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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:名古屋を羽ばたかせる新たな“翼”。マテウスと小屋松知哉がもたらす強さ、そして美しさ。

2026年7月22日(水)


7月4日から北海道・苫小牧でキャンプを行なっている名古屋グランパスだが、この期間における大きな収穫のひとつにマテウス カストロと小屋松知哉の実戦復帰というニュースがあった。

マテウスは昨年10月の横浜FC戦で負った左前十字靭帯の損傷から、小屋松は1月の沖縄キャンプ最終日に右膝内側半月板断裂の重傷での離脱からの復帰となり、実質的にこの夏の補強といえるバリューをチームにもたらしている。もちろんまだ完全復活とは言えず、ゲームへの出場機会は限定的なもの。だが、その短い時間ですら彼らの持つクオリティは本物で、21日に行われたFC東京との練習試合では普段、個別の選手への質問にはあまり具体的なコメントを残さないペトロヴィッチ監督が「本当にポジティブなサプライズだった」としたうえで多くの言葉を並べたほど。百年構想リーグの後に高嶺朋樹の完全移籍移行以外に補強を行なわなかったチームだが、それも納得のパフォーマンスを見せた。

昨季の終盤に部分合流を果たしていたマテウスは苫小牧キャンプでも徐々にその状態を上げていき、9日目にはついにゲーム形式にも復帰。そこから約1週間後の15日目に大学生との短い練習試合で対外試合にも出場し、順調にコンディションを上げ続けてきた。

もともとケガの回復は早い方の選手だが、昨年に名古屋に復帰した際もアキレス腱断裂からの復帰を経ていたこともあってか、クラブはかなり慎重を期したプログラム設定でここまでこぎつけた感もある。



小屋松もそれは同様で、10年ぶりの名古屋復帰から沖縄キャンプ最終日での負傷、そしてオペという悔しすぎる経緯から、今なおかなり慎重なプレータイム制限でもって経過観察に目を光らせている。特に小屋松の練習前後のケアの徹底ぶりは際立っており、「再発しないことをまずはメインに考えて、キャンプをしっかり乗りきる」ことが現状の大目標になってはいる。

ただし、彼らが見せるクオリティはやはり本物だ。
マテウスは前述の練習試合から加速度的にコンディションを上げ、3日後には早くもJ1相手のトレーニングマッチで45分間をプレー。攻守のタスクを見事にこなしながら彼らしいエゴイスティックなミドルシュートも放つなど、背番号10としての確かな存在感を示してみせた。

この日はシャドーでの起用だったが、このチームにおいては右ウイングバックとしても考えられているひとりで、ボールを収めて奪われない能力の高さと縦への突破力、シュートレンジの広さ、そしてカットインミドルの強烈さなど、こちらの方がむしろベストポジションではないかと思えるほどの暴れっぷりを見せている。

ミシャ式におけるウイングバックは一般的なウイングバックとは違い、どちらかといえば3トップのウイングやサイドハーフをイメージする方が近いところもあり、サイドでの1対1という“大好物”が頻繁に提供されるこの役割ははまって当然なところもあった。「ミシャ監督からは『しっかりとアグレッシブに、1対1の場面があればドリブルでしっかり仕掛けて、相手に対して向き合ってやっていけばいい』と、よく言われる」と、伸び伸びプレーする環境を与えられていることも明かす。

小屋松はマテウスに比べるとまだ本調子にはかなり遠い感もあるが、だからこそ現状で見せる巧さがその実力のほどを想像させる。
沖縄キャンプでも1対1になればほぼすべての機会で突破を決め、周囲を使って自分も使われる動きの質の高さは円熟の職人芸を思わせた。

FC東京戦では相手が少し体力面を消耗している2本目から出場し、30分間ほどをプレー。
マテウスと同じ札幌大との練習試合で実戦復帰を果たすも15分間の限定出場で、「まだ身体が“自然に動かない”。まだ無意識下で動くことがなかなかできない」と実戦勘含めたサッカーの感覚を取り戻す部分に課題を残していた。
ただ、実戦の刺激を身体に取りこんだ影響は大きいようで、小屋松は1日ごとに動きのキレを取り戻してきている。

