【取材ノート:東京V】東京ヴェルディの至宝・森田晃樹の残留の意義と価値。「このクラブで何が経験できるか」がクラブに問われる今後の鍵
12月22日、東京ヴェルディから城福浩監督、今季主将を務めたジュニアからの生え抜き森田晃樹との来季契約更新が公式発表された。3日前の19日には、2022年の大卒加入時から主力として守備の要となり、J1復帰にも大貢献したジュニアからのアカデミー出身DF谷口栄斗の川崎フロンターレへの移籍が正式発表されていた。それだけに、「チームの根幹」とも言える城福監督、森田の残留に、ホッと胸をなで下ろした東京Vのファン・サポーターも少なくないだろう。
2024年にJ1復帰を果たすまでのJ2での16年間、東京Vは毎シーズンオフ、「選手の引き抜き」という厳しい現実に直面し続けてきた。アカデミー世代の育成力に定評があり、トップチームとアカデミーが同じ施設を使用しているという環境的な特異性もあいまり、早い段階で二種登録選手として登録されてトップチームの一員としてJリーグデビューを果たした選手も少なくなかった。だが、どれだけ将来の超有望株として、未来の「ヴェルディの顔」としての未来予想図を思い描いても、その選手がトップ昇格を果たし、ポテンシャルを発揮すればするほどJ1クラブからのオファーが相次ぎ、「J1でプレーしたい」「日本代表になるためにはJ1クラブでプレーしなければ」と、多くが個人昇格の道を選んでいった。それぞれのその選択については、本人以外、何人たりとも是非を語るべきではなく、最終的な是非は本人が感じればいいだけのことなので、言及するつもりは一切ない。
一方で、「出て行かれてしまう」というもどかしさは「J1に上がれば変わる」と信じてきたが、実際はそうではないようだ。J1昇格初年度の2024シーズンは、相手チームからの警戒心の薄さからかもしれない。6位という想像以上の好成績に終わり、シーズン終了後のストーブリーグでは染野唯月、林尚輝、山見大登、木村勇大(現名古屋グランパス)ら期限付き移籍だった主力選手を完全移籍での獲得に成功した。「やはり、『J1』の持つ意味は大きい」と、その価値を痛感していたところで、今夏のウインドウで翁長聖がV・ファーレン長崎、千田海人が鹿島アントラーズ、木村勇大が名古屋グランパス、さらに綱島悠斗がロイヤル・アントワープFC(ベルギー)へと、主力中の主力が次々とチームを去るという厳しい現実が再び待っていた。
そうした現状について、城福浩監督は力説した。
「例えば、アカデミー出身の谷口栄斗、森田晃樹がJリーグにデビューした時には、このクラブはJ2の中位で、だからこそプレーをするチャンスを与えられ、その中でチャンスを掴んでいく。その選手たちがそのままJ1に上がってきてたという意味では、森田と谷口は本当に希有な存在だと思います。ただ、今後、彼ら以降のアカデミーの若手選手がどういう状況になるかというと、チームがもうJ1なわけですよ。となると、「若いから」「イキがいいから」というだけでプレー機会を与えるということがなかなか難しくなる。で、これは彼らの難しさもそうですし、われわれ首脳陣もそうです。育てていきながら、J1にいられるからこそチームの結果、勝ち負けにこだわって、J1に居続けなければいけない。選手の経験値や育成というものの代わりに、勝点を得ることを放棄するわけにはいかない。ここの難しさを、まさに今、我々は直面しているなと感じています。決して、野心のある選手が悪いという意味ではありません。ただ、選択肢があれば、他のチームに行くというサイクルも相変わらずあるわけで。自分たちの育成力が追いつくのか、中心になりつつある選手が外に出ていくのか。このサイクルとの追いかけ合いのような、今年はそういうイメージでした。そして、それはおそらくは今年だけではないのかなと。むしろ、今年のサイクルこそがリアリティのあるものだなと感じています」
