
0-3で迎えた明治安田J1百年構想リーグ 地域リーグラウンド 第5節・名古屋戦の後半、ここまで怪我で出遅れていた湯澤聖人が今シーズン初めて公式戦のピッチに立った。
「前半、ピッチ外から見ていてもアビスパが弱気な感じが見えたので、『そこだけは出さないでいこうよ』というような話をしながら入りました」
このまま終わってたまるか。プロ選手としての意地。アビスパのエンブレムを背負って戦う誇り。ホームスタジアムに集まってくれたサポーターの想いに応えるように右ウイングバックのポジションに就いた湯澤は、闘争心を前面に押し出し、右サイドで上下動を何度も繰り返して勇猛果敢に戦った。89分に奪った意地の1点も彼の勇敢な姿勢が生んだもの。まずは、積極的な縦突破を仕掛け、FKを獲得。そのFKのこぼれ球が北島祐二に渡ると、中へと切り返した瞬間、背番号2は、効果的なフリーランニングで相手選手を引き付けてスペースを空け、北島がクロスを上げやすいようにサポートした。
本人は「普通のことをやったという感じ」と謙遜するが、この日、ピッチ上で湯澤が表現してくれたそういった姿勢は、見る者の心を確実に揺さぶり、アビスパはまだ死んでいないという強烈なメッセージを発した。
J1の中で予算規模は多くなく、スーパーな選手がいるわけでもない。目の前の相手に負けない。仲間の為に身を粉にして戦う。困っている仲間がいたら助ける。これまで選手同士のつながりを大切にしながら一体感のあるチームを構築し、喜びも味わい、苦しみも乗り越えてきた。「誰がとかじゃなくて、やっぱりチームみんなでやる。そこがアビスパの良さというか、そういうチーム」。福岡にやってきて7シーズン目となる湯澤は、そういったアビスパが決して失ってはいけないアイデンティティをピッチ上で体現し続けている。
名古屋戦は、公式戦で5年ぶりとなる5失点を喫し、リーグ戦4連敗。2失点目につながったボールロストのシーンが象徴するように今のチームには、迷いながらミスをする場面が散見される。ベテランである湯澤の目にはどう映っているのか尋ねた。
「ベンチから見ていても、確かにそういうのは感じましたし、ちょっと悲しい気持ちというか、ちょっとまずいなという気持ち。そこら辺はなんと言うんですかね、すぐ変わるものでもないと思いますけど、やっぱりきっかけは今日できたというか、今日をきっかけにしないといけないと思うので、どうやってチームになっていくかというのをやっていかないといけない」
前回の【取材ノート:福岡】見木友哉と上島拓巳が語る塚原アビスパの現状 でも書いたように今の福岡は、まだチームとしてのベースが固まりきれていない。
「正直、このチームで勝ってきた経験を持っている選手があまり多くないということと、新しく入ってきた選手の中で、どういうプレーをすればいいのか迷っているというか、自分の基準をまだ持てていない段階だとも思うので、だから、やっぱりこうしないと勝てないっていう基準を示さないといけないですし、逆に言えば、戦っていく中で分かっていくことでもあると思うんですよ。強いチームと対戦して、『この選手がこんなにやっているんだ』とか、実際に自分たちより上手い選手がハードワークしている中では勝てるわけはないですよね。それに『ハードワーク』と、結構、抽象的に言うけれど、実際にそれがどういうことなのかというのは、もっと学んで示さないといけません。それは結局、綺麗事ではないなというのもあるし、そもそも何もできないやつが綺麗事で『ここがこう』とか『戦術がこう』とか言っても勝てるわけはないんで、まずは同じ土俵に乗るために、そういったベースの部分というものを、J1のレベルにする必要があるし、J1で6位(を目標)と言っているチームなので、そういうレベルにしないといけないなというふうには思います」
現在、西地区最下位。苦しい状況に陥り、選手だけでなく、アビスパに関わる人々は、下を向きつつある。湯澤は、そんな現状を次のように捉えている。
「(名古屋戦は)コテンパンにやられたので、下を向いている場合でもないというのもあるし、やれることがある選手がたくさんいると思うし、僕もその一人ですし。とにかくピッチ内で気持ちを見せられるかとか、そういったところもあるし、あとは仕組み上、どうなんだろうというのもあるし、そこを合わせていくということがまず必要です。その合わせていく過程の中で誰かが気持ちを見せて良いプレーというか、気持ちの伝わるようなプレーというか、そういうのもしていかないといけないと思っているので、何かきっかけも必要だし、今日をきっかけにしたいと思います。
ちょっとずつ、一歩ずつ階段を昇っていくしかないというか、あんまり『百年構想リーグだからよかったね』というのは話したくないですけど、現状、今そういう状況というか。その中で、本気度を持ってどれだけみんなが本気になれるかというのを今日をきっかけとしてやっていかないといけないと思うし、一人ひとり、みんな頑張っていると思うので、それを合わせてもっとどうやって勝つかというところにフォーカスして、(チームとして)一つになっていく必要はあるかなと思います」
今、求められるのは選手同士が目線を揃え、チーム一丸となって戦うこと。個々の頑張りをチームとしての頑張り、そして勝利という結果につなげていくためには、厳しさと同時に仲間を想い、助け合う気持ちが必要不可欠。それがなければ、チームとしてのベースを固めることは難しいし、崩れている持ち味の堅守の再建も目標の6位以上も夢のまた夢になってしまう。福岡にとって今が踏ん張りどころ。一歩ずつ、着実にチームのレベルを引き上げていくしかない。アビスパを心の底から愛し、これまで共に闘った仲間たちの想いを背負ってこの街の為に必死に戦う湯澤がこれからも魂を注ぎ続ける。
Reported by 武丸善章