FC東京戦はかなりの暑さもあったが交代出場選手らしくキビキビとした動きで攻守のトランジションに反応し、二度追いどころか三度、四度と相手の低い位置でのビルドアップに食いついていく守備も見せて、コンディションの良さを感じさせた。



ペトロヴィッチ監督は「2人とも休んでいた期間が本当に長かったので、それがすぐ元に戻るかといったら、そんなことはもちろんない。そのあたりは計算しながらだが、このまま3~4週間をこのペースでしっかり練習を積んでいければ、2人ともどんどん良くなっていくし、もっといいプレーを見せてくれると思う」と、今後も慎重さをもって回復にあたらせるとともに、彼らへの期待感も口にしている。

この2選手の復帰はチームづくりに強い追い風を吹かせるものだ。
もちろんシンプルに能力の高い選手が加わるという意味においてもそうだが、彼らが二つのポジションをどちらも質高くこなせることの方がむしろ効果としては大きい。

ミシャ式のサッカーとはハードワークのサッカーでもあり、マンツーマン守備をはじめ90分間の体力的消耗が非常に大きな戦い方になっている。
攻撃も高精度でハイスピードな連係を求めることが第一で、そのためには連係力のみならずどれだけ攻撃の局面で人を増やせるか、加わって行けるかが肝になる。
そしてその裏返しとして守備局面への切り替えの速さや長い距離を戻っての守備がセットになるので、美しく魅力的なイメージは白鳥さながら、水面下での絶え間ない“バタ足”が欠かせない。

これを指揮官は25人ほどのスカッドで回していこうというのだから、つまりはそこで必要になるのは人数的な選手層の厚みではなく、ミシャのお眼鏡にかなったクオリティを持ち、複数ポジションをこなせる精鋭たちの集団ということになる。

それぞれ右と左のシャドーとウイングバックを担当できるマテウスと小屋松の復帰は、この点においてチーム力の安定化に大きく寄与する。

現状の名古屋においてスペシャリストと言えるのはGKを除けば左ウイングバックの中山克広と3バックセンターの藤井陽也ぐらいで、ボランチの選手はシャドーやCBを兼任し、シャドーと1トップを行き来する選手がおり、3バックの両サイドはウイングバックでも起用されることが毎回の練習で見られる。少数精鋭の最大化とも言うべきミシャ式マネジメントが着々と進められているのが今キャンプの裏テーマのようなところもあり、繰り返すが中でも外でも使える2選手の復帰は複合的な意味でのチームの戦い方の幅を広げてくれそうだ。

その上で特筆すべきはマテウスも小屋松も独力での突破力を持った選手であると同時に、周囲との連係を構築できる能力にも秀でていることだ。
3人単位の連係でもって相手守備陣を突き崩していくことを是とする戦い方は、時に決定機の譲り合いや同じパターンの繰り返しになってしまうことも起きる事象として少なくない。

連係で崩すという意識が強すぎるとセーフティなパス回しに終始する嫌いもトレーニング中では頻繁にあり、そうした時には決まってペトロヴィッチ監督が練習を止め、プレー選択におけるプライオリティをリマインドして「前へ!」という言葉を繰り返すことになる。

このキャンプ終盤ではその数は減ってきているが、こういったことは得てして時間とともに薄れてしまいがちなもの。
そこでマテウスや小屋松のようなまず自分がプレーすることを決して忘れない、その上で周囲を使いながら自分がさらにプレーすることを考えている選手がいる意味は大きくもなっていく。

「ミシャ監督がいつも要求するのは背後を狙い、足元につけられたらそこから速いコンビネーションを作るということ。自分はまずそれをしっかり意識した上で、いろいろな動きを確かめようという思いで今日の試合(FC東京戦)に入った。背後でも足元でも、いろいろな形でボールをもらっていた中では、やはりこの攻撃的なスタイルにおいて、相手のゴールにずっと向かう姿勢を見せ続けることが一番大事だと思う」

マテウスの言葉が正鵠を射る。これから始まるシーズンの長さを思えば、マテウスが右、小屋松が左と両ワイドを担う試合も当然のように出てくることだろう。半年間をかけて積み上げ、成長を続ける“ミシャ名古屋”を、新たな翼がさらに力強く羽ばたかせる。

Reported by 今井雄一朗