
静かな覚悟と、次へ続く足跡
背番号10を背負う富所悠にとって今季は静かに、しかし確かな輪郭を残した一年になった。38試合中34試合、2,606分出場という数字は、チームの中心として託された責任の大きさをそのまま映し出している。7ゴール3アシストを記録し、チーム最多タイのゴール数を刻んだが、本人の表情には手応えと物足りなさが入り混じっていた。
戦術の変化と、攻撃の芽生え
4バック時はトップ下、3バックでは主にシャドーとして先発を重ねた富所。しかしピッチで感じたのは、自分が生きるはずの前線で長くボールを持つ時間が限られているという現実だった。サイドから崩す意識が強かったリーグ戦序盤は距離感が噛み合わず、思い描く連係が形になる場面は少なかった。転機は5月17日の第13節・北九州戦(●0-1)。「もっと中からも攻めていこう」という意識がチーム内で共有され始めると、富所の足元にボールが集まりだし、彼がリズムを生む時間が増えていった。攻撃の方向性は少しずつ変わり始めた。第21節・福島戦(△3-3)での2ゴールは、チームにとっても富所自身にとっても確かな成功体験に。勢いのまま、前向きに仕掛けるスイッチが全員に入った感覚があったという。そして第37節の鹿児島戦(△1-1)では、鋭く動いた藤春廣輝にボックス内でさらりとヒールでボールを預け、先制点の起点を演じた。愛媛から8月に加入した石浦大雅との相性も良く、細かな感覚が合う選手が加わったことで、富所の判断がより滑らかにボールへ伝わり、攻撃の幅が広がっていった。

物足りなさの正体
それでも富所は、攻守の切り替えにさらなる可能性を感じていた。守備での貢献を意識する中で、ボールを奪い返した直後の攻撃への移行にもっと工夫の余地があると考えていた。彼自身にとっても本来大事にしている遊び心が薄れ、「余裕を示すようなプレーが減った」という。一つのボールに食らいつく姿勢を示しながら、同時にチームを柔らかくする表情を出すことができていたか…ふと胸に浮かぶのはその問いだった。
笑顔で送る背中、自らが導く明日
いつもそばにいた盟友・岩渕良太の存在は、そんな揺らぎの中での大きな支えだった。阿吽の呼吸で動ける相手は多くない。昨季の第10節・長野戦(○4-3)でのアベックゴールは二人にとって特別な時間で、「サッカーって楽しい」と自然に思えたという。今季限りでの引退を表明した岩渕を「最終戦は彼を笑顔で送り出したい」。そう願った富所の思いは深かった。最終戦はJ2昇格を狙う八戸との対戦。結果は1-1の引き分けで、琉球の今シーズンが終わった。真摯に取り組んできたからこそ、結果がついてこなかった悔しさは小さくない。けれども、シーズンを通して得たものは確かにあった。中央を使う感覚、攻撃の完結を意識する重要性、若手に伝えるべき判断の部分…これからにつながる線ははっきり残っている。
10番を背負う責任と、チームを前に導く役割。富所悠が今年刻んだ足跡は次へと続く。盟友との時間を胸に、静かな覚悟を秘めた表情の先に新しいシーズンが待っている。
Reported by 仲本兼進