
加入早々、けがで離脱する試練に直面していたFW古山兼悟が、ようやくFC今治のエンブレムを胸にプレーする瞬間を迎えた。明治安田J2・J3百年構想リーグ 地域リーグラウンド 第11節、アウェイのアルビレックス新潟戦の60分に、ブラジル人FWエジガル ジュニオに代わってピッチに入り、今治デビューを果たした。
この時点で0-1と1点ビハインド。何よりチームは3連敗中で、その間には監督交代もあり、重大な局面に立っていた。
古山がセレッソ大阪から期限付き移籍で加入したのは、特別大会の開幕直前のことだ。加入のリリースから4日後の第1節・ツエーゲン金沢戦(△0-0)でさっそくベンチ入りすると、第3節・FC大阪戦(〇2-0)でもベンチ入り。いずれも出番はなかったが、マルクス ヴィニシウス(現名古屋グランパス)、横山夢樹(現C大阪)、弓場堅真(現サガン鳥栖)と中心選手が抜けた攻撃陣再編のために、大きな期待が寄せられていることが伝わってきた。
ところがFC大阪戦の翌週、2月27日のトレーニングで腰を痛めてしまう。診断の結果は腰椎分離症で、骨の複数個所にひびが入っていた。
全治は明らかにされなかった。だが、2カ月足らずで戻ってこられたことは、本人、メディカルスタッフの取り組みの賜物だ。
「復帰できたのは率直にうれしいです。自分としては『やるしかない』『ここで行きたい』と、覚悟を決めていました」
新潟戦では2本のシュートを放った。特に後半3分のアディショナルタイムのまさにラスト、93分台にウェズレイ タンキからパスを受け、ドリブルで持ち上がってミドルレンジから右足を振ったシーンは、土壇場での劇的な同点を予感させるのに十分なビッグチャンスだった。
しかしシュートは、すでに何度もファインセーブを見せていた新潟GKバウマンに、しっかりとキャッチされてしまった。直後に試合終了のホイッスルが響いた。
「あの場面、スピードがない自分のウイークポイントが出てしまいました。得意なシュートゾーンに持って行けたし、FWとしてシュートを打つのはいいんですけど、周りは空いて(フリーな味方が)いなかったか、別の判断もあったかもしれません」
プレーするから課題が見つかる。それが向上心をかき立てる。
「そこまで後悔してないんですけど、映像を見返したら遠いところから打っている。決め切りたいのが本音です。けど、限界があるし、全部が全部入りはしない。今日もゴールまで遠かったです。近づいてシュートを打てば、確率も上がってくると思う。いろいろ思いますけど、一番は悔しい、ですね」
チームは新潟の倍近い15本のシュートを放ちながら、0-1で敗戦。WEST-Aグループの9位に沈んだままで、苦しい状況が続く。今治の力になりたい思いは、ますます強くなっている。
「1失点しましたけど、みんな粘ってくれていたし、けがからの復帰戦、デビュー戦として自分も勢いを持って、すんなり入れました。
やっぱり11試合やって、8試合無得点という状況に、後ろの選手たちは相当、耐えてくれていると思うんですよ。本当に申し訳ないし、僕は今日が初めての試合やけど、そこを変えよう、シュートを打とうと思ってピッチに入りました。
でも打ってみたけど、相手のGKもいいし、後ろにいい選手もいる。なかなか遠いシュートだけではダメやな、と思いました」
「後ろのいい選手」の一人が、C大阪時代の先輩、舩木翔だ。交代出場し、前を通ってポジションに就く際には、パチン! と右手同士をたたき合わせて健闘を誓った。
「セレッソで特別指定やったときから、ほんまにお世話になって。今もです。だからこそ、自分のプレーで悔しがらせたかったですね。それが恩返しになるんで」
恩返しへ近づいたのが、ラストの決定機である。決め切ることはできながったが、先輩の心を熱くさせるには十分だった。
「俺は兼悟のプレーがすごい好きなんですよ。今のサッカーではなかなかいなくなったFWというか、トラップしたときにはシュートを打つと決めているような選手だから。俺はそういう兼悟が好きやし、彼みたいな選手が前に一人いるだけで相手は怖いし、打たれたくないからブロックしに行くんです。
あそこでシュートを打ったのは、俺も間違ってないと思います。最初のタッチでスピードに乗って剝がせていたらベストやったけど、それができなくてもシュートを自分が打つと決めてるのが兼悟。だから最後、俺も前にブロックしに行きました」
その読み通りに、古山がシュートモーションに入るタイミングで舩木はグッと間合いを詰めた。体に当ててブロックすることはできなかったが、コースが限定され、結果、シュートはGKバウマンの正面でキャッチされることとなった。
「落ち込んでる暇はないです。落ち込んでいても、次の試合は来るので。もっと練習でこだわらないと。復帰して1週間ですけど、1人1人のこだわり切る雰囲気が、まだ足りないと感じます。“昇格も降格もないハーフシーズンやから、ええやろ”ではなくて、全員が危機感を持ってやっていく。みんな歯を食いしばってやってるのは間違いないんですけど、もっといい声をかけ合いながら、コミュニケーションを取りながら、ただ頑張るだけではなく、頑張る質を上げていかないとダメだと思います」
今治への期限付き移籍の期間は、特別大会終了まで。すでに大会を折り返したところでのデビューとなり、試合数も限られる中で、今治への強い思いと危機感をあらわにする。頼もしく、楽しみな“熱源”が、誕生した。
Reported by 大中祐二