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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:名古屋が目論む“構造改革”の第一歩。16歳のキャンプ帯同に見える、クラブの本気度とそのメリット。

2026年7月9日(木)


クラブの本気度がうかがえるサマーキャンプの取り組みだった。「広島や浦和、札幌でのキャンプの時にもずっとやってきたし、名古屋でも同じことをやりたいという思いはあった」。これまで20年間のJリーグでのキャリアにおいて、数々の素晴らしい日本人選手たちを育ててきた名伯楽としての顔も持つ、ペトロヴィッチ監督はきっぱりと言う。服部健二スポーツダイレクターも「ミシャさんは、例えばトップチームのサブに入っているような選手が移籍をしましたと。その時に選手を取ってくるのかどうかって言ったら、『なんでだ。高校3年生の若いあいつがいるじゃないか。あいつをトライしよう』って言う。我々もそういうことをしていただきたいところがあった」と、その考え方を支持する。Jリーグのシーズン移行とともに始まるU-21 Jリーグへの布石としてもそうだが、アカデミーをプロ養成機関としてだけでなく、もはやセカンドチームのような場所へと格上げし、有能なプレーヤーには常に上のステージでの経験を積ませてより大きく強く育てていく。それはヨーロッパではスタンダードでもあり、これからの時代を戦い抜くには必要だと、名古屋グランパスが本腰を入れた証拠でもあった。

それは何が、と言えば、苫小牧で始まったキャンプのメンバーに、アカデミーから高校3年生のオディケチソン太地と、1年生の深谷朔共、竹内悠三が帯同しているのである。3年生のキャンプ帯同は珍しいことではないが、それが1年生となれば話は別だ。4ヵ月前までは中学生だった選手が、プロの、しかもJ1のトップチームの練習にスポットではなくフル帯同する。さらには5日に行われた大学生との練習試合ではプロに混じって2本80分間をプレーし、一定以上のパフォーマンスを披露もしている。ここまでくれば、クラブがいかに本気かということが本当の意味で理解もできてくる。夏の補強はなかった名古屋だが、補強ポイントとされるポジションは確かにあった。その箇所に対して、今は若い力の台頭に期待をしてみようというのが、クラブの答えなのだろう。このキャンプには27年シーズンに加入が内定している大磯竜輝もおり、いわば自給自足の道をより太く、頑丈なものに作り替えていこうという意図が透けて見える。服部SDはこうも言う。「我々は常に、U-21に出ている選手だったらトップチーム。U-18に出ている選手だったらU-21。U-15に出ている選手だったらU-18でと考えている」。レベルに合わせた成長環境を提供し、より分厚いクラブになっていこうという気概は強い。

では、当人たちはどうか。「トップチームを目指す中で、キャンプに最初から最後まで参加できるのはほんとに自分にとってすごくいいこと」とオディケは言う。トップチーム昇格も噂される長身俊足のセンターバックはその風貌からペトロヴィッチ監督に「ライカールト!」とイジられている。192cmの高さを活かした空中戦の強さと50m5秒台のスピードを活かした対人守備が持ち味で、サイズだけならトップチームの選手にも決して見劣りはしない。足元の細かなスキルや経験、判断力などまだまだ粗削りだが、素材で言えば期待せずにはいられないものが確かにある。「センターバックもどんどん攻撃に関わっていかなきゃいけないサッカーのスタイルだと思う。自分の攻撃のところでどうやって幅を広げていくかみたいな。そこがほんと必要になってくる」と、課題もテーマも明確に北の大地での挑戦を続ける。

1年生のふたりは昨年の高円宮杯U-15全日本サッカー選手権の優勝メンバーの中核を担った選手たちで、竹内はセンターバック、深谷はボランチやシャドーでこのキャンプを戦っている。両選手ともに1年生とは思えない体格の良さと、物怖じしないメンタリティの持ち主であることが第一の長所で、「いち早く慣れて、自分が自分の良さを出せるようになったら、よりプロの世界、Jリーグが見えてくる」と竹内が言えば、深谷は「自分の武器をもっと最大限に出せるように最終的にはしていって、もっとアピールして、契約をつかみ取るところが一番のテーマ」と事もなげに言う。どちらもこの機会を貴重な学びの場と捉えているとともに、自分の未来を勝ち獲る場だと確信しているのがとんでもない。まだ高校生になったばかりなのに、Jリーグでプレーすることを将来の夢ではなく、目の前に転がっているチャンスだと思えていること自体がすさまじい。



