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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:勝ち取る男、相馬勇紀。厚みの増したプレーで、最終戦に華を

2022年11月2日(水)


久々に感じたワールドカップの喧騒だった。11月1日に発表されたワールドカップカタール大会の日本代表に相馬勇紀が選出され、名古屋グランパス周辺のメディアは沸きに沸いている。森保一監督の発表から1時間後には記者会見が開かれ、筆者も含め多くの地元メディアが集まり、これでもかと相馬に質問をぶつけた。40分オーバーの会見はなかなかな長さと言えるもので、それだけ聞くことがあるというのも彼の積み重ねてきたキャリアの確かさ故のこと。最後はさすがにやや疲れた表情を浮かべていたが、しっかり答えきって“ワールドカップ日本代表”の責務を果たしてみせた。

11月1日は何とも忙しい1日だったようだ。チームの午前練習を終え、自宅で発表会見を見ていたという相馬には、奥様の激励あるいは願掛けの意味もあったか豪華な昼食が用意されたという。そして自分の名前が呼びあげられるのを聞き、夫婦揃って絶叫。そのあまりのけたたましさに、4月に生まれたばかりの男の子はびっくりして大号泣したというのは何とも微笑ましいエピソードだ。奥様は泣きながら祝福してくれたといい、昨年のオリンピック後に「最後に絶対取り返す」と誓った相手に応えた相馬は、やはり有言実行の男であると感心してしまう。

記者会見の前にはクラブハウスでスタッフたちに、そして長谷川健太監督たちスタッフたちに祝福され、会見の終盤にはクラブからの花束贈呈で楢﨑正剛クラブスペシャルフェローまで登場。サプライズ企画に相好を崩す相馬の顔は、その時ばかりは日本代表にして名古屋グランパスの主力ではなく、特別指定でチームに参加し、このレジェンドたちを羨望のまなざしで見ていたひとりの若手に戻っていた気がする。



そして会見後には同じ敷地内のアカデミーの練習場に赴き、早稲田大時代の監督でもある名古屋U-18の古賀聡監督にも挨拶。「たびたび怒られました(笑)、サッカー選手の前に人としてどうあるべきかをしっかりと、すごく考えさせてもらった」という恩師は、「大学時代にはなかった笑顔と優しさで、『頑張って』と言ってもらえた」と教え子の成長を喜んでくれたという。スマートフォンには100件を超えるメッセージが届き、中にはオリンピック代表でもチームメイトだった上田綺世の名も。「やるよ」という短い投げかけに「行こうよ」と答えたやり取りには、同期だからこそ通じる意気込みと、彼らの燃える想いが漂った。

明けて翌日も公開練習後に取材対応をリクエストされる人気ぶり。これもまたワールドカップに出場するということなのかもしれない。少し“インタビュー疲れ”もあったように見えたが、相馬はしっかり質問に答えてくれた。プロになり、オリンピックに出場し、結婚もして親にもなった。そうした成長の過程を踏まえて、サッカー以外でも器を大きくしていった結果が今回の選出なのだと思う。「いろいろな予想だったりというのが流れてくる中で、みなさんしっかり選んでもらってなかったと思うんですけど(笑)」と笑った彼を見て、度量の深さを改めて感じた。



週末のリーグ最終節に向け、胸中の高揚感もきっちりコントロールできている。「燃える気持ちはもちろんあるけど、変に空回りする方がいけない。闘志は持ちつつも、いつも通りやって行けたら」。カタールへの切符を勝ち取ったきっかけの一つである、9月の欧州遠征の前もそうだった。あえて淡々と、「追い抜くだけです」と語り、しかし一つひとつのトレーニングで全力を尽くして自らの力を示してきた。C大阪との戦いでも、冷静かつ猛る相馬のプレーが見られるはずだ。日本代表だからと構えずに、しかし日本代表としての堂々たるプレーを。期待に応え、結果をつかみ取る男が最後に何を見せてくれるのか、楽しみでしかない。


Reported by 今井雄一朗