その上での森田の「残留」の選択だ。その意義と価値はあまりにも大きい。
思い描く夢や目標は選手それぞれ違うものだ。その中で、森田にはアカデミー時代から「ヴェルディをJ1に戻す」「J1で優勝するチームになる」「ヴェルディから世界へ」など、中心選手として『東京ヴェルディ』というクラブの未来を託されてきた。そして実際、主将として、また、一選手としても特異な能力の高さを発揮して「J1復帰」という大偉業を果たしてみせた。
サッカー界も社会の縮図だ。一般社会では、かつてのような終身雇用の時代ではなくなった。サッカー界も同様。数十年前とは違い、「生涯○○(クラブ名)ひと筋」が必ずしも美化される時代ではない。当然、今年だけではなく、森田には複数の他クラブからのラブコールが届いていた。
それでも、森田は東京Vを選んだのである。現時点では、その選択に対する胸の内を語ってはいないが、相当悩んだであろうことは間違いないだろう。
以前、城福監督は選手の流出を食い止める鍵について次のように断言していた。
「このクラブにいて、そこで例えば『このクラブにいたら優勝が狙える』『このクラブにいたらチャンピオンになる瞬間を味わえるかもしれない』のように未来を感じられれば、選手はずっといるんですよ。自分がピークのパフォーマンスができる年齢というのは5年か7年間ぐらいですよね。そこを考えた時に、『このクラブで何を経験できるのか』。僕は、(残留の鍵は)その一点に尽きると思っています」
今回、同一チームでは自己最多となる5シーズン目の指揮を執ることを決断した際にも、「様々な難局を乗り越えながら成長していくことが出来れば選手・チームの可能性は無限大だと思っています。J1リーグにいられるからこそ抱ける超野心的な目標を強く認識、皆で共有しながら、チームが一丸となってひとつひとつ前へ進んで行きます」と、城福浩監督はクラブを通じてコメントした。
「このクラブで何が経験できるか」
その答えは、クラブ、チーム、選手たちそれぞれの立場で自分たちの手で変えていくことができるのではないだろうか。
早くも約2週間後には新体制がスタートする。微力ながら、ヴェルディの情報を発信する立場の一人として、その一端を担えたらなとあらためて感じている次第だ。
Reported by 上岡真里江
2024年にJ1復帰を果たすまでのJ2での16年間、東京Vは毎シーズンオフ、「選手の引き抜き」という厳しい現実に直面し続けてきた。アカデミー世代の育成力に定評があり、トップチームとアカデミーが同じ施設を使用しているという環境的な特異性もあいまり、早い段階で二種登録選手として登録されてトップチームの一員としてJリーグデビューを果たした選手も少なくなかった。だが、どれだけ将来の超有望株として、未来の「ヴェルディの顔」としての未来予想図を思い描いても、その選手がトップ昇格を果たし、ポテンシャルを発揮すればするほどJ1クラブからのオファーが相次ぎ、「J1でプレーしたい」「日本代表になるためにはJ1クラブでプレーしなければ」と、多くが個人昇格の道を選んでいった。それぞれのその選択については、本人以外、何人たりとも是非を語るべきではなく、最終的な是非は本人が感じればいいだけのことなので、言及するつもりは一切ない。
一方で、「出て行かれてしまう」というもどかしさは「J1に上がれば変わる」と信じてきたが、実際はそうではないようだ。J1昇格初年度の2024シーズンは、相手チームからの警戒心の薄さからかもしれない。6位という想像以上の好成績に終わり、シーズン終了後のストーブリーグでは染野唯月、林尚輝、山見大登、木村勇大(現名古屋グランパス)ら期限付き移籍だった主力選手を完全移籍での獲得に成功した。「やはり、『J1』の持つ意味は大きい」と、その価値を痛感していたところで、今夏のウインドウで翁長聖がV・ファーレン長崎、千田海人が鹿島アントラーズ、木村勇大が名古屋グランパス、さらに綱島悠斗がロイヤル・アントワープFC(ベルギー)へと、主力中の主力が次々とチームを去るという厳しい現実が再び待っていた。
