
よくよく冷静に振り返ってみると、新しくなったパロマ瑞穂スタジアムのこけら落としは“浅野雄也”がたっぷり詰まった試合だった。逆襲の口火を切る値千金のゴールを挙げたから、それだけではない。彼の置かれた立場や姿勢、アティチュード、考え方、それらがこんなにも詰め込まれていたのかと、やはり思うのである。真面目にサッカーの話をするのがどうにも照れくさくて、真剣に話すのは1分ぐらいが限度。「あ、まじめに話しすぎてる」と気づいたように急にふざけだすのが浅野との取材における恒例行事だ。サッカーが好きで、本当はめちゃくちゃ話したいけど、そんな自分がどうにもむず痒い。そんな男が新瑞穂の“初勝利”にたっぷりと貢献したのだから、これはもうしっかり取り上げたいと思った次第なのである。
難しいゴールを決めてくれた。ペトロヴィッチ監督が「これまでで一番最低だった」と酷評した0-2の前半を受け、背番号9は後半から真っ青な芝のピッチへ。立ち上がりこそハーフタイムの修正を活かしてラッシュをかけたが決定機を仕留めきれず、相手の選手交代も含めた変化もあって試合は再びペースをつかまれた。まるでリズムもなく、テンポが上がらない前半の要因はひとえに縦方向のパスがなかなか入っていかなかったことにあったが、2列目のシャドーに入った浅野もなかなかボールを受けることができず、存在感を示すことはできずにいた。同じく後半から出場した菊地泰智も「大して相手が前から来てるわけじゃないのに、なんか後ろに人数増やしてるなっていうイメージがあった。だから自分のやりたいこととしてはもっと前で関わって、勇大とアサくんあたりでうろちょろできるようにと思っていたけど、やってみると外で見てるよりは全然難しかった」と語っており、福岡の整備された攻守にはやはり手こずっていたことがわかる。こうなると今の名古屋は前線5枚が孤立しがちで、布陣が間延びして試合がものすごく停滞する。浅野も「距離感が遠いと思いましたし、DFラインから崩してくパスとかもちょっとズレてたり、前線のスイッチが入るパスがなかった。“らしくないな”と思った」と、観察の45分間を振り返る。
それを打ち破ったのが、誰あろう浅野のゴールだった。「0-2で負けていて、若干相手も引き気味になってきたら、背後を取るのはむずいんすよ。それでも、やっぱり10回あるうちの1回で背後取れたらなって」。シャドーに入った時の浅野の最大の武器は、ボックス内でDFの背後を取る動き出しである。たとえば永井謙佑のような、敵陣を駆けるようなダイナミックな“背後”ではなく、本来はそんなスペースなどありそうにない、相手ペナルティエリアの中でDFの背後を取る。「札幌の時にミシャと一緒にやってますけど、ああいう動き出しは僕の武器でもある」。試合時間も残り10分を切った83分、攻めて跳ね返され、奪い返してまた攻めて、という攻防の中から木村勇大がボールを持って前を向いた瞬間、浅野とのアイコンタクトが成立した時に、身体は自然に“ボックス内での背後”に動いていた。「勇大と目が合った瞬間に『来るな』って思ってたんですけど、思ったよりボールでかいやろ!と。そこはやっぱセンスであそこに持っていきました」。最後でボケてしまうのが浅野らしい。しかし、プルしながら身体を伸ばしきって、ヒットの瞬間に身体を固めるお手本のようなヘディングシュートは、GKのタイミングも外して見事にネットに吸い込まれていった。「あれだけ身体が伸びていたら、ヘディング弱いやろなと思ってたんすけどね。なんか気持ちが乗ってましたね、皆さんの」。皆さんと言いながら我々報道陣を示す。照れ隠しは止まらない。
そして木村の挙げた起死回生の同点ゴールにも、浅野は関わっていた。ゴールから巻き戻してみると、シュート性のパスに上手く合わせた木村、そのパスを送った小野雅史、ふたりとも素晴らしいプレーだった。そしてその前のプレーが、浅野のパスだった。パス自体が素晴らしいというよりは、そのパスを出す位置で藤井陽也の縦パスを引き出し、受けてキープした、というのが重要だった。ミシャ式におけるシャドーの役割は多岐に及び、アタッカーとしてのすべてを求められるといっても過言ではないのだが、実のところ浅野はこの時のようなポストプレーは得意としていない。むしろ嫌い。以前の練習試合の際にも「くさびのボールはあんまり受けるのが好きじゃないんで、そういうのは“竜司”とかにやらせたらいい」と言っていた。三重県の大先輩、和泉竜司を呼び捨てにしたのは彼の小ボケだと気づいてもらえるとありがたい。話があっちこっちになって申し訳ないが、つまりは浅野は苦手なプレーから逃げず、チームを救う手助けをしてくれたわけである。実はここも含めて彼らしさで、前述の同じ練習試合の中では選手交代もあってそういう起点となるプレーを任せる選手がいない時間帯もあった。すると浅野はそれまで伸び伸びと背後をとってシュートを打つことに集中していたところから、急に味方のためのプレー選択を始めたのである。「選手が替わればまた自分の役割は変わってくる。自分も潰れ役をしたり、テンポ上げる役したり。それに寄与できた人が試合に出られるんかなと思いますけどね」。福岡戦は、まさにその体現だった。

