ストライカーとは結果が全てで、結果ですべてを黙らせるようなことできるポジションではある。練習で決めなくても試合で決めればその価値は上がり、日本人的思考で言えば“練習でできないことは試合でもできない”は、こと外国籍FWにはあまり通用しないこともある。“練習と試合で全然違う”はよくあることで、攻撃は水物という言葉は個人の単位でも通じるひとつの真理だ。その点で言えば、山岸祐也はこの上なく日本人ストライカーだと思う。明治安田J1百年構想リーグの第4節にして生まれた彼の今季初得点は、様々な経緯が絡み合ったものだったからだ。
山岸がサッカーノートをつける選手であることは知る人ぞ知るところ。映像分析も好きで、そのマシンガントークのイメージ通り、本当に思考に思考を重ねて結果につなげてきた男だ。岡山とのアウェイゲームの後半、立ち上がり早々にネットを揺らした一連のフィニッシュワークは「いい駆け引きでした」とシュートに至る過程にも彼の意図が反映された内容の充実したものだったが、元を辿ればその前の長崎戦での反省も下敷きになっているという。
「今日のゲームは過去の自分の映像を見たり、他の選手の映像を見た時にも、名古屋はクロスがここまでも多かったんですけど、あんまりそれに触れるシーンがなかった。だからどういう風にしたらいいかなと試行錯誤している中で、相手の前に入ること、後ろから前に入った時に得点って入っていたりする。昨日の垣田選手も決めてましたけど、ああいうゴールってけっこう多くて。それを今日は意識してやろうかなって思ってた中で、あの場面も最初はニアに入ろうとしたんですけど、相手がニアに重心を置いていた。これはニアに入るフリして止まったらチャンスだなと。で、止まったらクロスが来た。カツは信じてなかったんですけど(笑)、ゴールってそういうもんだと思う。この何試合かをやってみて、『ここに来るだろう』とか『ここに来たらゴールだ』という部分がちょっと足りてなかったから、そこを意識したらどうかというところでのあれは駆け引きでした。ここで止まって、クロスが来たら決められると。そうしたら本当に来たので、カツには本当に感謝しています」
素晴らしいクロスをくれた中山克広のことは、一回落としてから感謝した。中山は「言ってた。あの野郎!って書いといてください」と笑って流したが、「あそこのポジションでの祐也くんはタイプ的にニアに突っ込むというより “止まって”という感じなので、そこにチップで入るようなクロスは意識していた」と相互理解も示す。クロッサーとフィニッシャーの意図が揃ったからこそ生まれた完璧なゴールであり、その前段には山岸の試行錯誤もあったわけだ。意図したからといってすべてが上手くいくわけではないが、「ゴールを取る時ってそういう時だと思ってる。いいゴールだった」と山岸は言う。「来るだろう」という意識の持ち方の部分では、前節の57分、高嶺朋樹のフィードを木村勇大が頭で落としたボールに足が届かなかったシーンが真っ先に思い出される。紙一重かもしれないが、それだけに決められたか、決められなかったかの差は歴然とする。
修正力、あるいは調整力の高さも相まったゴールだった。岡山のハイプレスと高い守備意識の前になかなか攻めあぐねた前半を踏まえ、後半に起きた変化を山岸は「岡山がちょっと落ちた部分はある」としたが、その要因のひとつに「前半からあれだけジャブのように、俺らに動かされたから」とそう仕向けたものだともした。さらにはなかなか前線にボールが入って来なかった前半の中で、何度も繰り返してきた相手を引っ張る動きに対しても、ハーフタイムのロッカーに戻る最中から高嶺らに確認作業を行ない、指揮官の同意も得た。この試合を迎えるにあたっての1週間の準備の中で、ペトロヴィッチ監督が選手たちに口酸っぱく伝えていたことがあった。「まずは背後に相手を引っ張っていくことで、スペースができる。そこで状況を変えていく」。山岸はその指令をまずは忠実に実行し、調整を入れて後半開始直後の攻勢につなげていったのだった。