そうした現状について、城福浩監督は力説した。
「例えば、アカデミー出身の谷口栄斗、森田晃樹がJリーグにデビューした時には、このクラブはJ2の中位で、だからこそプレーをするチャンスを与えられ、その中でチャンスを掴んでいく。その選手たちがそのままJ1に上がってきてたという意味では、森田と谷口は本当に希有な存在だと思います。ただ、今後、彼ら以降のアカデミーの若手選手がどういう状況になるかというと、チームがもうJ1なわけですよ。となると、「若いから」「イキがいいから」というだけでプレー機会を与えるということがなかなか難しくなる。で、これは彼らの難しさもそうですし、われわれ首脳陣もそうです。育てていきながら、J1にいられるからこそチームの結果、勝ち負けにこだわって、J1に居続けなければいけない。選手の経験値や育成というものの代わりに、勝点を得ることを放棄するわけにはいかない。ここの難しさを、まさに今、我々は直面しているなと感じています。決して、野心のある選手が悪いという意味ではありません。ただ、選択肢があれば、他のチームに行くというサイクルも相変わらずあるわけで。自分たちの育成力が追いつくのか、中心になりつつある選手が外に出ていくのか。このサイクルとの追いかけ合いのような、今年はそういうイメージでした。そして、それはおそらくは今年だけではないのかなと。むしろ、今年のサイクルこそがリアリティのあるものだなと感じています」
その上での森田の「残留」の選択だ。その意義と価値はあまりにも大きい。
思い描く夢や目標は選手それぞれ違うものだ。その中で、森田にはアカデミー時代から「ヴェルディをJ1に戻す」「J1で優勝するチームになる」「ヴェルディから世界へ」など、中心選手として『東京ヴェルディ』というクラブの未来を託されてきた。そして実際、主将として、また、一選手としても特異な能力の高さを発揮して「J1復帰」という大偉業を果たしてみせた。
サッカー界も社会の縮図だ。一般社会では、かつてのような終身雇用の時代ではなくなった。サッカー界も同様。数十年前とは違い、「生涯○○(クラブ名)ひと筋」が必ずしも美化される時代ではない。当然、今年だけではなく、森田には複数の他クラブからのラブコールが届いていた。
それでも、森田は東京Vを選んだのである。現時点では、その選択に対する胸の内を語ってはいないが、相当悩んだであろうことは間違いないだろう。
以前、城福監督は選手の流出を食い止める鍵について次のように断言していた。
「このクラブにいて、そこで例えば『このクラブにいたら優勝が狙える』『このクラブにいたらチャンピオンになる瞬間を味わえるかもしれない』のように未来を感じられれば、選手はずっといるんですよ。自分がピークのパフォーマンスができる年齢というのは5年か7年間ぐらいですよね。そこを考えた時に、『このクラブで何を経験できるのか』。僕は、(残留の鍵は)その一点に尽きると思っています」
今回、同一チームでは自己最多となる5シーズン目の指揮を執ることを決断した際にも、「様々な難局を乗り越えながら成長していくことが出来れば選手・チームの可能性は無限大だと思っています。J1リーグにいられるからこそ抱ける超野心的な目標を強く認識、皆で共有しながら、チームが一丸となってひとつひとつ前へ進んで行きます」と、城福浩監督はクラブを通じてコメントした。
「このクラブで何が経験できるか」
その答えは、クラブ、チーム、選手たちそれぞれの立場で自分たちの手で変えていくことができるのではないだろうか。
早くも約2週間後には新体制がスタートする。微力ながら、ヴェルディの情報を発信する立場の一人として、その一端を担えたらなとあらためて感じている次第だ。
Reported by 上岡真里江