こうした言葉を聞くにつけ、浅野の奥深さに感心したりもする。ここまでの明治安田J1百年構想リーグ11試合で浅野はすべてメンバー入りし、7試合に出場しているがスタメンはわずか2試合。しかし公開されている練習を見ている中では“今節はスタメンだな”という週は何度もあった。あれだけ練習でいい動きをしているのに、練習試合でしっかり得点を挙げてもいるのに、と思ったことは一度や二度ではきかない。この体制が始動した直後からある種の“指南役”としての役割も求められ、その要望に応えてきた自負もあったとは思う。それでも固定化されていくスタメンに浅野雄也の名前はなく、その心境の難しさたるや想像に余りあるところがあった。だから新瑞穂の真新しいミックスゾーンでは、そのことを聞かないわけにはいかなかった。浅野は表情を変えず、ただちょっと彼らしくなく答えた。
「でも、ミシャの中でなんか引っかかる部分があるからだと思うので、それは自分の中で課題として解決していかなダメですよね。他責にはどうにもなんないんで、そこは頑張ります。これは感情のコントロールっていうよりも、そんなん俺が文句言ったところでスタメンは変わんないじゃないですか。そんな感じです。それでもやることは変わらないんで、別にスタメン組でもサブ組でも、シンプルに。なんて言うんですかね。いちサッカー選手として、サッカーを楽しむっていう気持ちだけですかね。練習でも。引き続きサッカー楽しみますよ。“サッカー楽しい!”って感じでやってるんで、練習は。いや、なんかね、ちょっとイライラすることもあるっすけど、なんかもったいないんすよね。そういう感じに自分はなっちゃいます。なんかとりあえず笑ってる自分が好きなんで。…気持ち悪いね、今の(笑)。まあそんな感じです」
ふとフラッシュバックしたのは、苦戦が続いていた昨季序盤戦、たしかアウェイのセレッソ大阪戦の時だった。未勝利が続く中での勝点1にどちらかと言えば暗い雰囲気が取材エリアにも漂う中、浅野の明るいキャラは変わっていなかった。何とか同点に追いついた試合でマテウスのゴールをアシストしていたが、「中の状況なんて全然見えてなかったですけど、嫌なところに上げて、自分も右足だったんで半信半疑でクロス上げました(笑)。そのあとに左で調子乗った時にはやばかったっす(笑)」と冗談めかしすらした。逆に我々の方が面食らったほどで、なぜそんなに笑顔でいられるのかと聞いたら、「暗くなっても仕方ないから」とカラッとした口調で答えた。そのことを伝えると「大丈夫ですかそれ、ヤバイやつじゃないですか」と今の浅野は自分で心配していたが、もう少しだけ掘り進めると、そこにはとあるレジェンドの影響があったのだと、ついに明かしてくれるのだった。
「もちろん負けた時とかにヘラヘラするのは違うっすよ。でも、いちサッカー選手として、やっぱりサッカーは楽しむだけかなと。何歳になってもね。それは俺、あれっすね。シンジさんに教わりました。小野伸二さんに。これしっかり書いといてくださいよ? 伸二さんはケガもけっこうしていて、そんな中でも一つひとつの練習をめっちゃ楽しそうにやっているし、なんか伸二さんが蹴るとボールが喜んでるんすよね。わかります? ボールがなんか俺らとは違うものみたいな。ほんまに同じボールなんか?って感じなんです。僕もあれを目指して頑張ります。以上です。まだ聞くの!? けっこう喋ったよ? もう嫁さんも待ってるからさー」
毎回のチームのトレーニングでは、必ずと言っていいほど浅野が最初にピッチに姿を見せる。彼か中山克広がピッチ一番乗りの常連だ。そしてふたりで楽しそうにボールを蹴り、その輪に他の選手が加わって、リフティングゲームにキャッキャする選手たちを見ることになるのが名古屋の日常の風景だ。サッカーを楽しみたい、というよりは、毎日サッカーできることが楽しくて仕方ない、という方が正しいのかもしれない。そこに結果がついてくればなお楽しいが、そうでなくてもサッカーは楽しいから一喜一憂もしない。その境地に達しつつある浅野は、これからもミシャ監督にとって、何よりチームにとって有用な選手であり続けることだろう。新たな瑞穂の記念すべきファーストゴールは相手に決められてしまったが、名古屋の選手の1点目は浅野のものである。「一生あの映像は使ってくださいね。僕が使用を許さないですけど。そしてその権利料でガッポリ(笑)」。やっぱり真面目に話すのは居心地が悪い。でも、大事な試合をひとまず“勝利”で終えられたことに安堵の心も湧いてくる。

「サポーターが笑顔で帰ってくれるのが一番嬉しいですね。やっぱり0-2からの雰囲気めっちゃ悪い中で、歯がゆい部分もあったと思います、選手も、ファンも、サポーターも。それでも一応は勝ったっていうところでスタジアムから帰れるというのは、まあ、いいお酒が飲めるんじゃないですか?(笑)」
シリアスな終わり方は許さない。カラッと明るく楽しく過ごすのが浅野雄也の流儀である。だからこそ、こういう選手の仕事は大きな熱狂を生みもする。良い時も悪い時も、浅野はいつも変わらない。ムードメーカーでありながら、職人的な気質も見せる二面性を持った名古屋の背番号9を、我々も存分に楽しみたい。
Reported by 今井雄一朗