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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:それを直に知る者と、そのエッセンスを継ぐ者。名古屋における“ミシャ式”のこれからを想う楽しみ

2026年2月5日(木)



20年もJリーグで指揮を執っていれば、枝葉を伸ばし、根分かれするようにそのエッセンスは日本中に散らばっている。ミハイロ ペトロヴィッチ監督が操るいわゆる“ミシャ式”のサッカーは多くの指導者や選手に影響を与え、学びを提供し、ある種の偏愛をもって大きな魅力を今なお放つ。

ミシャ監督にとって4チーム目となった名古屋においてもすでにこの特殊なスタイルの浸透は進んでおり、そこには経験者たちによる伝道も少なくない助けとなっているのは間違いのないところだ。中でもつい最近までミシャ監督の下でプレーしていた浅野雄也と高嶺朋樹はトレーニングにおいて複数ポジションをこなしながらお手本としての役割を担い、新チームの理解をかなりフォローしている。

昨季は不本意なシーズンを過ごした浅野も、慣れ親しんだ戦術の中で見違えるように輝きを取り戻してきている。「始まる前にミシャには『札幌の時と同じような感じでやっていくから、お前からもチームにいろいろ還元してやってほしい』ということを言われた」と文字通りの“お手本”役も依頼されているからにはチームに対する責任感も増し、今季のトレーニングでは常にピッチに一番乗りでボールを蹴っている。

開幕を目前に控えた現時点では主力組に割り込む立場での日々を過ごすが、「札幌でやっていた時の感覚はちょっとずつ取り戻せている。開幕スタメンは狙っていくし、もちろんチームの中でシーズンのファーストゴールは取りたい」と意気込みは強い。札幌では2023年シーズンに12得点を挙げた実績があり、このスコアラーが復活すれば現状でも山岸祐也、マルクス ヴィニシウス、木村勇大と揃う強力な前線に迫力が増す。



一方で、名古屋にはミシャ監督の直接指導の経験はなくとも、そこに源流を求めることができるサッカーを経験した選手たちも多く在籍している。シュミット ダニエル、稲垣祥、野上結貴、森島司。広島、あるいは日本代表で森保一監督の薫陶を受けたことのある選手たちである。彼らは口を揃えて「練習が似ている」と語り、他の選手と比べても高い親和性をすでに見せる。

稲垣は本職のボランチだけでなく3バックでも起用されることがあるが、「DFラインに落ちてプレーするならやっている作業はほぼ変わらない」と意に介さず、野上は逆にボランチで起用されても「森保さんの時にそんな感じでやっていたから」と以下同文。広島から来た選手たちにとっては本家と分家の両面からミシャ式を経験することになり、「その違いを感じながら実際にプレーするのはけっこう自分の中では勉強になるし、面白い」と稲垣は笑顔を見せた。

名古屋でのミシャ監督の指揮もあっという間に1ヵ月の月日が経ち、入門編から始まったチーム作りはかなり進捗したと言える。最小単位の連係や基本コンセプトの落とし込みの時期は過ぎ、基礎固めから今は徐々にその質や精度、それに伴ってバリエーションを少しずつ増やしているような段階に見える。

キャンプやトレーニングを見ていても過去に見たことのあるミシャ監督のチームらしい動きやプレー、コンビネーションの形が見られるようになり、ゴール前に迫る選手たちの姿は明らかに増えた。ただ、そこまで来たからこそ見えてくるのは、「ミシャ監督は名古屋でも同じスタイルを追求するのか」という素朴な疑問だ。野上、そして浅野はこう語る。

「もうちょっと相手に来させてパスを入れるイメージだったっすけど、今は意識づけなのか、どんどんどんどん入れろと言う。それはミシャが変わっているのかがわかんないですけど、イメージだともうちょっとゆったりしながら、相手が来るのを待ちながら、スペースを空けながらストーンって入れるってイメージはある。今が意識づけだからなのか、まだそこはわかんないです。個人的には」(野上)

