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【取材ノート:福岡】愛するクラブへの帰還。福岡のアイデンティティを体現する永石拓海の強い想い

2026年7月7日(火)


練習場に響き渡る一際大きな声。仲間を鼓舞し、仲間へ的確な指示を送る。永石拓海らしい姿が半年ぶりに福岡に戻ってきた。

百年構想リーグで期限付き移籍していたJ2の徳島から復帰。「僕たちが帰ってきた理由というのはそれ」と口にするように永石を含め、新たに加わった選手たちから既存の選手たちが刺激を受け、8月に開幕する新シーズンに向けてハツラツとトレーニングに励んでいる。

191cmの長身を活かしたシュートストップとハイボールの処理に加え、最終ラインの背後のスペースケアや柔らかく美しいフォームから繰り出されるロングフィードが特徴のGK。2021年、福岡に加入すると徐々に出場試合数を伸ばし、2023年にはキャリアハイとなるリーグ戦14試合に出場。J1でのクラブ最高順位(7位)とクラブ初タイトルとなるルヴァンカップ優勝に大きく貢献する。だが、2025年は大幅に出場機会を減らし、百年構想リーグはチームを離れる決断をした。徳島では13試合に出場。西地区A組で一時は首位を争うチームの中で活躍を見せたが、古巣への想いが消えることはなかった。

「離れてみたことで、僕の中でのこのチームに対して持っている感覚というのは特別なものだなというのが、すごく分かったハーフシーズンでした」

福岡は特別なクラブ。その言葉の根底にはどんな想いがあるのか尋ねた。

「僕を育ててくれた一番のクラブでもありますし、一番最高の思い出を分かち合えたクラブだと思っているので、もう1度タイトルを獲りたいというのがリアルなところです。そこに手を届けるのは簡単なことではないですけど、でもポテンシャルがあるチームだと思っているので、ポテンシャル、伸びしろだけで終わらせないように、ベテラン選手がいなくなったりする中でも新しい芽が出てきて、ここを踏み台にするクラブじゃなくて、ここで強くなるクラブ、ACLに行けるクラブになっていきたいと思っています」

ここを踏み台にするクラブじゃなくて、ここで強くなるクラブになっていきたいという言葉を聞いて筆者はハッとさせられた。今のJ1を見れば福岡よりクラブの規模が大きなところばかり。これまで国内に限らず、海外へステップアップを果たした選手も数多くいる。決して長くはないプロサッカー選手人生を考えれば当然のこと。福岡から羽ばたいていくのはどこかで致し方ないことだと思っていた。

もちろん、現実的に今すぐクラブの立ち位置を変えることは難しいし、一人の力でどうにかできる問題でもない。ただ、永石の言葉はシンプルに愛する福岡を強くしたいという熱い想いが十分に伝わるものであり、これから目指していくべき指針を示してくれたように思う。

それを実現するためには自分たちの足元を見つめ、一つずつ課題をクリアしていかなければならない。チームの目標である「リーグ戦6位以上・カップ戦優勝」を達成し、ACLへの道を切り拓くには福岡のベースである「堅守」を取り戻す必要がある。

西地区最下位、全体で19位に沈んだ百年構想リーグは、リーグ5位タイの多さとなる30失点を記録。サッカーの大事な時間帯と言われる前後半の立ち上がりや終盤に失点し、勝点をとりこぼす試合が多くあった。守護神として永石は、失点数減への考えを次のように示す。

「シュートを打たせなかったらやられないのが大前提だと思いますし、打たれて止めることも大事ですけど、やっぱりそれ以前のオーガナイズだったり、選手と選手との距離感だったり、みんなにはなくて僕にあるものと言ったらそういうところだと思うので、そこを全面に出せば失点数は減りますし、そこは徳島でも求めてやっていました。カテゴリーは違いますけど、サッカーの本質は変わらないので、大事にしていきたいと思います。

