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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:ミシャ式ボランチとの好相性。森島司が名古屋を導き、司る。

2026年3月19日(木)


名古屋における森島司の価値やクオリティは、ボランチというポジションをやってこそ輝きを放つのだろうか。昨季、中長期的な視野における起用法としてのボランチでのプレーに手応えをつかんだ背番号14は、新体制となった今季はいったんその役割を2列目に移し、新たな競争に臨んでいた。しかし不運なことに始動4日目のトレーニングで右ハムストリングスを肉離れし、沖縄でのプレシーズンキャンプも帯同せず。ペトロヴィッチ監督のエッセンスを色濃く受け継ぐ森保一現日本代表監督が率いた広島でのプレー経験から戦術への親和性はもともと高かったとはいえ、公式戦への準備期間を全休するというのは大きな出遅れである。チーム練習へ戻ってきたのは部分合流が2月26日のことで、全体合流が3月4日。いきなりスタメンに抜擢された同14日の神戸戦ではシャドーの位置で45分間のプレーとなったが、彼本来の良さはそれほど発揮されたとは言えなかった。

その2日後から、ミシャ監督は森島のボランチ起用を試みることになる。彼はシャドーでも十分に機能する特徴を持っているが、チームはそれとは別にボランチの適任者を探してもいた。稲垣祥や高嶺朋樹、椎橋慧也ら候補者は多くいる。神戸戦では選手交代の流れの中で和泉竜司ですらこの役割をこなした。だが、それまでの公式戦6試合を通じて物足りなかったのは、3‐4‐3から攻撃時4‐1‐5に可変する布陣のへその部分、“1”のポジションでシステムの前後をスムーズにつないでいくリンクマンの存在だ。前述の候補選手たちも当然のごとくこのタスクはこなせるが、“こなす”だけではチームの攻撃は安定しない。戦術の意図を理解し、正しい選択をする確率が高く、相手のプレッシャーを受け流しつつチームを攻撃で前進させていくことができる人材を、指揮官は求めていた。それはおそらく高嶺に任せることもできたが、高嶺には“4”に加わっての最終ラインからの組み立てに力を見せてほしくもあった。この部分に一発回答を出したのが、広島戦での森島だった。



「まずは良いポジションをとってということを意識して、そこからは前にどれだけパスを送れるか」。森島の出発点はポジショニングと縦パスだったという。4バックの形に変形した最終ラインとゴールキーパーからボールを引き受け、その後のベクトルをできる限り前に向ける。“4‐1”と“5”がタイミングを合わせ、精度の高いパスでつながっていくことによって、自然と相手は後手を踏んでいくというのが彼らの戦い方の土台にはあり、それゆえに最大の中継地点である“1”を務める選手の受ける位置の良さ、パスの精度は攻撃の土台の質を決める重要なものになる。そこで森島はどうだったかと言えば、ボールの引き取りも実にスムーズで、かつ前を向く能力が高く、相手のプレッシャーを逆手にとるように、どこかダンスのステップを踏むように滑らかにプレーした。「ちょっと自分のミスも多かった」と反省はしつつ、このチームのボランチとしての振る舞いは一定以上の手応えと共にできていたようだ。

「動きすぎないことはちょっと意識しました。だから前後でバックステップを踏んだりとか、そういうことも意識しましたね。左右に動きすぎて相手についてこられたらボールが回しにくいだけだなと思ってたんで。今日はすごくボールの動かし方が良かったシーンも多かったので、そういうものは続けながら、もっと時間を作れるところはチーム全体としてあったと思うので。押し込まれた時間帯ではしっかり押し返したいし、ボランチが重かったシーンも多かったので、そこはもっと時間を使えればと、自分らの時間にできるようにということで考えていました」

動きすぎないこと、と聞いて思い出したことがあった。始動間もない時期にボランチでプレーしていた菊地泰智が、“経験者”である高嶺からアドバイスを受けていたのだ。「『もっと“そこ”にいてもいい。そこはもっと動かないで真ん中にいて、ボールに合わせて中心にいればいいと思うシーンもある』って」と。この時の菊地は無意識に受け手側の方へ寄って行ってしまう傾向があり、ボールに関わり続けることが難しいという文脈での、高嶺の助言だった。森島も直接ではないまでも経験者の側に近い出自を持つ選手だけに、こうした動き方の部分では自分の中に感覚もあるのだろう。ただ、まだまだ復帰2戦目のプレーヤーだけにインテンシティの部分では自分で物足りないところもあるらしく、セントラルMFとしての出力にもこだわりをもって、次の試合につなげたいと語る。

