Js LINK - Japan Sports LINK

Js LINKニュース

【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:日に日に浸透する“ミシャの哲学”。「相手より点を取るのがサッカー」の旗印のもとに、名古屋の変化は目に見えて。

2026年1月8日(木)


「僕が大学1年の時だから、14年前ぐらいに言っていたことと、今日言ってたことが同じ」。これが“ミシャ流”の強さなのかもしれないと思った。声の主、山岸祐也はミハイロ ペトロヴィッチ監督との初遭遇を振り返り、不変の哲学に相好を崩す。「一番怖いところに行く、何をしなきゃいけないか。サッカーはゴールを守って、ゴールを決めて勝つっていうのがサッカーだから、怖いところ、怖いところに、っていうことを14年前にも言っていた」。1月5日のチーム始動日から「前へ、前へ」と口酸っぱく言い続けている指揮官は、シンプルだからこそ揺るがない戦い方をここ名古屋でも貫くつもりだ。



その言葉には力が宿っている。「相手の逆をとって攻撃するのが、サッカーで一番面白いところだ」「奪った瞬間に価値がある。守備の時でも常に攻撃のことを考えておく」「アイデアを出したミスなら気にしない。出さないでいるミスは許さない」等々。それはスローガンではなく、理論に基づいているから説得力もある。例えばボールを奪ったならまずはFWへのパスを狙えとミシャ監督は言う。それはなぜかと言えば、相手はビルドアップのために幅や深さをとっているから、奪った瞬間に前線中央のFWの周囲にはスペースがあるからだと説く。そこに「奪ったところから何ができるのかを常に考えておくように」と言ってあるから、ひとたびFWにボールが入ればそこには素早い味方のサポートがある状況が期待できる。そしてFWにもこう言ってある。「奪ったところで自分に入ってくるのだから、次にどうするかまでも考えておくんだ」と。その思考も志向も嗜好も、すべては攻めに染まっている。



選手たちの反応も良好だ。始動から3日目までですでにハーフコートでの10対10が行なわれ、とにかく前線へ、相手ゴール前へというベクトルはすさまじく強く表現されている。ミシャ式トレーニングに特徴的なのがリターン禁止のルールで、これをワンタッチゲームでやるから選手たちの頭も足も高速回転しっぱなし。いわゆる遊びのパスが入れられないからひとつ選択をネガティブにすればボールは下がっていく一方で、逆に勇気をもって縦方向にチャレンジすれば、前述の意識がトン、トン、トン、と連動してボールはアタッキングエリアへと侵入していく。ワンタッチ、リターンなしで養われる感覚はつまりスペースへと怒涛のように飛び込んでいく味方の動きで、そこに速く、正確にパスを入れていくことを監督は求めている。パス1本に対する動きの多さはすでに簡単なアップメニューの中ですら現れ始めており、3人目どころではない連係の萌芽も感じられてきた。



「意識を変えるところから入ってくれていると思う。やりたいサッカーをやっていく上で『ここで失ったらどうか』じゃなくて、『ここをはがしたらどれだけチャンスが広がるか』っていう考え方だったり」。今季で名古屋での5シーズン目を迎える河面旺成は指揮官の投げかけをポジティブに受け止めている。攻撃の中心軸としての期待もかかる菊地泰智は「ふわっとしたものじゃなくて、もう『こうだ』っていう感じで出してくれる」と、自分たちのやるべきプレーや持つべき意識の明確な提示を歓迎した。菊地はまた、「『相手より点を取るのがサッカーだから』って監督は言うんですけど、ほんとその通りで。ポジティブですよね。何をどうしたってネガティブな感じでプレーする瞬間はあんまりない」と、勇気をもってトライする環境を生み出してくれる新指揮官に早くもシンパシーを感じている。今季も“エース”としての役割が求められる稲垣祥も「やっぱり選手はそういう支えというか、そういう一言だけでも自信を持ってプレーできたりするし、勇気を持った判断、決断、プレーができたりする」と好意的だ。

もちろんこれは始動数日のトレーニングの話であり、何かを約束してくれるものではまだない。たとえば攻撃的な反面、DFラインへの負担が大きいのは明白で、守備力を攻撃力が上回るサイクルを作っていかなければ結果の面に不安要素がかさむ。ただ、そこも現状では選手たちは前向きで、河面は「“攻撃のための守備”という考え方にはなってくる。その意識付けが全員にある時点で、やっぱり自ずと守備の時間は減ってくるかなとは思うので、その守備に対してストレスを感じる時間は減ると思う」と、守備のフェーズを“守り”と捉えず、“攻撃の前段階”と定義するようなメンタリティが、自分たちをフォローしてくれると感じているようだった。「自分は守っている意識がない。攻めるためにやっているから」とは田中マルクス闘莉王の名言だったが、それを苦にするかしないかは、やはり考え方ひとつのところもあるのだろう。



サッカーIQが高く、アンテナも敏感な菊地は3日間ほどの指導を振り返ってこうも言う。「このサッカーは考えることを休んだら終わり。頭が休んでぼーっとする時間があればあるほど、ほんと全然つまんないと思う。“サッカーは楽しいもの”っていう本質から始まって、もっと“そういうことだな”みたいなものがすごく感じられる」。簡単ではないこのスタイルに、挑む気持ちが抑えきれないようだった。目の前の難しさは超える楽しさの裏返しであり、「上手くなるのと、サッカーが楽しいっていうのが、勝手に一緒に感じてくる感じが楽しい」と笑顔が止まらない。それは札幌でミシャ監督と共闘の経験がある新加入の高嶺朋樹も言っていたことで、「ミシャのサッカーをやってて『つまんない』っていうのはないんじゃないかな」と、恩師の手腕に太鼓判を押していた。

これがわずか3日間のトレーニングから感じられたことなのだから、驚きでしかない。過去19シーズンの日本での経歴を振り返れば、決して良い成績、良い試合、勝つ試合ばかりではないのはわかっているが、それらを超えて浮かんでくる攻めの哲学、つながるサッカー、得点の喜びと共に在る戦いの片鱗がすでに感じられているのだから、新たな名古屋の船出はきらめいてもいる。「選手も幸せな気持ちを持って楽しんでサッカーをしてほしい。そういうプレーが出てきたら、それは自ずと良いプレーなのではないか、そして良いチームになっているんじゃないかとは思う」。初日の指揮官の言葉である。それは日に日に、外から見ているだけでも感じられている。

Reported by 今井雄一朗