(百年構想リーグは)監督も代わって、選手もあれだけ変わって、それを当たり前に引き継ぐというのは多分難しいと思います。でも、今残っているメンバーにできることもたくさんあって、そのストロングとウィークを見極めて、僕個人もそうですけど、こういうところが強いというのを早く見せることで、そこ以外のところを他の選手に補完する、僕がカバーするという形になると思いますし、逆に僕の苦手なところをみんながカバーしてくれるというのも出てくると思いますし、そういうところは支え合う必要があるかなと思います」

これまで優勝争いを繰り広げ、上位進出を果たしているチームを見るとGKが一人に固定され、シーズン通して高いパフォーマンスを発揮しているケースが多い。ただ、永石は必ずしもそんな必要はないと思っている。

「長いシーズンになると思いますし、今までなかった夏スタートという状況でイレギュラーなので、1人で守るというのは簡単じゃないですし、僕たちはキーパーが4人いますけど、新しい刺激が入って、また刺激し合うことでそれぞれが伸びていくと思うので、その辺は1人で全部守るとか、そういうのは言わずに4人で少しずつ伸びていけば良い争いができると思います」

福岡はJ1で圧倒的に個の能力の高い選手が揃っているわけではない。仲間の為に身を粉にして戦う。困っている仲間がいたら助ける。これまで選手同士のつながりを大切にしながら一体感のあるチームを構築し、喜びも味わい、苦しみも乗り越えてきた。

脈々と受け継がれる福岡のアイデンティティ。「1人で全部守るとか、そういうのは言わずに4人で少しずつ伸びていけば」という言葉が自然と出てくるように永石は、チームが大事にしているものをきちんと理解し、これまでもその姿勢を体現してきた。

たとえ、控えに甘んじてもベンチからラインギリギリのところまで前に出てピッチに立つ選手に声を掛け、いち早くボールやドリンクボトルを渡す。試合に出られない悔しさを一切見せることなく“最前線”で仲間をサポートし続けてきた。

「例えば、僕がサブで他の人が試合に出ているときに、出ている人が気持ちよくプレーできないと、僕が試合に出た時にその選手は良いサポートをしてくれないと思っていますし、そこはギブ&テイクだと思っているので、『俺もやるからお前もやれよ』というぐらいの感じは常に持ってやりたいと思います」

福岡がどういうチームなのか、どうやってJ1に生き残ってきたのか。先輩たちの背中を見て育ってきた30歳の永石は、今シーズン、GK陣最年長となった。

「僕の中での持っている基準というか、そういうものを若手だったり、チームのみんなに伝えられたら」

2025年に加入した24歳の小畑裕馬、2026年に加入した25歳の藤田和輝と28歳のオビ パウエル オビンナ。近年、GKチームの顔ぶれが変わる中で、GKとしてのプレー基準の高さを示すだけでなく、福岡が決して失ってはいけないアイデンティティを伝播させていく役割も担う背番号1は、鋭い眼差しで次のように個人的な今シーズンの目標を掲げる。

「まずは、このチームをJ1に残すこと。勝点を拾えるゴールキーパーになるというのは常に思っています。全勝できるキーパーなんかいないですけれど、負け試合を引き分けに持っていけたり、引き分けを勝ちに持っていけたり、そういうところを拾っていけるキーパーというのは、どのクラブにも必要だと思うので、個人でいろいろ頑張るというよりは、チームとしてまずここに残ることが大前提なので、そこをベースにしながら上積みができてチームが勢いに乗っていければ、リーグ戦6位以上というところ、そして僕も2023年にJ1での最高順位を経験しているので、そういうところに持っていけるようにしたいですね。その時の雰囲気はどうだったのかなと思うところもありますし、今の雰囲気じゃ足りていないなと思ったりすることもありますし、そういうのを思い出しながら良くしていきたいと思います」

福岡を強くするために。永石は強い想いで愛するクラブをより高いレベルへと引き上げていく。

Reported by 武丸善章