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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:ピッチで見えた充実の取り組み。稀代のファンタジスタに率いられ、快勝から始まったU-21名古屋グランパスの歩み。

2026年9月14日(月)


「必然でしょ」。U-21名古屋グランパスの玉田圭司監督はほくそ笑んだ。このチームを率いて戦う最初の試合が長崎との対戦で、それは自分が一線を退くことを決めた思い出の地だった。「縁があるなっていうのは感じました。でも僕は今、名古屋のU-21の監督という立場で、もちろん名古屋としては勝たなきゃいけない試合。そこで結果を出せたっていうのは、僕的には一生、忘れられない思い出になりました」。そこで勝つんだから持っている、と問うての答えが冒頭の一言だった。照れ隠しにか大げさにブブッと噴き出してから、つぶやくように。現役時代、手応えのある時ほど大きなことを言うのが玉田という男で、ACLでなぜか自分の蹴ったFKと逆に跳んだ相手GKを「ん? オレが動かした」と豪語したのを今でもよく覚えている。話が逸れたが、でもそれほど逸れてはいない。なぜならU-21名古屋の初戦は素晴らしい内容で、選手たちの力量をこの若い指揮官がうまく引き出したところが多分に認められたからだ。“まずは楽しむこと”がモットーの監督に率いられたチームは、ではどうすればそれができるのかを試合をしながら体現していったのだった。

オーバーエイジ3人、2種登録のU-21選手を4人起用して構成されたスタメンは、アウェイで前日にJ1での同カード対戦があったことで、ほとんどその日に集まったような状況だった。もちろんU-21チームとしての練習はしていない。トップチームのスタイルはJリーグではもはや一般教養と化しているものだが、その特殊性はやはりしっかりトレーニングをしてこそ身につくものだ。U-21チームとしてもそれは踏襲して戦う反面、習熟度は見込めない。そこで玉田監督はある程度のファジーさをそこに持たせ、選手たちの特徴を活かす方を優先したという。オーバーエイジでキャプテンマークも巻いた小野雅史は、このチームの試合への入り方をこう語る。

「今日はあんまり“ボランチだから”とか“シャドーだから”っていうのは、少し戦術の中ではいい意味でルーズにしたというか。流動性をちょっと持つ感じでやっていました。全員の武器を考えた時にはその方がいいと、タマさんもそう言っていたので。でも、誰かがサボったら結局ダメで、目が合ったらとか、ちゃんとそれはやれていた。前半はまだそれが結果に結びつかなかったけど、中盤で作った良いシーンとかは後半に相手が疲弊してくるところにつながったし、それで相手のサイドがスカスカになってきたので、やっぱり効いていたと思う。僕も『中盤の選手が一番ボールを触れなきゃいけない』ってタマさんに試合前に言われたので、そこに逃げずにチャレンジしました。もっともっと精度は上げなきゃいけないけど、そのイメージはできて試合をやれたかなっていうのはあります」

“中盤の選手が一番ボールを触らなければ”とは、古くから伝わる金言である。玉田監督自身がそのタイプであったとともに、そういった傾向を持つ数々の名選手たちとの共闘が、一番シンプルな形でのモチベートになっていったであろうことは容易に想像がついた。この日のビッグサプライズだった高校1年生のスピードスター・鮫島充輝も対面のノーマン キャンベルとのマッチアップに果敢に挑み、1対1に勝つ場面も見せていたが、これも「前半が終わった時に玉田さんから『いいね』と言われて自信になりました、先輩たちも良い声掛けをしてくれたので、チャレンジできました。感謝です」と背中を押されたことを明かし、1得点1アシストの大活躍だったU-18の佐藤煌太も「玉田さんからも『どんどんドリブルで仕掛けてゴールに向かっていけ』という指示があって、自分がドリブルできるって思われているんだから、それは行動にして成功させたいなと思っていた」と焚きつけられていた。玉田監督自身、名古屋に移籍後すぐは苦しいシーズンを過ごしたが、ストイコビッチ監督就任で「お前がJリーグナンバーワンだ」と火を点けられた経験を持っている。選手にポジティブなベクトルを持たせることの重要性も、その心のくすぐり方も知り尽くしているわけだ。

今回よくわかったのは、玉田監督は技術を発揮させるという意味でのモチベーターとして、興味深い資質を持っているということだった。キャンベルの質に圧倒された前半から後半の逆転劇を演出するにあたって、この指揮官は言葉巧みに選手の質を引き出している。これも自らの経験と実績が説得力となっているのは明白で、「名選手名監督にあらず」に当てはまらない可能性を十分に示唆している。



