神戸市御崎公園球技場には平日ナイトマッチにも関わらず、1万5千人近い観客が集まっていた。ヴィッセル神戸側のゴール裏では試合開始前からサポーターたちがボルテージを上げている。まるで鬱憤の全てをこの一戦にぶつけるかのような大声援だった。
3月11日。神戸はAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)ラウンド16第2戦を迎えていた。相手は韓国の強豪・FCソウル。アウェイでの第1戦を1-0で勝利していた神戸は、この第2戦で引き分け以上なら次のファイナルズ(準々決勝、準決勝、決勝)へと駒を進めることができる。仮に1点差で敗れても延長戦、その先のPK戦で勝てるチャンスがある状況だった。最悪なパターンは2点差以上で負けること。それだけは絶対に避けないといけなかった。
ポイントになるのは先制点だった。神戸が挙げれば、2試合トータルで2点リードの状況を生み出せるため、かなり有利に試合を運べると予想できた。
逆に、先制点を許した場合は合計スコアで並び、FCソウルを勢いづかせる危険性があった。
そして、先制点の行方は後者のパターンになってしまう。
試合の入りは、神戸が厳しいプレッシングで相手陣内に押し込む展開を作り出した。トップの小松蓮がボールを追い、ウイングの武藤嘉紀と佐々木大樹、インサイドハーフの濱﨑健斗がそれに連動し、郷家友太と井手口陽介が絡めとるような流れができつつあった。その包囲網を突破されても、最終ラインには広瀬陸斗、山川哲史、マテウス トゥーレル、永戸勝也の屈強な守備陣が待ち構えている。流れは神戸にあると思われた。
だが、試合後にミヒャエル スキッベ監督が「予想通り、フィジカルを強調したプレーをしてくるチームで、非常に厳しい戦いでした」と振り返ったように、FCソウルの激しいコンタクトプレーで神戸の選手たちが傷つき、体力を削られ始める。徐々に球際の戦いを制すことができなくなると、相手にボール保持される時間が長くなった。
その流れの中で20分に先制点を奪われる。右サイドのチョン スンウォンに佐々木、永戸、トゥーレルが剥がされてクロスを中央に入れられる。ボールはファーサイドに流れたが、それをソン ミンギュに折り返され、最後はパトリク クリマラに頭で押し込まれた。立ち尽くす神戸の選手たち。目の前で先制点を奪われ、ため息をもらす神戸サポーターたち。遠いサイドのゴール裏ではFCソウルのサポーターたちが跳ねて喜んでいた。
悪夢が頭をよぎる。前回大会、神戸はラウンド16で光州FC(韓国)に2-0で先勝していたが、第2戦を0-2で落とし、最終的に延長後半に失点してトータル2-3で敗れている。似たような展開。スタジアムに暗雲が立ち込めた。
ただ、前回大会と大きく違う点があった。それは第2戦をホームで戦えている点だ。サポーターの声援を背に、前半の間になんとかリズムを取り戻した神戸は、運命の後半へと向かった。
ミヒャエル スキッベ監督は絶大な信頼を寄せる大迫勇也を後半の頭からピッチへと送り込んだ。だが、大迫自身が「入りはそこまで良くなかった」と振り返るように、前線からのプレッシングがうまくハマらずFCソウルに主導権を握られる出だしとなった。
52分には主将のキム ジンスに強烈なミドルシュートを打たれ、68分にはキム ジンスのクロスをチョ ヨンウクに頭で合わされる場面もあった。どちらも前川黛也の好セーブでしのいだものの、いつ追加点を奪われてもおかしくない時間帯が続いた。
だが、73分に潮目が一気に変わる。大迫のヘディングシュートがポストに嫌われたものの、この場面をきっかけに反撃ムードが高まった。神戸サポーターの声援がさらに大きくなり、選手たちを奮い立たせていく。そして78分に試合が動いた。
大迫のサイドチェンジが流れてゴールラインを割りかけていたところを、広瀬が猛ダッシュで追いかけ、スライディングでボールを残した。その執念を引き取った武藤が相手DFを身体でブロックしながらキープし、左足でクロスを供給する。そして中で合わせたのは、大外からゴール前に走り込んできた大迫だった。
完全にリズムをつかんだ神戸は前線からのプレッシングを強め、89分には井手口が相手GKのパスをインターセプトし、そこから芸術的なループシュートで追加点を挙げる。相手の戦意をそぐ貴重なゴールだった。そこからスコアは動かず、2試合トータル3-1で神戸がファイナルズ進出を決めた。
プレイヤー・オブ・ザ・マッチ(POM)に選ばれた大迫は、穏やかな表情で記者会見の場に現れた。ラウンド16はあくまで通過点と前置きした上でこう話した。
「(前回大会の敗退から)ラウンド16は自分たちに課せられた課題だと思っていました。ここに照準を合わせてしっかりとトレーニングは積んできたつもりです。新しい監督(スキッベ監督)は若い選手も積極的に使うので、チームとして本当に成長していると思います。僕自身も良い競争の中で成長していけると思うので、これからがまた楽しみですし、ACLはヒリヒリした戦いなので今日も楽しかったです。(ファイナルズでも)そういうヒリヒリ感を味わいたいなと思います」
2試合トータル1-1に追いつかれた状況でピッチに入り、大迫には相当なプレッシャーがあったに違いない。それでも、その「ヒリヒリ感」を楽しめるメンタルこそがエースたる所以かもしれない。ファイナルズが今から楽しみである。
