Js LINK - Japan Sports LINK

Js LINKニュース

【取材ノート:名古屋】大きなポテンシャルをいま再び解放せよ。藤井陽也の向上心に、いま火が点いた。

2026年4月9日(木)


ようやく、という思いがした。明治安田J1百年構想リーグの折り返し地点となる第9節C大阪戦で我々は、ようやく本当の藤井陽也を見たのではないか。昨夏にベルギーから1年半ぶりに古巣へと帰還した純血のグランパスっ子は、その前にオペまで行った負傷からの回復が完了しておらず、欧州ではオフ明けということもあって2025年はついぞ彼の真骨頂を見ることはなかったと記憶している。だからこそ、ここで本領発揮が見られたことはただただ嬉しいばかりで、名古屋にとってもそれは大きな追い風を吹かせる朗報だと言えた。

藤井の特長は、オールラウンダーであることだ。それは現代型のセンターバックにはもはや常識になりつつある素養なのだが、誰もがなれるものでもない。187cmの長身で競り合いに強く、対人守備が武器だと自負するだけの個で守る強さもある。加えてこの長身ながら足も速く、ドリブルも得意でキャリーが上手い。おまけにキック力もあってロングフィードの飛距離も出せるので、サイドチェンジも彼の持ち味だ。ちなみに縦パスを入れるセンスもインサイドキックの鋭さも持ち合わせる。これだけ書くと完全無欠なので、危機察知の部分にまだまだ甘さがあることは付け加えておきたい。そこを詰めれば彼は日本代表の一員に定着できる逸材である。

そうした高い能力が負傷やコンディションなど様々な理由で発揮されてこなかったところ、件のC大阪戦では申し分なく彼がプレーしたからいまご紹介したいわけだ。強い風と冷たい雨、あいにくの悪天候にもかかわらず、藤井はC大阪の巨漢・櫻川ソロモンを完封し、相手の起点をほぼ無力化した。単なるパワー勝負でも負けなかったが、読みを利かせたインターセプトやその際のボールの処理の仕方が素晴らしく冷静で、周囲がよく見えていることも感じさせた。今の名古屋はミシャ式の文脈に則って前線3トップがいかに機能するか、そこにウイングバックがどこまで呼応できるか、といったあたりが攻撃におけるバロメーターになっているが、そこにボールを供給する側としての藤井の存在感もとても大きくなっている。この日はそうした守備面の圧倒が攻撃への接続もスムーズにし、攻守両面での背番号13の頼もしさといったらなかった。


本人の言葉を聞いてみよう。想定とはやや違った相手を前にしても、落ち着いて対処していたことがよくわかる。

「前節のC大阪はフォワードタイプというよりは、トップ下タイプを2枚置いて、フォワードがいない状態の戦い方をしていたので、今回はどうなるかなっていう感じだったんですけど、ソロモン選手を使ってきた。もうそこからはシンプルに彼を起点にさせないっていうところが本当に大事になった試合になったと思います。前半は少し向かい風の影響もありましたし、なかなか競り合いも難しかったですけど、ゼロで抑えられた。攻めている時の後ろのオーガナイズも悪くなかったです。そこはもっともっと自分が声を出してやらなきゃいけないですけど、悪くはなかったかなと思います。なかなかコンディション的には難しい試合になりましたし。そこでミスが出ちゃうのは自分たちも相手チームにもあり得ることだったので、そこのミスの後にどうリカバーできるかっていうのもすごく大事でした。相手のミスによるこちらのチャンスもありましたし、そこを決めなきゃいけなかったですけど、逆に自分たちはそういうミスからのところは最後のところでしっかり守れていたのはすごくよかったかなと思いますね」

相手には名古屋のマンツーマン守備はお見通しであり、大きなポジションチェンジなどで思惑が狂わされる箇所も多々あった。藤井はDFリーダーとして「全員がハードワークしないとこの守備はできなかった。自分たち後ろだけじゃなくて前の選手も頑張って守備をしてくれたことが、一番大きな要因だった」と仲間に感謝する。その上で自分の見せたパフォーマンスについて問われると、努めて謙虚さを保ちながら、抑揚を抑えて話し出す。



