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【取材ノート:千葉】小林慶行監督が大一番で見せた選手交代策という采配の妙

2025年12月25日(木)
2025年12月13日、ジェフユナイテッド千葉は明治安田J1昇格プレーオフ2025 決勝で徳島ヴォルティスに1-0で勝ち、悲願のJ1昇格を達成した。試合後の小林慶行監督の記者会見では記者からの質問が相次ぎ、筆者も1つ質問させていただいた。千葉は2010年シーズンから明治安田J2リーグで戦っており、J2在籍期間は今シーズンで16年になる。これだけの長い間、さまざまな監督が千葉で指揮を執ったが、誰一人として千葉をJ1に戻すことはできなかった。そんな大仕事を成し遂げたことについて、今、率直にどう思っているのか、と。
小林監督は開口一番、「いや、もうメチャメチャ嬉しいです」と答えたあと、少しの間を置いて筆者には少し意外な内容の話をした。

「本当に、名だたる監督さんしか呼ばれないクラブだと思います、このクラブは。その中で3年前に、僕なんかジェフでプレーしたこともありませんし、古巣のクラブでもないですし、ただのいちコーチでしかない人間に監督を任せるということが、このクラブにとってどれだけのチャレンジだったかということは、僕自身はすごく理解しているつもりです。だから、ちょっとうまくいかなければ厳しい声が増えるのも当然だと思います。よそ者ですから、ハッキリ言えば僕なんかは。それだけ伝統があって、歴史がある。それだけ偉大なクラブであると僕自身は理解していました。その中で、これまで結果を出してきた監督が(J1昇格を目指す千葉の監督に)チャレンジしてきたというふうに、僕自身は思っていました。そんな中、ただのいち指導者に過ぎない自分をチョイスしてくださったので。そこから、やはり自分の中には当然、プレッシャーもありましたし、当然、責任もあります。自分の中では一つひとつ成長過程を踏んでいるつもりではありますけど、でも、求められるのは常に結果しかないクラブですから。今シーズン、(J1に)上がれなければというところは、自分の中ではもうハッキリしていたところでした。この先どうなるか分かりませんけど、でも、やっぱりすごく嬉しいです」

自分は千葉が古巣ではない『よそ者』だというふうに、そこまで感じていたというのは正直、少し意外だった。そして、千葉のOBだった江尻篤彦監督(当時)や長谷部茂利監督(当時)を除けば、確かに監督1年生にこの大仕事を託すのは、クラブにとって大きな挑戦に違いなかった。

それでも、クラブだけでなくサポーターやファン、さらにはスポンサーなども含めた『一体感』をテーマに掲げ、指導面としては『当たり前のことを当たり前にやる』ことを大前提に小林監督は指揮を執ってきた。『攻守で前へ』というスタイルで細部を地道に積み上げてきたが、ある意味、『攻守で前へ』というスタイルはイビチャ オシム監督時代の強かった千葉のスタイルでもあった。

ただ、筆者としては正直、小林監督のスタメン選考や時間帯を含めた選手交代策に疑問を感じる試合は少なくなかった。前半のうちにRB大宮アルディージャに2点リードされた明治安田J1昇格プレーオフ2025 準決勝では、後半開始から選手交代をしてもいいのではないかと思った。確かに、前半に千葉は複数のチャンスを作っていたが、流れを変えるべきではないか。後半開始早々の48分にまた失点した時には「だから、言わんこっちゃない」と内心、つぶやいた。

それでも、不思議とあきらめの気持ちは生じなかった。2008年の『フクアリの奇跡』を取材していただけに、千葉サポーターが日本で一番、いや、世界で一番あきらめの悪いサポーターだとしたら、筆者は世界で一番あきらめの悪い番記者だったからだ。これから、3点取ればいいだけだと考えていた。

ここで小林監督が選んだ選手交代策には驚かされた。この試合がプロデビュー戦となる17歳の姫野誠を選んだからだ。呉屋大翔や米倉恒貴といったベテランの選手ではなく、姫野を選んだのにはもちろん彼の実力もあるだろう。だが、プロの舞台の怖さをまだ知らない若武者ならではの勢いに託した気もする。

積極果敢な姫野のプレーの効果もあり、この選手交代策は奏功して試合の流れを一変。あきらめない千葉サポーターの大きな後押しを受け、あきらめない千葉の選手たちは0-3から4-3の大逆転劇を演じた。この逆転勝利で作った流れは堅守を誇る徳島を相手にしての1-0の勝利にもつながり、千葉は『いるべき場所』であるJ1に戻ることになった。

小林監督が駒澤大学の選手だった頃、筆者は取材させていただいていたのだが、まさかこんな未来があったとは夢にも思わなかった。千葉が長年、J1昇格を目指して苦労する未来があったというのはともかくとして、小林選手が千葉の監督となり、大一番で千葉を勝利に導く采配をするとは想像しようもない。長年、サッカー取材をしていると、こんなにも思いがけない、嬉しいことがあるものなのだなと思った。

小林監督、そして千葉の選手やコーチングスタッフ、クラブスタッフ、千葉サポーターやファン、そして千葉に関わる皆様、改めてJ1昇格おめでとうございます!

Reported by 赤沼圭子