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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:時代の終わりと、次代の夜明けを前にして。名古屋の戦士たちの気概と渇望。

2025年12月16日(火)


12月6日に明治安田J1リーグの最終節があり、翌日には解散式が行われ、2025年の名古屋グランパスの活動には一区切りがついた。その後のチーム行事やオフならではの各種イベント出演などはあるものの、選手たちはオフ期間に入って来季への英気を養っている。長谷川健太監督が契約満了となり、強化部首脳も軒並み退陣。4月に就任した清水克洋社長とこの度就任した服部健二スポーツダイレクター、そして中村直志強化部長によって組み上げられていく新たなチームが始動するまでもう1ヵ月を切っている。1年の疲れを癒すオフ期間は同時に来季の自分を準備する重要な時間でもあって、それは選手それぞれに異なる想いが交錯するものだ。

今季最終戦となった福岡戦の試合後には、すでに心を燃やしている者もいた。9月以降はボランチとしての才覚を発揮しだした森島司は「途中からポジションが変わって、良い時もありましたけど、そんなに良くはない。基本的にはそこまで良いプレーをずっとできていた感覚ではない」と辛口に自分を前置いて、「来年はどっちも、自分的には決めていたりはしないので、使ってくれるところで全力で、どっちの準備もしていきたい」と2列目、3列目両方での自分をイメージした。プロ11年となる来季は「もう29歳になる年なので、しっかりコンディションを整えて開幕戦から全力でいけるようにやりたい」と中堅、そしてベテランに向かう自覚も新たにしている。半年間の特別大会にも意欲は満点で、「チャレンジしていくところもありますけど、ピッチに立ったら全部勝ちたいと思っている。勝負にこだわってと言う気持ちはあります」と、持ち前の負けん気を早くもたぎらせていた。



同じく福岡戦の後には木村勇大もギラついていた。勝利に導くPK奪取の際には稲垣祥から「蹴ってもいいよ?」と言われ、「健太さんも最後だし、祥くんが決めた方が嬉しいんじゃないかなと思って。今日だけ譲りました」と空気を読んでここは辞退。しかし「任せます」と言ったその心の中には「来シーズンは、俺が倒されたら俺が蹴ります」とストライカーらしい気概が潜んでいた。名古屋に移籍後はシャドーでの役割も課せられていたが、やはり木村はゴール前で勝負してこその選手である。「今日は10分間くらいの出場でしたけど、ボックスに入れる場面が多かった。それは自分としても一番良さが出る。相手との展開によっては来シーズンもいろいろあると思いますけど、いかにゴール前で仕事する場面を作るか、ゴール前でいい位置を取り続けられるか」とは本人の分析だ。来季も課題意識は同様で、「ボックス内で仕事する回数を増やすっていうところに尽きる。“1分の1”を決めるのも大事だけど、入らない日もある。だからそれを3本、5本にしていけば必然的にゴールも増える。そのチャンスを作る、そのチャンスがある場面に必ずいる、そこで足振るタイミングを逃さない。そこはFWとしてエゴを持ってやっていきたい」と、穏やかな口調の中に迫力を見せた。



オフに入ると選手の口調はより具体的にもなっていく。年末のイベントに出演した徳元悠平は昨季に比べて出場機会を減らした今季に悔しさをにじませ、初めての筋肉系の負傷に苦慮したことも明かしつつ、「しっかりピッチを走って、しっかりで闘うところで闘っていければ」と再起を誓った。中盤戦以降はトレーニング後に椎橋慧也や小野雅史らと基本スキルの向上に励み、「強度があるプレーの中での冷静さであったり、サッカーの上手さは見せないと」と文字通り足元を見つめ直して新シーズンを見据える。「動かない生活が無理なんです。うずうずしちゃうから(笑)」とオフはそこまで休養に重点を置く心つもりはなく、新監督の下でのフラットなスタートにも「みんなが『やってやるよ』って気持ちがないとおかしいぐらいの立ち位置からになる。少しでも早く自分の色を見せたい」とやはり身震いした。昨季はタイトル獲得に貢献した経験もあるからか、勝利に対する欲も深く大きい。「ACLの切符がそこにある。みんなで同じ方向を見つめられれば充実した半年になるし、こういう節目で勝つことがすごく大事で、印象にも記憶にも残る」と、百年構想リーグを真剣勝負の場とし徳元は強く捉える。



「まだベテランじゃない」と豪語する30歳の徳元がこれだけ元気ならば、若手だって負けてはいない。高卒ルーキーの杉浦駿吾はJリーグデビューは果たしたものの、FWとして得点はゼロの悔しい1年を過ごした。「まずは練習の中で示して、来たチャンスで仕留めきれれば別に5点も難しい数字じゃない」と、目標に掲げていた5得点との距離感を測り、しかし妥協することなく前進を加速させる。ユース時代に比べて身体は見違えるように大きくなったが、「そこに自信がついてきた時に、練習で祥くんに吹き飛ばされました(笑)」と、正真正銘のトップレベルにいい意味で伸びた鼻をへし折られている。せっかく鍛えた身体を緩めることはしないとこのオフは誓っており、「体幹トレーニングで最低限で維持するところや、生活習慣は崩さないように意識していきたい。今年はあまり試合には絡めなかったけど、そこで腐らないメンタリティのところでも成長している。良くはないけど、決して悪い1年ではなかった」という想いをバネにして、2年目のブレイクを目論む。



