
中2日での3連戦の3戦目となった明治安田J1百年構想リーグ 地域リーグラウンド 第8節・ガンバ大阪戦。6連敗と苦境に立つ福岡に救世主が現れた。
その名は、辻岡佑真。まずは、1点ビハインドの22分にCKの流れから前嶋洋太の放ったシュートのこぼれ球に反応し、移籍後初ゴールを奪うと、再びリードを許した後半アディショナルタイムには、FKの流れからナッシム ベンカリファのパスを落ち着いたファーストタッチで良い位置にボールを置き、左足のアウトサイドで流し込んだ。「逆に僕からしたら右足のほうが難しいと思って(笑)。しかもタイミング的に綺麗にコースも見えたので、あとは流すだけでしたね」。土壇場で飛び出した技ありの同点ゴール。この日2得点を挙げ、チームの連敗を止めるJリーグ史上最長のPK戦での勝利につなげた。
「得点を決めるというのは、非常に嬉しい誤算でしたけれども、空中戦も前回の試合も含めて非常に良くなってきていると思いますし、左からの配球というのも、彼が入ってから左の攻撃がすごく活性化されているので、非常にいいプレーをしてくれていると思います。この数試合でも伸びているなというのは感じます」(塚原真也暫定監督)
空中戦に強く、スピードもある身体能力に優れたセンターバック。相手の強靭なストライカーや速さのあるウインガー相手にも物怖じせず、強い気迫で立ち向かっていく24歳は、左足からの鋭い縦パスや精度の高いフィードを見せるなど配球面にも長け、攻守に存在感を示している。
今シーズン、いわきから完全移籍で加入した辻岡。昨シーズンは、期限付き移籍先の北九州でJ3のベストイレブンに輝いた実力者も最初からJ1のレベルに適応できたわけではなかった。初先発となった第5節の名古屋戦で5失点を喫し、自身もイエローカードを2枚受けて退場。J1ならではのプレー強度の高さとプレースピードの早さを痛感し、悔しさを味わった。
自分は、J1でやっていけるのか。自信を失い、下を向きかけた。でも、そんな彼を先輩たちが救ってくれた。「常に準備することが大事で、J3でやられてないところがJ1でやられるというのは名古屋戦で体感したと思うから、自信を失わずにやっていったらできるから」。これは、いつも若い選手たちがのびのびと自分の特徴を発揮しやすいように背中を押すキャプテンの奈良竜樹から授けられた言葉。たとえ、レギュラーを争うライバルであっても困っているチームメイトがいたらみんなで助ける。個で劣っている部分は組織でカバーする。常に仲間のことを想い、選手同士のつながりを大切にしてきたからこそ、これまでアビスパは百戦錬磨の強者たちが揃うJ1で生き残ってきた。「リーダーシップの部分でもそうですし、サッカーIQのところでもそうですし、闘う気持ちというのは本当に学ばせてもらっている」と辻岡が尊敬の眼差しを向ける奈良のみならず、「本当に先輩方がいないと本当にこのメンタルを保てていなかったと思うので、本当にアビスパに来て良かった」と感謝するように福岡で長くプレーし、アビスパに息づくアイデンティティを体現するベテランの湯澤聖人や田代雅也も辻岡の心を支えた。
辻岡が立て直したのは、メンタルだけではない。出場停止となった第6節の長崎戦を映像で見ながら自身のプレーも見つめ直した。特に奈良の姿が参考になったと言う。
「奈良選手がラインアップとかしっかりやっていたので、ここまでラインを上げたらコンパクトになるんだなとか、ボールホルダーにプレッシャーが掛かるんだなというのは本当に実感できた」
長崎戦の直後、奈良はこんな言葉を残している。「全員がコンパクトにして、お互いが常にカバーし合える距離感を作る。そのコミュニケーションを取り続けるというのは、誰でもできると思っているから。ただ、そのやり方を知らないだけで、それは知っている選手からピッチの上で学ぶというか、感じて、次はその選手がリーダーシップを取ってやっていけばいいというものだと思っている。
若い選手たちに映像を見せて、こういうプレーだよというのを言ったり、口でこういうプレーだよと説明するのでは、そこまで刷り込まれないと思っているから、そういう選手が実際に一緒にピッチに立って感じてもらわないとというところ。『これぐらい寄せるんだ』とか、『これぐらいラインを上げるんだ』とか、『これぐらい中を締めるんだ』とか、そういうところは、やっぱり雁の巣(練習場)と公式戦では少し違うところもあって、対峙する相手も違うし、プレースタイルも違うし、その中でも、ベースの部分というものは変わらない。これから多分いろんな選手がチャンスを掴んでいかなければいけないと思うんで、それを一緒にピッチで感じてもらうための、自分はそういうふうな役割をしっかり果たせるように、僕だけじゃなくて、そういうものを示せる選手が何人かまだいるんで、彼らと一緒に、しっかりと踏ん張ってやっていきたいなと思います」。
脈々と受け継がれている福岡がJ1で生き残っていく上で欠かせない「堅守」構築のための意志。常に目指している無失点はまだ果たせていないが、長崎戦を境に守備陣形がコンパクトになり、チャレンジ&カバーをしやすい状況になったことで、センターバックの選手が前向きにボールを奪う回数は増加。「前の選手も頑張ってしっかりプレッシャーを掛けてくれますし、後ろはそこを取るだけと言ったらあれですけど、限定をしてもらっているので、そこは本当に前の選手に助けてもらっているなと思っています。球際の部分でみんなの気持ちが出ていると思うので、ここ2試合は本当にその気持ちという部分は、一番大きな要因じゃないかと思っています」と話すようにチームとしての戦い方が整理され、狙いとする形が表現できつつある中で、辻岡自身も前節の清水戦、今節のG大阪戦と特徴を遺憾なく発揮している。
「本当にサッカーってチームスポーツなので、そこは本当に左右の選手だったり、前の選手とかとしっかりコミュニケーションをとってやっていければ自分でも守れるというのは、この2試合で体感したので、もっともっと良くなるように練習からコミュニケーションをとっていきたいと思います」
試合を重ねるごとに落ち着きは増し、視野も広がっている辻岡。J1の舞台で戦う自信を掴みつつある中で、ここまで先輩たちに助けてもらった分、「もっと自分がリーダーシップを持って」という気持ちが強くなっている。がむしゃらにピッチで戦う背番号15がこれから福岡でどんな成長を見せてくれるのか楽しみだ。
Reported by 武丸善章