
90分間、そしてシーズンを通してどれだけ同じ場所に立ち続けられるか。1人しかピッチに立てないゴールキーパーというポジションで佐藤久弥は今季、FC琉球のゴールを守り続けた。
順天堂大から2021年に東京ヴェルディ入りした佐藤は4シーズンでわずか2試合出場にとどまっていた。しかし完全移籍で琉球に加入した今季、「大学時代以来かも」と語る彼がこだわっていた「1年間を通して試合に出る」という目標を見事に達成。大きな怪我もなく、リーグ戦全38試合フルタイム出場を果たした。
その積み重ねの先に手にした勲章が、今月17日に発表された「2025 J3リーグ 優秀選手賞」。監督と選手によるベストイレブン投票をもとに選ばれるこの賞は、佐藤にとって信頼の総量が反映された結果といえるだろう。今年5月に受賞した月間ベストセーブ賞と合わせ、その評価は継続的なものだった。

今季の佐藤を特徴づけたのは「プレーの安定性」である。シュートストップやロングキックといった武器は以前から備えていたが、大きく変わったのが近距離やヘディングシュートへの対応だ。かつて感じていた「止められる時と止められない時の差」は、この1年でほとんど意識しなくなったという。
その背景には、取り組み方の変化がある。感覚に頼る割合を減らし、体の向きや立ち位置、高さといった要素を整理する。すべてを頭の中で組み立て、ある程度計算できる状態を作ることで、プレーはより再現性を持つようになった。明確なプランを持つことで、想定外の局面でも慌てず無理のない判断ができる。周囲から吸収した知識を自分の中に落とし込んできた時間が、安定感として表れた。

一方、チームとしては課題が残った。アディショナルタイムでの失点や、最後に耐え切れず勝点を取りこぼした試合もいくつか見られた。チーム目標であった「1試合1失点以下」は、リーグ前半戦こそ19試合中14試合で達成と現実的な数字だったが、後半戦に入り相手の精度が上がる中で最後まで維持することはできなかった。だからこそ「この前半戦の数字を保てていれば、昇格プレーオフは十分に射程圏内だった」という手応えと悔しさは、彼の中に明確な実感として残っている。
立ち位置を確かなものにした一年。この経験を糧に佐藤が目指すのは現状維持ではない。自分の力をより蓄積し、さらにチームを一段上のステージへ押し上げる。その視線はすでに次の90分、その積み重ねの先に向いている。
Reported by 仲本兼進