もちろんオディケを含め、彼らがいま現状で十分な戦力かと言えばそんなことはない。彼らの長けている部分や武器となるプレーは光るものがあり、プロの練習に馴染むだけの基礎能力の高さは素晴らしいが、まだまだ学ぶことの方が多いのが現状だ。ただ、「怯えてたら何も吸収できることもない。そこでチャレンジして、ミスを恐れないでしっかり学べることを増やしていければいい」と深谷が言うように、彼らは揃ってチャレンジングに日々を過ごしているのもまた確かだ。トップチームの先輩たちはみな懐が深く、永井謙佑はオディケをずっとイジリ倒していつも気にかけているし、アカデミーという意味でも先輩である藤井陽也も「しっかり何かを吸収できるなら吸収した方がいいとは思うので、自分からも話しかけたりはしたい」と協力的だ。他にも面倒見のいい徳元悠平など多くの選手が若い力を認め、手を差し伸べている。この環境を活かさない手はないし、すでにお分かりだろうが彼らは貪欲にこの機会をものにしようと目をぎらつかせている。

そもそも、一緒にプレーすることでプロの基準やプロのスキルの奥深さを体感できることが、最高の栄養分になるとはこのキャンプを見ていて感じることだ。ペトロヴィッチ監督のスタイルは華麗で美しいイメージが強い一方で、マンツーマンディフェンスを基調とするがゆえにインテンシティの高さも同じか、それ以上に求められるところがある。今回のキャンプにおいては「オープンな試合になって最後の20分、30分を分けるのは何か。パワーを残しているチームが勝つ。走りきれる方が勝つ」と指揮官も宣言しており、体力的にも強度的にもかなりの負荷が選手にかけられているところがある。当然、一つひとつのトレーニングにおけるあらゆる意味での球際は多く、スピード豊かな局面での技術の精度も必要不可欠なものになってくる。プロでさえそこで100点のプレーを続けることは難しい中で、高校生が良いプレーはおろか、ついていくだけでも精一杯というのが普通だろう。

こんなことがあった。永井と深谷がルーズボールを追いかけ、より距離が近かった深谷が身体を入れてボールを支配下に置いたかと思った瞬間のことだ。もちろん永井は知っての通りに足が速く、思わぬタイミングで前に入られてしまうというのは“あるある”である。ただこの時はそれを考慮しても横並びになるのがやっとという間合いで、深谷も少し余裕をもってそのボールを確保したと足を伸ばした、その瞬間。横並びどころか斜め後ろから足を伸ばしてボールを足裏で少し触って転がして、次の一歩で身体をねじ込んで永井が自分のボールにしてしまったのである。この場面は実に示唆に富んでいて、まずは油断禁物ということ。そしてプロの間合いや速さはそれほどのものということ。加えて少しだけでもボールを触って、その次のタイミングを自分の優位なものに変えてしまうという細かなスキルが存在するということ。特に永井はその速さを活かすために、ものすごく細かい状況判断を連続して行なっている選手であり、それで一歩先んじられたという経験は得難いものだろう。



ここに“飛び級”の価値はある。名古屋のキャンプはまだ2週間以上の期間を残しているが、伸び盛りの彼らにとってはこの環境自体が成長促進の培養液に浸かっているようなものだ。竹内は練習前の光景からして「練習場に着いてからすぐに自分の身体と向き合って、自分のルーティーン、そういう練習前の取り組みを近くで見ていて、やっぱりすごいなって思う」と早くも意識を変えている。オディケは「トップの選手は動きが速いので、その動き、ステップ、俊敏性に対してどうやって身体を動かしたらいいかを意識する」と上のステージにおける自分の課題を見つけた。「考えるスピード、連係に関わるタイミング、角度、そういう細かいところを要求してくれるので、より自分が成長できる環境が整っている」と深谷はすべてを糧と捉え、毎回のトレーニングを楽しみにしている。もちろんすべてのアカデミーの選手に同じことができるとは限らないが、この取り組みの第一号としての彼らの感想というのは、とにかくポジティブでアグレッシブだ。

「我々にはユースを含めて素晴らしいタレント性を持った選手がたくさんいる。プロの雰囲気とか、他の選手からいろいろなものを学んで、確実に成長してくれるんじゃないかなと思う。もちろん、そのあとの未来に彼らがどうなっていくかというところは、しっかり見極めていかなければいけないが」

ペトロヴィッチ監督はしっかりくぎを刺しながら、しかし若く優秀なタレントの取り組みに目を細めた。服部SDも「期待して、トライして、信じてあげてみるといいかなと。『いや、あいつはまだまだ』、『子どもだから無理だよ』とかじゃなくて、逆にもう経験がないだけだから、その経験を積ませることの方が大事」と言っている。その意味では新たなJリーグのサイクルが始まる中での苫小牧キャンプは、名古屋にとって壮大なる構造改革の始まりの地となるのかもしれない。トップチームの綺羅星のごとく輝く主力メンバーたちだけでなく、こうした底上げのための取り組みにも、この夏は注目すべきだ。

Reported by 今井雄一朗