「前半に関して、キャンベル選手の良さを生かさせてしまったところは、自分たちの失い方次第のところ。変なボールの失い方をすると、やっぱり彼の特徴は生きると思うので、それをしないことだった。トライはするけど、ひとつのパスの質であったりの部分は強調して、そのあたりを少しは修正できたかなと思う。ハーフタイムに伝えたのは、『怖いプレーができてない』と。ボールを持つことはできているけど、長崎と名古屋、どっちが怖いことしてる? って言ったら長崎だったと思うし、その中で『それって個人の能力の問題なの?』っていう話をしたら、みんな首を振っていた。そこでちょっと奮起してくれた部分もあるし、(杉浦)駿吾なんかも冷静にループシュートを決めて、練習でも決められてないゴールを決めたのは、その意欲プラス余裕を持ってプレーできた証拠。すごくいいプレーを駿吾以外も、みんながほんとにチームのために、自分のアピールのためにやってくれた。U-21としての練習は別でやっているわけではないのでなんとも言えないけど、選手たちに言葉で伝えたのは、どっちの足にパスを出すかとか、いいと思ったプレーが何かということ。相手につながれば“いいパス”じゃなく、そのあと、その選手がいいプレーができたら“いいパス”ってことは伝えた。奥が見えるんだったらまず奥を見る、そうしたら手前の選手がボールをもらえる、というのも簡単なことだけど、その簡単なことをしないとやっぱり前半みたいな展開になってしまうので、そのあたりはすごくいい勉強になったと思いますね」

理路整然として、かつ本質的である。選手のプライドをくすぐり、実力を認め、チャレンジさせながらその質のこだわり方を指し示す。もともと存在する名古屋グランパスとしてのサッカーの文脈に、この日集まったメンバーの個性を反映させるようなマネジメントは見事なもので、だから3つの得点は形も流れも素晴らしく、選手たちの100%かそれ以上のものを引き出したところがあった。「練習でも決められていない」と評した杉浦のループシュートもそうだが、佐藤の絡んだ2つの得点に関してもそれは言える部分がある。どちらも起点は16歳のセンターバック竹内悠三の強烈な縦パスがその始まりにあったが、U-18でも当然のようにプレーした経験のある佐藤が「あんなボール今まで入ってこなかった。さすがにびっくりした」と笑い、最高のトラップからのプレーに「ちょっと自分でもびっくりしました。あんな収まるかって」とどこか他人事のようにまた笑った。それぐらい、自分でも驚きのプレーだったのだ。しかしマグレではなく、実力をいかんなく発揮したというのが正しいところで、「フォワードと、駿吾くんとつながれっていう指示もマサくん(小野)からあったんで、そこは意識して背後を取ることと落ちてくる部分の連係をしっかり取ろうと思った。そこは上手くいった」と明確な意思は持っていた。

この日の構成が名古屋にとってある意味で運が良かったのは、小野と菊地泰智、そして森島司という司令塔タイプのオーバーエイジがメンバーにいてくれたこともあった。彼らの年齢を考えればU-21チームでのプレーは本意ではないはずで、そのあたりのモチベーションは気がかりではあったのだが、これは長崎の方にも言えたのだが、U-21世代の選手たちに混じっていい意味でサッカーを楽しんでいるような様子がうかがえた。無双状態だったキャンベルは最たるもので、岩崎悠人や中村慶太なども活き活きと自分の表現をしていたように思う。それは名古屋の3人にも言えることで、森島はギプスががっちりはまった右腕も気にせずタックルをかましたり、周囲に指示を出しながらまるで先生やコーチのように振る舞うことも多かった。菊地は少し毛色が違って「いつも言ってると思うけど、サッカーがうまくなりたい、そういう方が強い。だから今日だって相手がどうとか関係ない。ひとつのトラップが成功したとして、今日の相手だからじゃなく、どんな相手にだってそのプレーはできる。そういう意味でのサッカーが上手くなりたいところは変わらないから、これがどの大会とか意識してない(笑)。試合して、サッカー上手くなる、この循環が大事」と求道者然として、なおかつ「知らない選手もいたけど、みんないいですね。球際も行ける。ただ相手のペースになった時に我慢して守れたりとかは絶対これから必要だし、それは僕たちが見せていかないといけない。それは僕らもリーグ戦に出た時に必要なことだったりするから。もうどの年代でもサッカーとしてしっかり向き合っていかなきゃね」と後輩たちからも何かしらの学びを得ていたようだった。