「ミシャ的にもそこを目指してるのかなっていう部分もありますけど。やっぱり新しいチームに来て、全く同じことを目指すのかなって。やりたいことは僕もわかりますけど、でもちょっとなんか違うなっていうか。得点シーンとかも、キャンプからの得点シーン見ても、崩しきった得点ってあんまなくないですか。なんか相手のミスから取ってとかなんで。まだイメージはつきにくいっすね」(浅野)

Jリーグを知る者ならば誰もがイメージするミシャ監督のサッカーはいろいろな形があれど、ダイナミックな展開を入れつつゴール前になだれ込んでいく攻撃、そこに連動感の高い連係が重なって相手を崩していく印象は強いだろう。だが、キャンプで消化した3つの練習試合では、ハイプレスによって相手のミスを誘い、高い位置でのボール奪取から奪ったものが割合としては多かった。

札幌時代から導入したオールコートマンツーマン守備が機能しているということでもあるので、これはこれでスタイルの体現ということにはなるのだろう。だが、その札幌を経験している浅野が「どうなっていくんやろう?」と興味深そうに話すのを見て、名古屋のミシャ式はまた違った顔を見せるのかもしれないという想いにも駆られるのだ。浅野と野上はまた、こうも言う。

「このまま続けていったら自分の知っているサッカーになると思いますけど。ただ、わからないけど、名古屋の選手って全員のクオリティが高いじゃないですか。だからこそやっぱり、今までの“そこ”を目指すのもどうなんやろうという気持ちもありますよ。まったく同じサッカーをするのかなと」(浅野)

「実戦でもとりあえずどんどん入れろ、サイドチェンジして、みたいな感じで。それが今は意識づけで言ってるのか。相手を寄せて寄せてサイドチェンジじゃなくて、どんどんサイドチェンジしろって今は言っている。意識づけなのか、もうそういうサッカーをしていきたいのか、どっちなんだろうって。でもそうすると“主導権をずっと握れるのか問題”が出てくる。寄せてサイドチェンジしないと、カットされてカウンターを食らうので。だから、ある程度は寄せてっていうことになっていくのか、そこは精度を上げてでもどんどんサイドチェンジしろということになっていくのか」(野上)



1年間の充電期間を経て、名古屋の強力な選手層を得たミシャ監督が何を目指していくのかは、正直なところ誰にもわからない。いずれにしてもまだ始まったばかりで、これが土台なのか基本形なのかの区別もつかないからだ。面白いのは浅野にしても野上にしても、あるいは稲垣にしても、「そのままやっていけばいいと思う」(野上)というように監督が決めた方向性で突き進めばいいとするところで、そこにこの名将への信頼感が感じ取れる。稲垣は知っているサッカーの“源流”を体感していることにも感銘を受けているようで、それはこういった言葉にも表れる。

「正直、今までだと“つながっていく”って、それは頭でわかってるけど、『じゃあ、それってなんぞや』みたいな。それはどうやったらつながっていけるんだと、どうやったらボールが動いていくんだと、連係していけるんだっていうところの過程をいま見れているところ。そういったのはひとつ、自分の中では財産になっている」

今までのミシャ式と、これからのミシャ式。名古屋だからできるミシャ式があるいはあるのかもしれないし、監督自身もそこに何かを見ているのかもしれない。こうした選手たちの言葉を聞くにつけ、明治安田J1百年構想リーグの開幕が待ち遠しくなってくる。

Jリーグ史に名を遺す数々の名将を迎えてきた名古屋のクラブ史に、またひとり新たな名将がその名を連ねるのである。しかも、68歳にして新たな挑戦をする可能性が出てきたとあらば、その戦いぶりには興味は尽きない。まずは清水、そしてG大阪と続くこの1ヵ月の戦いに、目を凝らしたい。

Reported by 今井雄一朗

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