
ピンチを未然に防ぎ、チャンスへとつなげていく。明治安田J1リーグ第38節・名古屋戦でもボランチの松岡大起はしっかりと存在感を示した。
立ち上がりから福岡は、相手のマンツーマンディフェンスを裏返すべくロングボールを多用する中で、松岡はセカンドボールを前向きに数多く拾ってゴール前へ。ボールを奪われれば素早いチェックで即時奪回を狙い、ゴール前に押し込まれれば体を張って際での強さを発揮する。90分間通して高い強度とこの日チーム2番目の走行距離(11.948km)となる豊富な運動量で攻守にチームを支えたが、終了間際に失点して敗戦。今シーズン最終戦を白星で飾ることはできなかった。
「たくさんの方々が応援に来てくれていたので、最後勝って終わりたかった」
今、在籍するメンバーで戦える最後の試合。その雄姿を見届けようとアウェイの地まで駆け付けてくれた大勢のサポーターの為にも何としても勝ちたい。そんな松岡の強い想いは、プレーを見ながらひしひしと感じ取ることができた。それと同時にこの1年でさらにたくましくなった彼の姿を見ることができた試合でもあったように思う。
福岡にやって来て2年目となる今シーズン、松岡にとって鳥栖のアカデミー所属時から薫陶を受ける金明輝監督が就任。約4年ぶりに再会を果たした指揮官からは、高いレベルのアプローチを受けた。
「一人一人の個人的な駆け引きだったり、一人でボールを奪い切るだったり、(相手のマークを)外すだったり、その個人戦術のところは守備も攻撃も、両面で一人で何ができるかというのは常に求められています。その中で、毎試合、毎試合入っていく中で、相手の特徴だったり、チームのカラーだったりがあるので、その中でチーム戦術的なところも合わせてやっているところはあるんですけど、ベースの闘うところもそうですし、球際のところもそうですし、そういった個人としての成長を常に求められてきたところがありました。年間を通してのアプローチで成長できたところは大きいと思います」
長谷部茂利前監督の下で築かれた堅守を象徴とする組織的なサッカーでJ1に定着し、そこから目標である上位を目指す上で避けては通れないのが個人のレベルアップ。得点力不足という長年の課題を克服するために金監督はこれまでの福岡のベースを大事にしながらも選手個々の能力がさらに伸びるようにアプローチし、成長を求めた。そんなチームの中で松岡は、2年続けてリーグ戦36試合に出場し、先発は昨シーズンを超える35試合。シーズン通してチームの中心選手の一人として大きな怪我なく力を発揮し続けた。
今シーズンの総走行距離は404.9kmでリーグ2位を記録。中でも松岡の走力の凄まじさを感じた一戦がある。酷暑だった今年の夏、延長までもつれ、120分の激闘となった8月6日天皇杯4回戦の鹿島戦から中2日での第25節・川崎F戦。背番号88は、いつもと変わらぬ姿で90分間ピッチを縦横無尽に駆け回り、疲労困憊のはずの後半アディショナルタイムには力強く自陣から相手を振り切りながらボールを持ち運び、見る側を驚かせた。試合直後のミックスゾーンで「パワーを使うところはしっかりと使う、そこが自分の良さでもあるので、そういったプレーを常に効果的にできるように準備したいと思っています」と何事もなかったかのように落ち着いた表情でそう言ってのけた姿は今でも鮮明に筆者の記憶に残っている。
J1の舞台で年間通して強度高く、運動量豊富にプレーし続けるのはプロ選手であっても決して簡単なことではない。「タフガイ」の松岡を支えているものは何か尋ねた。
「正直、自分自身にも難しい時期がありました。けれど、常日頃から食事の面で関わってサポートしてくださっている方がいることやファン・サポーターの方々がすごい熱で応援してくれて、そういった一人一人の支えがあってやれています。本当にたくさんの方が支えてくれて自分がアビスパ福岡でプレーできているというのは、すごく嬉しいことだと思いますし、感謝して、その感謝を本当に忘れずに1分1分、1秒1秒プレーしないといけないと思っています」
温かいサポートに励まされ、自らを奮い立たせてピッチに立ち続ける中で、常日頃から体のケアに細心の注意を払ってきた。水素を吸ったり、自ら購入した電気機器を使ってのセルフケアだけでなく、チームのトレーナーにも逐一自身の体を見てもらいながら「今、ここが痛いんですけど、どういうアプローチをしたらいいですか」などと常にコミュニケーションをとって体の疲労を取り除きながら大きな怪我を予防してきた。
「家族にもたくさん支えてもらいましたし、ケアをやってくれている方、アビスパ福岡のトレーナーの方やいろんな人が(小さな)怪我をした時にいろいろ対応してくれたり、そういうことをたくさん自分自身やってもらいました。『これだけやってもらってピッチでやれなかったら、それは違うんじゃないか』と自分の中で感じていたところはあったので、今までたくさんやってもらったところをプレーの中、ピッチの中でしっかりとお返しできたらという思いで常に戦っています」
周囲の支えと自身の強い覚悟によって育まれた強靭な肉体は、持ち前のボール奪取能力で守備のフィルター役となり、中盤の底でバランスをとる「6番」のプレーだけでなく、ボールを前へと持ち運び、3列目からペナルティエリア内に侵入して得点に絡んでいく「8番」のプレーも増加させた。「自分がもっともっと上に行きたいという思いがある中で、そういうプレーを増やさないといけない」と言うようにプレースタイルに変化を加えながら自らの能力を進化させようとしている。
「チームとしても成長できたと思いますし、個人的にもそうですし、選手一人一人がしっかりと闘うところだったり、戦術的なところ、個人的なスキルだったりは絶対に上がっている」と大きな手応えを感じる自身にとって濃厚な1年を過ごした松岡。
その一方で、今シーズン、個人的な目標に掲げていた5ゴール5アシストを達成できなかっただけに松岡自身、攻撃面を大きな課題と捉えて改善を図ろうとしている。
「チームの課題というのはゴールのところで、それは自分自身の課題とマッチしてくる部分だったので、(今シーズン)もっともっとそこは上げたかったというのが正直な感想です。年間通してやれたところ、守備だったり、そういう強みは出せたところがあったので、そこは継続しながらより攻撃のところはもっともっとクオリティを上げられるようにやっていきたいと思います。攻撃のところはまだまだ伸びしろがあるんじゃないかなと思うので、そこはいろんな工夫だったり、アプローチをして、自分でも考えてやって、もっともっと上手くなれるようにやっていきたいと思います。ミドルシュートのところだったりは、もっともっと怖さを出していきたいと思っていますし、やっぱりアシストだったり、得点というところは全然物足りないので、そこは一気に良くなるとは思わないですけど、少しずつ成長できるようにやっていきたいと思います」
もっともっと。飽くなき向上心の持ち主は、更なる飛躍を目指して挑戦を続けていく。
Reported by 武丸善章