さっそくの有言実行だった。明治安田J1百年構想リーグの開幕直前、シュミット ダニエルはこう言っていたのだ。「PK戦は得意です。と、言っておきます」。不敵な笑みから滲む自信。北中米ワールドカップへの出場を諦めていない元日本代表GKは、この特別大会のレギュレーションにPK戦があることを問われ、「おっ、そうですね。『こいつめっちゃPK止めるな』ってなったら、それだけで滑り込みありえますからね」とジョークではない声色で語ってもいる。果たして、開幕戦の清水をクリーンシートで仕留め、2節のアウェイ ガンバ大阪戦でも好セーブ連発で無失点を継続。勝点1を携えてのPK戦で2本を止め、チームの2連勝に大きく貢献した。勝利の立役者ですね、と問うて「そうだと思います」と笑える余裕が、今季の背番号1にはある。
3度の負傷に悩まされた昨季を糧に、そしてバネにもして、心して臨んだ今シーズンだった。オフも身体のメンテナンスに勤しみ、今年からは練習後のクールダウンのジョグを欠かさない。「もうトシなんで労わってやっていかないとね。頑張りすぎずに頑張りたい」とベテランらしい冗談を飛ばしながら、しかし半分は本気でそう思っているとも感じる。開幕2日前にも「まだ2日あるから気を抜かずにしっかりケアしたい」と良い意味での臆病さを見せていた。逆に言えばそれほどまでに昨季の“負傷禍”は彼にとって辛く苦しいもので、それだけに今季のトレーニングで、そして開幕2試合で見せているパフォーマンスには凄みを感じるのだった。
34歳の守護神は自らの手でPK戦勝利を引き寄せたG大阪戦についても、「そんなにキワキワっていうコースのシュートはなかったし」と食野亮太郎の決定機阻止に余裕を見せ、VARで取り消しになったイッサム ジェバリの“ゴール”については「コースは限定できていて、あっちしかない状況で自分の移動が間に合わなくて届かなかった。ああいうのを止めてこそ絶対的なキーパーとして見られるようになる」と謙虚だった。攻撃と得点で試合をマネジメントしていくペトロヴィッチ監督のサッカーにおいては、守備者への負担は通常より重くなりがち。だがシュミットはそれを全面的に請け負う覚悟を固く決めている。
「G大阪のツートップが縦関係になるところをどうやって捕まえるかっていうところと、相手のサイドハーフが中に行った時に誰が捕まえるかとか、そういう部分でちょっと苦労した部分はあったんですけどね。でも多少の苦労はしてこそJ1だと思うし、毎試合のように難しいことはあるので。その中で要は最後にゴールを守ればいい。毎週、反省点は出ると思いますけど、結果にこだわってやっていきたいなと思います。PKはまあ、自分の勘を信じてやってみました(笑)」
それにしても「滑り込みありえる」を意識するような、体現するようなPK戦さばきだった。「勘を信じて」とは100%ヤマカンということではなく、PKという特別なシチュエーションに対する身構え方、考え方といった方が正しい。G大阪が蹴った5本のPKのうち、2本をセーブして1本は枠外へ。この枠外にしても、何やらシュミットが外させたという感覚になるのはあながち間違いではないと思う。開幕2試合を振り返って思うのは「厳しいところに蹴らなければ、このキーパーではシュートが入らない」という威圧感を、名古屋の背番号1が放っていたことだ。もちろんそれは実績もさることながら、その試合におけるセービングの確かさあってのことで、シュミットはそれに値するだけのプレーをピッチ上で誇示していた。シューターの可能性を蹴る前から削るという特殊能力は、一流と呼ばれる守護神たちに共通する、いわゆる“オーラ”に近いものである。

その上でシュミットはこのPK戦への立ち向かい方、インサイドワークを“企業秘密”を交えて語る。師匠との熱いやり取りも、実力を認め合う同業者との心の交流も含めて、充実の表情で。
「PK戦の前にナラさんからは『ダンがいなかったら0-0じゃないし、今日はダンの日だと思うから、思い切って自分を信じて。データも気にせずやっていいんじゃないの』って強く背中を押してもらいました。開幕戦のG大阪のPK戦映像は見てないけど、どこに蹴ったっていう情報は入れていて。でも相手もやっぱそれを見て変えてくる部分もあると思うし、そこは自分のルーティーンで蹴る人なのか、変えて蹴る人なのか、そのPKの前に『ダンがいなかったら0-0じゃないし、もうほんと今日はダンの日だと思うから、思い切って自分を信じて。データも気にせず全然やっていいんじゃないの』って強く背中を押してもらいましたの見極めを自分なりにしながら対応したつもりです。名和田の? そうですねえ(笑)。これに関してはあんまり情報を与えたくないというか、自分なりに考えた結果でした。試合中からヒガシくんもすげえ止めてたし、あの人のプレーなくして0-0で終わることはなかった。でも絶対に勝ちを譲りたくなかったし、こういう状況でガンバが勝ったらヒガシくんがよりヒーローになっていたと思う。そこにシンプルに負けたくなかったっていう思いはありました」
