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【取材ノート:東京V】弛まぬ努力でたぐり寄せた愛郷「ヴェルディ」復帰。そこでの新たな出会いによって「苦境」を「飛躍へのターニングポイント」へと変えつつある佐古真礼

2026年9月12日(土)
一見、不遇に思えるできごとでも、自分の精進次第で「幸運」に変えることができる。東京ヴェルディのDF佐古真礼がいま、それを体現してくれている。

9月2日、2026/27明治安田J1リーグ第5節 ヴィッセル神戸戦。佐古は後半から投入され、プロ6年目で初のJ1公式戦出場を果たした。敗戦への悔しさと同時に、「長くかかりましたが、やっとこの舞台にたどり着いた。いろいろな人に支えられてJ1のピッチに立てたことは、自分としても感慨深い。素直に嬉しい気持ちと、お世話になった方々の顔が次々と思い浮かんできて。そうした方々への感謝の思いが一番大きいです」としみじみと想いを口にした。


スクール時代から東京Vのアカデミーで育った生え抜きだ。U-15時代から世代別日本代表の常連であり、高校3年のユース時代に2種登録選手としてトップチームに登録。卒業後の2021年から正式にトップ昇格を果たした。

昇格が決まり、クラブを通じて「『ヴェルディ生まれヴェルディ育ち』として、クラブへの恩や感謝の想いをピッチの上で表現したいと思います」と決意表明した佐古だったが、プロ入り後の道のりは決して順風満帆ではなかった。

1年目のはじめから異例とも言えるいきなりの藤枝MYFCへの期限付き移籍。2年目の2022年は東京V(J2)で4試合に出場したが、2023年、2024年は再び期限付き移籍でAC長野パルセイロ、いわてグルージャ盛岡でそれぞれプレーした。さらに盛岡在籍時の2024年10月には左膝前十字靱帯(じんたい)損傷、左半月板損傷の重傷を負い、治療・リハビリ中の身で2025年にレンタル元の東京Vに復帰。同年5月に実戦復活を遂げたが、この年の公式戦出場は「0」に終わった。

こうした「苦境」とも見えるキャリアを乗り越えてのJ1デビューだっただけに、佐古本人はもちろん、両親や関係者、仲間など周囲の感慨もひとしおだ。試合後には様々な形で多くの「おめでとう」のメッセージが寄せられたという。

中でも、林尚輝の負傷交代というアクシデントで唐突に巡ってきた45分間のパフォーマンスに心震わせていたのが森下仁志ヘッドコーチだった。佐古が復帰してから2年。そのうちの多大なる時間をピッチ内外で共有し「何とかそのポテンシャルの高さと、『負けたくない』という闘争本能に気付かせ、引き出してあげたい」と、他の試合メンバー外選手たちと同様に厳しく問いかけ、追求してきた。佐古も、昨季から「球際の激しさ、自分の限界を1個超えた部分を間違いなく引き出してくれています。それプラスアルファ、自分の特長を生かすためのポジショニングや、そのポジションに立つタイミング、ファーストタッチの置きどころなど、今まで感覚でやっていた部分を言語化してもらうことで、単純なパスコントロールの練習ですらこれまでとは全く違うレベルの高さで練習ができている」と実感していた。そうした深い信頼関係からも、敗戦ではあったが、試合後に同コーチは「よくやった」とハイタッチの際に短い言葉で労った。

「でも、実は…」と、後日森下コーチは本音を明かした。「本当は抱きしめたいぐらいでしたよ!でも、負けていたし、(体が)デカいから、抱きしめたら、逆にこっちが抱かれる方になるだろうから、それはみっともないなと思って自粛しました(笑)ただ、本当に僕は親御さんと同じぐらい嬉しかったんです」

そして、試合途中から加わった日本屈指ともいえるFW大迫勇也選手(神戸)と対峙する佐古の姿を見ながら、森下コーチは確信したという。

「よく『神様は見ている』と言いますが、僕は、真礼はその鏡だと思うんですよ。正直、彼自身にとってはものすごくしんどかったかもしれないですが、前十字靭帯を切ったことが、言葉を選ばずに言うと、彼はとてもついていたのかなと思います。あのタイミングで怪我をしていなかったら、彼は多分ヴェルディに帰ってきてはいないと思います。というのは、契約が残っていたことで、どこにも行くことができずに保有元に戻さざるを得なかったから戻ってこられた。でも、僕はその流れにこそ、彼がそれまでものすごく真摯に、純粋にサッカーと向き合ってきたからこそ、左膝の大怪我という形と引き換えに、神様がそういうチャンスをくれたんだろうなと思いました」

2025年にレンタルバックで戻ってきたことを機に出会って2年目。今や世界でも名の知れた中村敬斗(オリンピック リヨン/フランス)や食野亮太郎(ガンバ大阪)などを育ててきた森下コーチが、技術のみならず、人間性や取り組む姿勢など独自の基準から鑑みても、東京Vの23歳DFの将来性は抜群だと断言する。

「弱点や課題なんて、多かれ少なかれ誰にでもあります。でも、大事なのはそれにどう向き合うか。真礼はそれを隠そうとしたり、逃げたりは絶対にしません。とにかく『なんとかしたい。なんとかするぞ』という前向きなパワーに満ちあふれています。逆に、それを補うためにも大事なフィードやポジショニングの取り方、ボールの持ち方などがものすごくよくなっています。城福浩監督や僕らコーチ陣に指摘されていることを誰よりも一番純粋にやってきた選手なんです」

その「純粋」とともに「ひたむき」「謙虚さ」こそが時代を超えた大成への最大の秘訣であり、その要素を貫き続けている佐古の素晴らしさを森下コーチはあらためて力説する。

「与えられている時間というのは皆同じ中で、真礼は純粋に、積極的にやり続けている時間が長い。これまでのキャリアから『俺のサッカー人生どうなるのかな?』と不安に思う時もあると思うんですよ。それでもあいつは、一歩グラウンドに出たらそんな表情も振る舞いも一切見せないですからね」

さらに身長193cm、体重88kgの恵まれた長身、左利きのセンターバックという天賦の才が加わる。

「あのサイズで定位置を掴んだら、僕の中では本気で『世界に行くんじゃないか』と思っているぐらいです。彼の姿勢を見ていれば、もう期待しかないです」

なかなか褒めない森下コーチがこれほどまでに結実をたたえるが、一方で「1、2試合だけ大きな活躍をした選手は、これまでもたくさん見てきた。大事なのはここから。今のパフォーマンスを続けることでいかに出場機会を得られるかが彼のテーマ。」とシビアに語る。

また、チームとしても重要なのが「真礼くんは、(ケガ交代で)チャンスを掴んで出られたんだな」ではなく、彼がどういう道のりを経てきたからこそ、今チャンスを得て、その勝負日になぜあれだけのパフォーマンスを出せたかということ。「その経緯をチーム全体、特にここまで彼と一緒にエクストラ(追加練習)をやってきた若い選手には考えて、学んでほしい。その意味でも、真礼にはこれを機に本当に頑張ってほしい」と、チームとしても大きな未来を背番号「29」に託す。

「海外でも、強いチームには絶対的なセンターバック(CB)がいる。『自分が1人で守ってみせる』というぐらいの、どっしりとした、誰からも信頼されるCBになっていきたい」と、足元の技術、負けん気の強さ、クラブ愛と「ヴェルディらしさ」の三種の神器を持ち合わせる23歳レフティーDF。

けが人続出のチームの苦境の救世主となるべく、これまでと何一つ変わらぬ「純粋にひたむきに謙虚に」の姿勢を貫いていく。

Reported by 上岡真里江