「僕も今は福岡の選手なので、絶対に負けられないと思っていた」
明治安田J1百年構想リーグ地域リーグラウンド第10節・長崎戦。絶対に負けられない。バトルオブ九州ならではの熱気に包まれたベスト電器スタジアム。椎橋慧也は、熱い想いを胸に福岡の選手として初めてホームのピッチに立った。
熱さと同時に冷静さも持ち合わせてボランチのポジションに就いた椎橋。ミラーゲームの中、局面でズレを作り、攻撃を組み立てようとする長崎に対し、背番号34は、ボランチとシャドーを監視しながら的確にパスコースを遮断し、危険なエリアでボールを持つ選手には素早くチェック。高いアラートさを発揮し、相手に自由を与えなかった。
「相手のボランチも結構落ちてボールを受けたいタイプで、そこでどうこうというわけではないので、逆に僕らが喰いつくことで、それこそ(シャドーの)マテウス ジェズス選手だったりのところにスペースを空ける方が怖いと思っていたので、そこは(ダブルボランチを組む見木)友哉と一緒に声を掛けて、FWも頑張って追ってくれたので、それで良い守備がハマったのかなと思います。
(プレスに)行くところと行かないところをはっきりさせているというのと本当に前線からみんな頑張って走っているし、後ろもリーダー的に声を掛けて頑張ってくれている賜物かなと思います」
守備だけでなく、攻撃にも効果的に関与。「僕らも、ああいうところでFWに起点を作られたら嫌」と言うように相手が寄せてくる瞬間、中央に構えるFWの碓井聖生に鋭い楔のパスを差し込んで起点を作り、ゴールに迫っていく。
中盤の底で相手の攻撃の芽を摘み、ゲームメイクにも関わるまさに「6番」。しなやかな身のこなしから繰り出される高い技術に加え、目を見張るのが予測の早さと判断の良さが生む絶妙なポジショニングだ。「結構考えてやっています。地味に」と話す椎橋は「オフレコで」と笑みを浮かべた後、真剣な表情で「感覚的なものもありますけど、目線だったり、対峙した選手の特徴だったりというのを考えて。あとは周りとコミュニケーションをとって。僕だけではないので」とその能力が培われる所以を教えてくれた。
シーズン途中の3月25日に名古屋から期限付き移籍で加入。これまでJ1リーグ戦通算226試合出場の実績を持つ経験豊富な28歳は、前節の広島戦で福岡デビューを果たし、瞬く間にチームにフィットしている。第6節のアウェイ長崎戦を境にコンパクトな陣形の組織的な守備が整備されつつある中で、椎橋の加入によって、中盤の守備強度はさらに高まり、ボールを奪った後の縦への鋭さも増している。
「やっと半分リーグが終わって、うまく出てきた部分もありますけれども、練習だったり、選手に伝えていることとかは、そこまで大きくは変えていません。今までは、例えばサイドにボールを誘導された時に、簡単にキーパーまで下げてしまって、それを蹴って弾かれて、また相手ボールになるということが、改めて振り返れば多かったと思うんですけども、それを簡単に下げずに、もう1回、相手陣地でボールを動かすというところは、かなりミーティングでも、練習でも取り組んでいるので、そこは上手く出ていると思いますし、ボランチの椎橋も、見木もボールを動かせるし、受けることができる選手ですので、彼らが勇気を持ってボールに対して顔を出すことが、(縦への鋭さを表現することに)繋がっているのかなとは思います」(塚原真也暫定監督)
今節の長崎戦で今シーズン初ゴールを決めた見木の最大の特徴である攻撃力を遺憾なく発揮させ、攻守のバランスを上手く保ちながらチームの手綱を握る椎橋。抜群の安定感を誇る見木とのボランチコンビのみならず、前後左右、チーム全体に背番号34の力は波及している。その要因の一つとして挙げられるのが、解像度高く言語化した上での強い発信力だ。
「対戦してやってきた選手も多く、そういう人たちの特徴とかは分かっているんですけど、対戦していない選手とかの特徴を理解する、なおかつ自分の特徴を分かってもらうために、ミスをミスにしないというか、練習でもミスが生まれると思うんですけど、今のはなんでミスったのかとか、自分はこうしたかったんだけど意図が合わなかっただけなのか、それとも技術的なミスなのか、ミスをミスで終わらせたくなくて、意識的にコミュニケーションを取るようにしていますね。
鼓舞する声も大事だと思うんですけど、そのプレーのクオリティを上げるための声かけというのは、スーパーな選手だったら自分1人でなんとかできると思うんですけど、僕も含め、そういう選手ではないと思うんで、『じゃあどうやってやるか』ということになったら、そういうコミュニケーションのクオリティを上げるというのは大事ですね」
依然として西地区最下位という状況に変わりはないが、今シーズン初めて90分での連勝を飾り、福岡は上昇気流に乗りつつある。2試合連続ウノゼロでの勝利が続く中で、今後に向けて椎橋は追加点を奪うことが重要になると言う。
「やっぱり、強いチームは2点取って試合を決める。今日(長崎戦)も決め切れるところもあったと思うんですけど、1-0(の状況)が続くとやっぱり苦しい時は来るし、試合を決め切るというところが今後大事かなと思います。
前の選手に(パスを)つなぐことが目的じゃないから、もっとシュートを打っていけというのを要求していこうかなと思います」
次節の名古屋戦は契約の関係上出場できないが、残りのシーズン、戦術眼に優れた司令塔がチームの成長を加速させていってくれるはずだ。
Reported by 武丸善章