「攻撃の部分はシャドーの時よりパスを受ける回数が多かったりするので、そういうところはやりやすいんですけど、守備のところでみんなに助けてもらっていたので。去年の最後の方からボランチをやらせてもらって、そこはどんどん良くなってきたところでもあったので、もっとコンディションを上げて、自分がみんなを助けられるように頑張りたい。それに毎回良い崩し方ができていたわけではなかったので。今日は比較的、自分たちの時間を作れたりというシーンは多かったんですけど、それをもっと継続してできたところはあると思う。ここからもっと慣れてくると思うので、自分たちの時間を増やせるように、ピボットとかそういうところがすごく大事になってくるので、意識していきたい。守備もこのサッカー、マンツーで行き続けるというのは無理だと思うので、時間作って、その中で取られたらまた行くというのが理想だと思う」

謙虚なる森島だが、“ボランチ司”の効能を仲間たちも証言する。セットプレーから広島戦では決勝点を挙げた木村勇大もそのひとりで、その解説はとてもわかりやすい。

「まず感覚は自分とすごく合うと思うし、彼がそこにいるからボールの配球もすごくスムーズになった。そこで朋樹くんが1列下がったけど、いつも結局は1列後ろから持ち出してくるから、同じような感じでバランスは取れていたし、距離感もそんな悪くなかったと思う。それもあってセカンドボールをけっこう拾えていたし、前半はそこがすごく良かったんじゃないかなと思います。モリシくんはやっぱり前を向いてくれるんですよ。相手が来て、言い方悪いけど、『ここはちょっと怖がって逃げちゃうんだろうな』って思う場面でもひとつ持ってくれるというか。ひとつタッチしてくれるから、『あ、パスが来るんじゃないか』みたいな自分の準備ができたりもする。逆に俺がDFの背後を狙っていて、そこから戻ってきてタイミングが遅れている時とかでも、ひとつタメを作ってくれたりする。怖がらずにずっとボールに絡もうとし続けてくれるし、顔を出し続けてくれますよね。もちろん前にパスを入れる回数も、距離感もすごく意識してくれていると思う。そういう意味で、すごく今日はボールが循環した感じになったと思う。すごく、今日はボールがいい形で前に入る回数があった」

そして木村は“知らんけど”といった風情で「練習でほぼ1回もやってないけど、いい形でやれたんじゃないですか」と付け加えた。正確に言うと森島のボランチはやっていたが、この日のスタメンでは合わせたことがないという意味合いだろう。「でも、確かに今日はリズムが変わった」とふと気づいたようにつぶやくその表情からは、自分たち攻撃陣に強力な援軍が到着したという期待感が見て取れた。



森島のプレーがどれだけ試合を左右していたかは、前半のシュートがわずか1本に終わった広島が、後半開始からフォーメーションを変えてきたことでも良く分かる。それは間違いなく“森島シフト”の要素があり、事実、その変更への対応が遅れた名古屋は約20分間の劣勢に陥り、1失点も喫している。前半よりも明らかに大きくなった森島への圧力はイコール名古屋の前進する力の減退を意味し、あれだけ小気味よく前に進んでいった攻撃が、押し込まれた守備からの半端な距離のクリアにしかならず、あまりにてきめんすぎて今後が不安になるほど。「俺らがアジャストできなくて失点したのはすごく反省で、後から見たら『こうすればよかったね』というところはあったので、最初からもっと早く伝達できていたらよかった」と森島は振り返ったが、彼の個人戦術の部分でも、チームの対応としても、その両面からボランチ森島の活かし方は再考していく必要がある。

ただ、これが初回ということを思えば大きすぎる収穫を名古屋は手にしたことになる。森島自身としても、これが満点だとは当然思っていない。広島戦で生まれたセットプレーからの2得点にはふたつともに直接かかわっているが、まだまだ関わり足りない。「やっぱり僕からは裏のボールとかでちょっとミスったり、出せたところを出せなくてミスったな、というところはあったので。“決定的なパス”はもっと出したい」。昨季のボランチ覚醒は闘争心やデュエルの部分での殻を破った感が強かったが、今回のそれはまさしく“覚醒”、彼本来の良さが今までと違うポジションで発揮されたという発見にも似たものだった。「ピボット」という言葉を森島は使ったが、ビジネス用語的には方針転換などの意味を持ち、スペイン語で言うところの「ピボーテ」はまさしくボランチを指す。フットサルにおける「ピヴォ」は攻撃の起点となるFW的なポジションのことだが、どれをとっても共通するのは、チームの方向性を決める人ということだ。森島はそのセンスで、技術で、もちろん勝利への執念でもって、名古屋を導く存在になる。

Reported by 今井雄一朗