「相手が疲れてスライドが間に合わなくなってきた部分もあるし、俺がプルアウェイした時には『パスを出せ』と朋樹に対して、ミシャはハーフタイムに強く言っていた。前半にはテルからもそういうパスが1本来て、ちょっと長かったけどあれはあれでいいんです。3バックの相手だったらあのプルをして、それが嫌で相手のサイドが絞ったら勇大が空くし、勇大に対応してワイドが絞ったら奥が空く。その駆け引きの一部だと思ってるから、テルのボールはすごく良かったし、あれは届いていたら得点。届かなくても別に何も問題はない。朋樹からのも4~5回あったんで、ハーフタイムにロッカーに戻る時に『朋樹、あれ出せない?』っていうのは言っていた。そこで『いや、見えてはいた』みたいな会話をしていたら、ハーフタイムでミシャが『それは使え』と言った。前のゲームでもそうだったけど、前にボールが入った時に何かが起きるし、チャンスになるし、相手も嫌だと思う。前に入れないでパスを回しているだけでは意味がないと思う。でもそういうシーンって、それでもパスが来ない時間もあると思うんですよ、絶対に。1試合を通しても。ただ、そこで焦れないで待っていなければいけない時もあるし、パスが来た時のクオリティを出していかなければと思います」
要求するからには責任を負う覚悟はできている。そのために山岸は深く思考し、ピッチで試行する。攻撃的で魅力的、積極的な戦い方を志向するチームとしては4試合3得点というのはまだまだ少ない数字と言わざるを得ない。その最前線を託される者として、山岸は「そこは伸びしろ」とポジティブにとらえ、「ボールが来た時にどうやって仕留めるかっていう部分はもっと成熟していかなきゃいけない」と自らを戒めてもいた。4節目にしてのシーズン初ゴールに至る流れの中でも、「練習ではめちゃくちゃ取れている(笑)。まあ、チャンスは来ると思うので、そこへの動きの回数や動き自体は減らさずに、ずっとやり続けることが大切」と、ストライカーとして狙い続ける姿勢を強調していた。そこに前述の「来るかもしれない」という嗅覚が加わり、ようやく手に入れたゴールの味は格別だったに違いない。山岸は岡山との試合後、改めて自分の原点を見直すような発言もしている。
「ノートも見ますし、それ以外の映像だったり、イメージしてみて“どうかな”って考えたりもする。でも、毎試合考えないで試合してるバカな選手はいないと思うんですよ(笑)。でも、その中で良くなってくために、ゴールを取るために、チームが勝つために、ちょっとでも良くするために“どうするか”っていう中では、それはひとつの手段だと思っている。それがいい形で出たのが今日でした。いい形で出た時はこうやって言うと確かにそういう風に聞こえてくるんだけど(笑)、たとえいい形で出なかったとしても、『もっと良くなるために、こういう風にやっていこう』っていうのは、常日頃から自分に課してというか、やっていかなきゃね。そうしないと成長が止まると思うし、向上心もなくなると思う。その成長とか向上心が止まった時は、“もういいかな”って思った時は引退なので、そこまではもっともっと成長していきたいなと思っています」
その時はしばらく先だろうと思った。今年で33歳になる山岸だが、肉体も精神もまだまだ若々しいもの。何より生来の探求心は尽きることがなく、新体制となった今季はさらにその心が刺激されているに違いない。名古屋での過去2シーズンは負傷にも悩まされ、本領発揮とは言い難かった。そう、我々はまだ本当の山岸祐也を名古屋で見ていないのである。順調にプレシーズンを過ごし、攻撃陣の軸に据えられ、開幕4試合目でゴールも得た。3人を最小単位に11人がつながっていくミシャ式の基本理論に対し、誰とでも合わせられるその特徴的なプレースタイルは親和性しかなく、その存在感と重要度はこれからさらに加速していくことだろう。山岸を起点に攻撃が加速し、山岸もまたゴールを仕留める一人となる。選手としてのピークは人それぞれだが、山岸のそれが今季に、あるいはまだ先にあったとしても不思議ではない。