Reported by 白井邦彦
3月11日。神戸はAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)ラウンド16第2戦を迎えていた。相手は韓国の強豪・FCソウル。アウェイでの第1戦を1-0で勝利していた神戸は、この第2戦で引き分け以上なら次のファイナルズ(準々決勝、準決勝、決勝)へと駒を進めることができる。仮に1点差で敗れても延長戦、その先のPK戦で勝てるチャンスがある状況だった。最悪なパターンは2点差以上で負けること。それだけは絶対に避けないといけなかった。
ポイントになるのは先制点だった。神戸が挙げれば、2試合トータルで2点リードの状況を生み出せるため、かなり有利に試合を運べると予想できた。
逆に、先制点を許した場合は合計スコアで並び、FCソウルを勢いづかせる危険性があった。
そして、先制点の行方は後者のパターンになってしまう。
試合の入りは、神戸が厳しいプレッシングで相手陣内に押し込む展開を作り出した。トップの小松蓮がボールを追い、ウイングの武藤嘉紀と佐々木大樹、インサイドハーフの濱﨑健斗がそれに連動し、郷家友太と井手口陽介が絡めとるような流れができつつあった。その包囲網を突破されても、最終ラインには広瀬陸斗、山川哲史、マテウス トゥーレル、永戸勝也の屈強な守備陣が待ち構えている。流れは神戸にあると思われた。
だが、試合後にミヒャエル スキッベ監督が「予想通り、フィジカルを強調したプレーをしてくるチームで、非常に厳しい戦いでした」と振り返ったように、FCソウルの激しいコンタクトプレーで神戸の選手たちが傷つき、体力を削られ始める。徐々に球際の戦いを制すことができなくなると、相手にボール保持される時間が長くなった。
その流れの中で20分に先制点を奪われる。右サイドのチョン スンウォンに佐々木、永戸、トゥーレルが剥がされてクロスを中央に入れられる。ボールはファーサイドに流れたが、それをソン ミンギュに折り返され、最後はパトリク クリマラに頭で押し込まれた。立ち尽くす神戸の選手たち。目の前で先制点を奪われ、ため息をもらす神戸サポーターたち。遠いサイドのゴール裏ではFCソウルのサポーターたちが跳ねて喜んでいた。
悪夢が頭をよぎる。前回大会、神戸はラウンド16で光州FC(韓国)に2-0で先勝していたが、第2戦を0-2で落とし、最終的に延長後半に失点してトータル2-3で敗れている。似たような展開。スタジアムに暗雲が立ち込めた。
ただ、前回大会と大きく違う点があった。それは第2戦をホームで戦えている点だ。サポーターの声援を背に、前半の間になんとかリズムを取り戻した神戸は、運命の後半へと向かった。
ミヒャエル スキッベ監督は絶大な信頼を寄せる大迫勇也を後半の頭からピッチへと送り込んだ。だが、大迫自身が「入りはそこまで良くなかった」と振り返るように、前線からのプレッシングがうまくハマらずFCソウルに主導権を握られる出だしとなった。
52分には主将のキム ジンスに強烈なミドルシュートを打たれ、68分にはキム ジンスのクロスをチョ ヨンウクに頭で合わされる場面もあった。どちらも前川黛也の好セーブでしのいだものの、いつ追加点を奪われてもおかしくない時間帯が続いた。
だが、73分に潮目が一気に変わる。大迫のヘディングシュートがポストに嫌われたものの、この場面をきっかけに反撃ムードが高まった。神戸サポーターの声援がさらに大きくなり、選手たちを奮い立たせていく。そして78分に試合が動いた。
大迫のサイドチェンジが流れてゴールラインを割りかけていたところを、広瀬が猛ダッシュで追いかけ、スライディングでボールを残した。その執念を引き取った武藤が相手DFを身体でブロックしながらキープし、左足でクロスを供給する。そして中で合わせたのは、大外からゴール前に走り込んできた大迫だった。
完全にリズムをつかんだ神戸は前線からのプレッシングを強め、89分には井手口が相手GKのパスをインターセプトし、そこから芸術的なループシュートで追加点を挙げる。相手の戦意をそぐ貴重なゴールだった。そこからスコアは動かず、2試合トータル3-1で神戸がファイナルズ進出を決めた。
プレイヤー・オブ・ザ・マッチ(POM)に選ばれた大迫は、穏やかな表情で記者会見の場に現れた。ラウンド16はあくまで通過点と前置きした上でこう話した。
「(前回大会の敗退から)ラウンド16は自分たちに課せられた課題だと思っていました。ここに照準を合わせてしっかりとトレーニングは積んできたつもりです。新しい監督(スキッベ監督)は若い選手も積極的に使うので、チームとして本当に成長していると思います。僕自身も良い競争の中で成長していけると思うので、これからがまた楽しみですし、ACLはヒリヒリした戦いなので今日も楽しかったです。(ファイナルズでも)そういうヒリヒリ感を味わいたいなと思います」
2試合トータル1-1に追いつかれた状況でピッチに入り、大迫には相当なプレッシャーがあったに違いない。それでも、その「ヒリヒリ感」を楽しめるメンタルこそがエースたる所以かもしれない。ファイナルズが今から楽しみである。
Reported by 白井邦彦