“前倒し”の2選手もこのオフは貪欲だ。筑波大学蹴球部を3年で切り上げ、大学4年生としてプロ契約した加藤玄は「勝負の1年」と位置付けて挑んだシーズンを悔しさとともに終えた。リーグ開幕戦こそスタメン出場したものの、長谷川監督の厳格かつ明確な基準になかなか合格点を打ち出せず、リーグは8試合245分のみの出場にとどまった。「勝負だと思っていたからこそ、改めて感情の浮き沈みも大きかった1年で、でもそれは俺らしいというか。覚悟が強い分だけそうじゃなかった時の跳ね返りはより大きくなるし、そういうものをエネルギーにしてまた次に進んでいくのが俺だから」と、今では冷静に振り返ることもできるが、序盤戦、中盤戦の加藤はまさに典型的な悩める人だった。「そうした想いは全部持っていく」と決めている来季へ向けてはオフシーズンのトレーニングスケジュールもきっちり詰め込んであり、「エネルギーは満ち溢れているから強くなる時間にしたい」と意気軒高。「『俺のフットボールってなんだ』って自分も実感できるようにしたいし、俺を見て『ああ、加藤玄ってこういうプレーヤーなんだな』って思ってもらえる、それを堂々と表現できるようなシーズンにしたい」とは、フットボールの求道者たる加藤玄らしさ前回の、来年への意気込みだった。



それはもうひとりの“前倒し”でプロになった森壮一朗も同じだ。彼の場合は高校生ながら、4月にプロ契約を果たして以降はずっとトップチームでのトレーニングを続け、夏以降は主力に名を連ねるようになった。リーグ第27節ではクラブ史上最年少ゴールを更新する自身のプロ初得点もマーク。その勢いを駆ってU-20ワールドカップに飛び級で選出され、まさに飛ぶ鳥を落とす躍進を見せた1年は17歳の身体には少し負担も大きかったようで、オフは心身ともにしっかり休むことを心掛けつつ、一方では「このオフで『身体が変わったな』って思わせるぐらいの有意義なオフにしたい」と浮かれた様子は少しも見せない。プロとして経験する初の監督交代には「求められることをやらなきゃ」と緊張しているが、「でもそこで自分のストロングポイントを消したら終わり。自分が前に出ていく推進力を出してナンボです。そこがなければ自分の価値はない」と、プロとしての心構えはすでに備わっていることを感じさせた。先輩の稲垣の11得点、DFながら5得点を挙げた佐藤瑶大を見てきたことで数字という目に見える結果の大事さも痛感した背番号44は高卒1年目、プロとしては2年目の2026年に「3ゴール3アシスト」という目標を掲げる。「自分からしたら大きいっすね。それできたらすごいっすね」と無邪気に笑う姿は年齢そのままなのだが、彼の言葉にはどこか芯の強さがあって頼もしい。



名古屋にとって安心なのは、こうした意気込む選手たちのはるか前を走ってくれるトップランナーがいることだ。改めて振り返るに、リーグ38試合フルタイム出場、11得点5アシスト、デュエル勝利数、タックル総数、総走行距離の3部門でリーグ1位という数字は桁外れの偉業。それはつまり今季のJリーグで一番闘い、名古屋を牽引したという証明に他ならない。長谷川監督就任1年目の2022年に言われた「いい選手り出したこの4年間の総決算ともいえるベストイレブン選出は誰もが納得の成果であり、それでなお来季については「常にキャリアハイ、今年以上に、常に成長し続ける姿を見せたいなとは思います」と言うのだから敵わない。「第一線でできなくなったらすぐに引きますし、ただ第一線でまだまだやれる自信はある。さらにもう1つ、2つ自分を伸ばせる自信もある」とは間もなく34歳を迎える大ベテランの台詞ではなく、「現状維持じゃたぶん終わっていく。もうひと皮むけるように頑張んないといけないし、変えていかないといけないし、あがいていかないとダメ」という言葉を聞いて、奮い立たないチームメイトがいるものか。彼の仕事をひとつでも奪って主役の座をかっさらっていく選手がひとり、ふたりと出て来てこそ、名古屋の再起動は成り立つ。ただおそらく、そうなれば稲垣はさらに走って追い越していくのも簡単に想像がつく。チーム内でのデッドヒートは強い集団には欠かせないものだ。その起爆剤となる背番号15の、何と若々しいことか。

稲垣はさらに来年の北中米ワールドカップにすらチャレンジの気持ちを諦めていないと言った。今季の不甲斐ない成績に巻き返しへの想いも強いチームにとって、こうした夢を追いかける者の存在は眩しくもあり、負けず嫌いのプロフェッショナルたちの気持ちにも火を点けるはずだ。束の間の休息とは常套句にすぎるかもしれないが、少しばかりの充電期間を経て、名古屋は生まれ変わりへと乗り出す。そこに向かう選手たちの言葉をこうして見直すだけでも、来季への期待はにわかにも膨らんでくる。

Reported by 今井雄一朗