、そのフォームが、実は意識していたものと真逆の形になってしまっていたら、それを繰り返していくことで、よけいに怪我の元にもなってしまっていました。鍛えているはずなのに、怪我の元を作ってるみたいな感覚。正直、自分は今までそれでパフォーマンスを上げてきたという自負もあったのですが、実はそのトレーニングこそが怪我に繋がっている部分もあったということが発見できたことは、今後のためにも本当に大きかったです」

食事面についても貪欲に勉強した。「筋肉系の怪我が多かったので、筋肉に対するフォーカスをいろいろな方向からしようと思って、すべてを見直してみました。今まではなんとなく、『こういう栄養素とか食品を摂った方がいい』みたいな感じだったのですが、今の自分の状態では何を摂った方がいいとか、どのタイミングで摂取した方がいいというところまでこだわれるようになって。それは、間違いなく今年のこの怪我の期間があったからだと思っています」

トレーニングや栄養面の概念が変わったことで、林のパフォーマンスは復帰後、明らかに安定感とキレを増した。「僕の場合、取り組みを変えたことで怪我につながってしまったところからの今季スタートでしたが、逆に言えば、怪我をしないと変えづらいところもあるんですよね。というのは、今まで自分がそれで良くなったという実績もあるので。なので、『これをやめた時に、今の良かったパフォーマンスが出せなくなるんじゃないか』という迷いもあったんですよ。ただ、今年の場合はそんなこと言っていられないぐらい怪我をしましたし、めちゃくちゃ悩みました。だからより一層、『変えるチャンスを与えてもらった』と思えた。それで、リハビリ期間中からいろいろと新しいところに踏み込んでみたり、逆に、昔自分が大切にしていたことに立ち返ったりしたり。そういう時間が本当に必要な時間だったなと、今ははっきりと思えます」。実際、9月20日第30節ファジアーノ岡山戦での復帰以降、林が出場した6試合は3勝2分1敗、3失点。クリーンシートは4試合と、チームとしても鉄壁の守備力を発揮している。

チームが残留争い渦中、しかも4試合連続未勝利という苦しい状況下で復帰し、ついに第35節清水エスパルス戦後、J1残留を手にすることができた。試合を重ねるにつれてコンディションもパフォーマンスも上がっている中で、チームとしても個人としても「もっと成長するために、挑戦できる2試合」だと位置づける。

「今までは守備を徹底してきて、チームとして積み上げてきたものがあるので、それは継続していく必要があるのですが、そこに加えて、攻撃でどうやって違いを作っていくかのトライを、残留が決まってから取り組んでいる部分です」

東京Vは今季ここまでリーグワーストの22ゴールと、深刻な得点力不足を露呈している。そのため、残留が決まってからは、東京Vではこれまで以上に「得点」にフォーカスした練習が続いている。当然、ディフェンダーとはいえ、林にも大きなチャレンジと成長が求められてくる。

「今までの立ち位置よりも、自分も少し挑戦的な立ち位置をとる必要があるのかなと思っています。今まで深さを取って、安定したポジショニングというのを意識していましたけど、自分が攻撃的にスイッチを入れられるようなポジションというのも意識しないといけないですし、逆にそこを怠って深さを取らなくなったら、チームとしてハマってしまう部分が増えてしまうので、そこの駆け引きというのは、自分自身ももっと運動量を増やしてやらないといけないかなと思っています。特に、距離を取るところもそうですが、あえて近づくところであったり、逆サイドの選手を高い位置に上げさせておいて自分がそのポジショニングを取ったりというのは、自分の成長も含めて、チームとしても試合でチャレンジしたい部分ではあります」

そんな、チームとしても個人としてもチャレンジに燃える中で迎える古巣対決だ。東京Vに加入して3年目を迎えているが、過去2シーズンは期限付き移籍だったため、契約上、鹿島戦の出場は認められなかった。今季の第2節での対戦ではメンバー外だったため、これが初めての古巣との対戦となる。

実は、林は清水戦で右手親指を負傷している。それでも、「鹿島戦が控えているので、絶対に離脱したくない」と、日頃のトレーニングから決してパフォーマンスを落とさずにプレーし続けてきた。

そしてもう1つ、林は自身の古巣への格別な感情とともに胸にしている想いがある。

「幸い、僕たちは残留を決めることができましたが、自分たちが残留できたということは、降格が決まってしまったチームもあるということです。そのチームからすると、僕たちの立ち位置はものすごく羨ましい立ち位置に映ると思いますので、そういう想いをしている人がいることを忘れずに、自分たちは最後の最後まで1つでも上の順位を目指して戦う責任があるのかなと思っています」

その意味でも、鹿島の優勝阻止は至上命題だ。

林にとって、間違いなく記憶に残るであろう初の古巣戦。必ずや成長を示し、いい記憶として今後のサッカーキャリアの糧としたい。

Reported by 上岡真里江
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