2025年11月30日、明治安田J1リーグ第37節の試合後。ピッチに現れたヴィッセル神戸の三木谷浩史会長は「もう少しバージョンアップが必要なのかなと今強く思っております」とファン・サポーターに向けて話した。そして、その後のセレモニーで吉田孝行監督が今シーズン限りでの退任を表明。ひとつの時代が終わり、新たな時代の到来を告げる印象的な場面だった。
「バージョンアップ」の旗手として、白羽の矢が立ったのはミヒャエル スキッベ監督だった。
スキッベ監督は母国ドイツのボルシア・ドルトムントやバイエルン・レバークーゼンなどを率い、トルコのガラタサライやギリシャ代表などでもキャリアを重ねた名将である。
2022年からサンフレッチェ広島の監督に就任し、その年にはJ1リーグ3位、YBCルヴァンカップ優勝という結果を残している。23年と24年はタイトルこそなかったものの、J1リーグでは3位と2位と安定した戦いを披露した。特に24年はJ1リーグ最終節まで神戸とタイトルを争うなど強さが目立った。そして25シーズンにはJ1リーグ4位、2度目のルヴァンカップ制覇という結果を残している。
では、欧州での豊富なキャリアと日本での成功を持つスキッベ監督を迎え、神戸はどう「バージョンアップ」するのだろうか。まずは25シーズンのJ1リーグにおける神戸と広島の結果を比較したい。
順位は広島が4位、神戸が5位。勝点は68と64で、総得点はともに46ゴールだった。総失点は広島がリーグ最少の28点に対して、神戸はリーグで3番目に少ない33点。数字を見る限り、かなり似たチームと言えそうだ。
一方で、優勝した鹿島や2位の柏とは総得点数が大きく異なる。鹿島はリーグ2位の31失点という堅守を維持しつつ、得点ではリーグ4位の58ゴールを挙げている。柏も失点を34に抑えつつ、60得点という結果だ。一概には言えないが、神戸が再び頂点に立つためにはゴール数を増やすことが一つのテーマと言えるだろう。
その上で振り返りたいのが24年のJ1リーグにおける得失点数だ。2連覇を達成した神戸は61得点36失点、2位の広島は72得点43失点。広島の72得点はダントツのリーグ1位である。シーズン途中にチーム得点王のFW大橋祐紀やチャンスメイカーのMF川村拓夢が海外クラブへ移籍した中で、これだけのゴール数を残している点は“スキッベ戦術”の特筆すべき点だろう。
戦い方において、神戸と広島の共通点は多い。球際の強さやトランジションの速さといったベーシックな部分はスキッベ監督体制になっても変わらないだろう。むしろ、マンツーマンを軸にした守備面ではさらに強度が求められる可能性はある。
大きく異なるのは攻撃面でのダイナミックさだろう。25シーズンの基本布陣は神戸が[4-1-2-3]、広島が[3-4-2-1]。神戸は右SBの酒井高徳が果敢に攻撃参加する右肩上がりが多かったのに対して、広島は両ウイングバックが高い位置を保ち、さらに最終ラインの塩谷司や佐々木翔らも攻め込むアグレッシブさがあった。また、神戸がシンプルにクロスを入れる攻撃が多かったのに対して、広島はポケットを狙い、そこからマイナスパスなどで相手の守備を崩すようなパターンが多くみられた。
神戸も宮代大聖や佐々木大樹、広瀬陸斗らが巧みなパスワークでポケットをとって崩すシーンも見られたが、広島はそれをチーム全体として遂行していたようなイメージがある。
“クロスの工夫”は神戸の課題だったが、スキッベ監督の就任によってこの部分が大きく変わるのではないかと予想される。攻撃のタレントは広島と互角、いや神戸の方が上かもしれない。よりアグレッシブに「バージョンアップ」された神戸が今から楽しみである。
Reported by 白井邦彦
「バージョンアップ」の旗手として、白羽の矢が立ったのはミヒャエル スキッベ監督だった。
スキッベ監督は母国ドイツのボルシア・ドルトムントやバイエルン・レバークーゼンなどを率い、トルコのガラタサライやギリシャ代表などでもキャリアを重ねた名将である。
2022年からサンフレッチェ広島の監督に就任し、その年にはJ1リーグ3位、YBCルヴァンカップ優勝という結果を残している。23年と24年はタイトルこそなかったものの、J1リーグでは3位と2位と安定した戦いを披露した。特に24年はJ1リーグ最終節まで神戸とタイトルを争うなど強さが目立った。そして25シーズンにはJ1リーグ4位、2度目のルヴァンカップ制覇という結果を残している。
では、欧州での豊富なキャリアと日本での成功を持つスキッベ監督を迎え、神戸はどう「バージョンアップ」するのだろうか。まずは25シーズンのJ1リーグにおける神戸と広島の結果を比較したい。
順位は広島が4位、神戸が5位。勝点は68と64で、総得点はともに46ゴールだった。総失点は広島がリーグ最少の28点に対して、神戸はリーグで3番目に少ない33点。数字を見る限り、かなり似たチームと言えそうだ。
一方で、優勝した鹿島や2位の柏とは総得点数が大きく異なる。鹿島はリーグ2位の31失点という堅守を維持しつつ、得点ではリーグ4位の58ゴールを挙げている。柏も失点を34に抑えつつ、60得点という結果だ。一概には言えないが、神戸が再び頂点に立つためにはゴール数を増やすことが一つのテーマと言えるだろう。
その上で振り返りたいのが24年のJ1リーグにおける得失点数だ。2連覇を達成した神戸は61得点36失点、2位の広島は72得点43失点。広島の72得点はダントツのリーグ1位である。シーズン途中にチーム得点王のFW大橋祐紀やチャンスメイカーのMF川村拓夢が海外クラブへ移籍した中で、これだけのゴール数を残している点は“スキッベ戦術”の特筆すべき点だろう。
戦い方において、神戸と広島の共通点は多い。球際の強さやトランジションの速さといったベーシックな部分はスキッベ監督体制になっても変わらないだろう。むしろ、マンツーマンを軸にした守備面ではさらに強度が求められる可能性はある。
大きく異なるのは攻撃面でのダイナミックさだろう。25シーズンの基本布陣は神戸が[4-1-2-3]、広島が[3-4-2-1]。神戸は右SBの酒井高徳が果敢に攻撃参加する右肩上がりが多かったのに対して、広島は両ウイングバックが高い位置を保ち、さらに最終ラインの塩谷司や佐々木翔らも攻め込むアグレッシブさがあった。また、神戸がシンプルにクロスを入れる攻撃が多かったのに対して、広島はポケットを狙い、そこからマイナスパスなどで相手の守備を崩すようなパターンが多くみられた。
神戸も宮代大聖や佐々木大樹、広瀬陸斗らが巧みなパスワークでポケットをとって崩すシーンも見られたが、広島はそれをチーム全体として遂行していたようなイメージがある。
“クロスの工夫”は神戸の課題だったが、スキッベ監督の就任によってこの部分が大きく変わるのではないかと予想される。攻撃のタレントは広島と互角、いや神戸の方が上かもしれない。よりアグレッシブに「バージョンアップ」された神戸が今から楽しみである。
Reported by 白井邦彦