90分で引き分けならば、勝点1にプラスして1ポイントを得られる可能性がある。この大会の特殊性は今後、具体的に順位を争う段階になってもっと意味を増していくかもしれない。G大阪戦においての名古屋はひとり少ない相手を崩しきれずに勝点3を逃した立場ではあり、シュミットも「PK戦じゃない試合で勝っていければ、もっと勝点を積み上げられる。そこを目指してやっていきたい」と考え方の軸を再確認する。その上で、勝点2というエクストラな結果に向けてのキーパーとしての貢献の仕方は興味深いものがあった。あるいはそれは、来る世界大会への彼の想いも、多分に含まれるものでもあったのかもしれない。
「ひとつの姿勢として、相手の人数が少なくなった中で勝ち切れなかった。そこでチームにちょっとネガティブな空気が出るかもしれないと思ったので、とにかくもう早く切り替えて、ベンチに行って自分ができることを、情報収集したりとか、そういうことをやろうという気持ちがありました。こういう試合も少なからず今回の大会はあると思うので、これからもできるだけ勝てるように。PKに絶対はないと思うし、難しいけど、できる限り相手を惑わせて、蹴ることを難しくさせるっていうのは、今日止めたことによって次の相手もPK戦になった場合は多少は考えてくると思う。そうやって考えさせることが一番大事だと思うので、PK戦はそこを頑張ります」
もう一度開幕前のやり取りに戻ると、「(故郷の)アメリカに戻りたいですね(笑)。まずはチームで結果を出せば。そこ次第。結局は順位を押し上げているチームのキーパーが選ばれると思うし、より見られる。そこでうまくアピールしていくしかない」とシュミットは話していた。“順位を押し上げている”とはまさにこの2試合の彼のパフォーマンスそのものであり、PK戦のさばき方は実に頼もしいものをまずは見せた。何より面白いのはある種リスキーな戦い方を標榜するチームにおいて、そのやり方の上で守りの要たる選手が結果を出そうとしていることだ。G大阪戦を俯瞰して見た時、シュミットは顔をしかめて決意を口にするのだった。
「どうっすかね、内容的に。やっぱり監督の描いているような試合ではなかったので、そこはチームとして修正していく、チャレンジをしていく。もっと失点を恐れないでチャレンジしていくっていうのは大事になるんで、自分としても無失点が続いていて、まあビルドアップで引っ掛けてのミスからの失点とかはもったいない気はしますけど、そういうのも起こりうるサッカーをやっているから、そういうものを乗り越えて。チームとしてよりトライできる集団になっていければ、より監督のサッカーを体現できるかなって思います」
昨季にはピサノ アレクサンドレ幸冬堀尾という新星も現れた名古屋のGKチームだが、復活のシュミットはその追随を許さないほどのクオリティを今季は練習から見せ続けている。ふたりの日本代表クラスが競い合う環境というのもすさまじいが、己の実力を示し続け、自らの“手”で目指すべき場所への道を切り拓いていくシュミット ダニエルの姿は「チームを勝たせるGK」を哲学とする名古屋のキーパー陣にとって最高のお手本だ。それだけの男が見せる鬼気迫る毎日に、刺激を受けない選手はいないだろう。
「この大会で“試す”とか、全然そういう感覚はなくて。選手にとっては毎試合が戦いというか、自分が生き残るためのアピールの場。本当に今までやってきたリーグ戦と何も変わらない。ましてやワールドカップイヤーでもあるから、この半年でアピールしたい選手もたくさんいるだろうし、そういう意味では選手にとっては今まで以上に大事な大会になる人もいるだろうし、僕もそう思ってますから」
たぎる想いと、普段は穏やかなそのパーソナリティとのギャップが心地よい。思えば名古屋の背番号1とは、そういう“たおやかさ”に満ちた男たちが担ってきた歴史がある。シュミット ダニエル、通称は“ダン”、ミシャ監督は“ダニ”と呼ぶこの大きなゴールキーパーが、新時代の名古屋を支え守る存在になっていく。
Reported by 今井雄一朗