そして再び小野である。サッカーに対する関わり方の真面目さというか、真摯さにかけては名古屋の中でも随一のものがあり、想いをピッチに持ち込むエモーショナルな選手である。前述したがキャプテンマークを巻いて後輩たちのまとめ役に任じられたからには一念発起したところもあり、攻撃も守備もすべての局面で中心に立ってプレーする図抜けた存在感を示した。後半途中、あまりのタスクの多さに膝に手をつく場面があったのだが、そこからさらに走って、戦って、勝つためにプレーし続けたのは若手とは違った意味での驚きで、あのインテンシティは彼にとっても今後に大きなアピールとなったに違いなかった。小野は言う。「ひとつ自分の中で強い思いを持って今日は臨んだつもりだった」と。その想いを言葉にできるのも、彼の持つ稀有な能力のひとつだ。

「たぶん守備の部分はユースの子たちはやってることも違うから、正直そこはしょうがないと。相手にもリーグ戦に出ている選手もいた中で、五分五分のボールでやられる部分とか、一瞬フリーズするシーンとかはあったけど、ただ全員が変えようとは考えて、良くなろうってポジティブに捉えてやれていた。ハーフタイム中もマイナスの声はなかったし、自分もできるだけいろいろな選手とコミュニケーションを取って、静かになった時には根性論かもしれないけど、ポジティブに気持ちを上げられるようなコミュニケーションをとった。タマさんも『ポジティブに、ポジティブに』って言っていたし、誰かが積極的なミスをした時は“いいミス”で、チャレンジしなきゃいけないから。そういうところにちゃんと自分も一つひとつ、ユースの子に対してコミュニケーションは取れたかな。ユースにも助けられた。いやあ、めっちゃ上手いんで助けられたっす(笑)。最後はもう僕も何もしてないです。彼らのプレーを見て『おー!』とか『すごいな!』とか言ってました(笑)。でも試合を締めるのは僕でなきゃいけなかったし、駿吾が決めきらなきゃいけなかった。泰智も駿吾ももっと決められたし、自分もチャンスはあった。もっとボールを刈り取ったり、保持する時の運動量を上げていくとか、数えだしたらキリはないし、もっと出てくるとは思うんです。でも、ユースの子たちはめっちゃ良かったじゃないですか。最後はもう楽しんでいた。ああいう雰囲気やチーム状況を作るのって意外と難しいので、今日のゲームはその意味で90分通してすごく良かったです」

玉田監督もオーバーエイジの選手たちについて「数字に残らない部分ですごく大きな貢献をしてくれた。それを期待していた部分もあったので、すごく頼もしかった」と称えた。「チームが勝つために自分が活きること。自分が活きることによってチームの貢献になる。これはそのままつながっているので、今日は“チームが勝つため”ということにみんながフォーカスしてやってくれた結果が3-1というスコアになった」とも。個々の表現がチームを助けるとは実に“玉田圭司”らしい考え方で、現役の晩年はチームのためにプレーする割合を増やしていったが、やはり本来は良い意味で自分にチームを従わせるような、引っ張っていくタイプだった。チームのために自分を消すのではなく、自分が活き活きとすることでより良いパーツとなっていく。それはまさしく2010年のJリーグ優勝時の名古屋グランパスそのもので、リーグトップクラスの個が集まり、相互補完をすることですさまじい強さを生み出していたあの頃を思い出させる。玉田監督がそれを意識しているかどうかはわからないが、言葉の端々とその行動は、あの輝かしい成功体験に裏打ちされているように思えて仕方ない。



快勝でその幕を開けた名古屋にとってのU-21リーグは、これからその意義や意味合いを問われていく。小野は「ピッチに立つ以上は年齢も関係ないし立場も関係ない。試合前に言ったんです。『トップは調整じゃない』って。そういう意味ではみんなが全力をちゃんと出したのが良かった」と言い、菊地は「これをどの相手でもどのカテゴリーでもしっかりできなきゃいけない。練習あるのみ」と淡々としていた。鮫島は「同年代の深谷朔共と竹内悠三がJリーグでベンチ入りしていて悔しかった。でも今日はミシャさんが見てくれた中で自分の特徴を出せたので、良いところを見せられたかな」と屈託なく笑い、佐藤も「次も連続してずっと結果を出し続けないとトップは厳しい。毎回のように勝って、勝つ中で自分の武器を出して、得点も奪う。これからも継続して点取っていきたい」と飄々と語った。それぞれにそれぞれの取り組み方がある場において、この日のような良い取り組みとしてまとまっていけるのならば、名古屋グランパスというクラブの厚みが増す。その期待感を“初めの一歩”から感じさせたことが、記念すべきU-21名古屋グランパスの初勝利の価値として最も大きなことではなかったか。

Reported by 今井雄一朗