「後半はちょっと風も落ち着いてきて、しっかり競れるようになったので、そこで上手く優位を取れていました。あとは地上戦でも相手にうまく身体をぶつけて、しっかりボールを奪い切るっていうところもできていたと思うんです。でもそれはもっと前半から、前半は難しい状況でしたけど、やらなきゃいけなかったと思います。チームがバタバタしている時こそ自分のところでしっかり落ち着かせるというのは今後の課題かなと思うので。ロングボールのところは今日は少しミスもありましたし、4バックの相手には特にウイングバックが空くので、そこをしっかり通せれば、もっともっといい攻撃ができたと思います。今のウチは中山選手に1対1の状況を作ればほとんど勝てるので。カツくん(中山)はクロスにも行けるし、チャンスを作れている状況なので、そこに良いパスを届けられれば攻撃により厚みができると思う。それを見せておいてシャドーの選手、その前のフォワードの選手も全部見えている上で、一番良い選択ができるような。自分はそういう技術をもっともっと上げていきたいなと思います。自分はそういう、起点を作らなきゃいけないポジション。長いパス、短いパスを含めて、もっともっと起点にならないと」

面白い兆候だった。もちろん、DFラインにこそ高い技術やパス能力が求められるチームスタイルであることは、ミシャ監督になったことでJリーグの誰もが知る、揺るがぬ事実である。そして藤井もそこに適合しうる選手であることは間違いないのだが、以前の藤井ならば自分にブレーキをかけるように“自分は守備の人間だから”という注釈をつけていた気がする。今の藤井が守りを疎かにしているわけでは当然ないが、そこにモチベーションの炎がめらめらと燃えているようないま、彼は第2のブレイクスルーの時を迎えようとしているのかもしれないのだ。

「このリーグも半分が終わって、良い試合、良くない試合もありましたけど、全体的に守備の負担っていうのは昨年より少し増えていて、その中でビルドアップっていうところも求められている中で。自分はもっともっと攻守においてできると思いますし、ミシャになって自分のプレーというのも少し、プレー選択も変わってきたりもしています。ボールを持った時の運ぶ意識とか、逆サイドへのサイドチェンジの意識とか。より前を選択するっていうところは明らかに変わったなと思いますし、そこの精度をもっともっと求めてやっていきたい。ボールを持った時に見ている中での良い選択ができればなと思いますし、『前が空いてる時は運べ』とも言われているので、運んだ後の選択肢は、運んだ後パスにはもっともっとこだわらなきゃいけないなとも思います。今は良い意味でもっともっとスケールの大きい選手になれるチャンスだとも思うので、もっともっとチャレンジして、この後半戦もやっていきたいなと思います」

いったい何度「もっともっと」と言ったのか。藤井の向上心はいま刺激されまくっているようだ。普段はものすごく陽気に話すのに、こうした取材の場ではちょっとトーンを落として訥々と話す。たまには“はるちゃん”の顔も見せてほしいが、20代も半ばを過ぎては落ち着こうという気持ちもあるのかもしれない。と言いつつ、実は褒められると嬉しいことも知っている。C大阪戦ではワンステップで距離のあるサイドチェンジを通した場面があり、そのことを尋ねると「まあまあ(笑)、でもなんか今日はあんまり風もあって調子は良くなかったですよ」と相好を崩した。そのギャップ、ずるいぞ藤井陽也。ともあれ、そういう確認事項も含めてやはり藤井は良い時の藤井に戻ってきている。それは“ミシャ監督の”という枕詞なしに、名古屋グランパスにとってかなりの好材料である。



そして今週、そして来週はこのDFリーダーの躍動が不可欠な試合が続く。ホームでは完敗した神戸とのアウェイゲームは強度がキーワードになるタフな戦いとなり、強力な攻撃陣に立ち向かうには守備陣の奮起が欠かせない。上位に食い込んでいくにも首位との直接対決は重要性が増す。そしてその次の週には2020年から改修に入っていた“聖地”と呼ばれるパロマ瑞穂スタジアムのこけら落としとなる福岡戦が待っている。かつての瑞穂ではプレーした記憶よりもアカデミーの選手としての観戦経験の方が記憶に強いと言い、一番強く覚えているのが2016年のJ2降格が決まった試合。それだけに「とても辛い記憶だけど、今度は本当にいい記憶を皆さんに持ってもらえるようにしっかり頑張りたい」と意気込む男の活躍に、期待しない方がおかしいだろう。

「勝ちながら修正していくのが一番良いと思いますし、本当に十分に上を狙える順位です。本当に結果、内容ともに毎試合こだわっていければ、もっともっと面白いサッカーを見せられると思うので、自信もってやっていきたいなと思いますね」

良い意気込み、良い心持ちである。その才能は間違いのないところがあるだけに、あとは“もっともっと”いい選手になっていくだけだ。名古屋の背番号13はアカデミー出身選手に受け継がれる伝統の番号でもある。背番号7と並んで、名古屋の顔となるべき選手がつける番号を背負って、藤井陽也が攻守を引っ張る。

Reported by 今井雄一朗