Js LINK - Japan Sports LINK

Js LINKニュース

【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:“もう一つの名古屋”が見せた執念。決意のターンオーバーを成功させた選手たちの熱い想い

2026年5月5日(火)


「同じ釜の飯を食った仲」というか、「苦楽を共にした間柄」というか。とにかく熱いものがこの一戦には込められていたのだった。ゴールデンウィークの過酷な連戦のスケジュールは、名古屋にとってはこの長崎遠征を挟む日程をどうマネジメントするかが大きな課題となっていた。5連戦の内訳自体はホームゲームの割合が多く、その初戦は比較的近隣のアウェイである清水戦であった一方、ちょうど折り返し点の長崎戦へは中3日で向かい、次が中2日という厳しさ。遠征の距離としてもなかなかに遠く、17時キックオフは翌日にしか名古屋に戻れない。そこでペトロヴィッチ監督は一大決心をしてほぼフルターンオーバーを敢行。いわゆる“主力組”としては木村勇大と甲田英將をベンチに入れたのみで、メンバーも登録に一人足りない19名で臨んでいた。


この状況にチームは奮起したのだった。ボランチの内田宅哉は「今回でしっかり監督の目に留まるようなプレーをできるように、信頼を得られるようにやっていくしかない。『なんで今まで使わなかったんだろう?』って思わせるぐらいのプレーができたら」と意気込み、「『いいサッカーしたけどなあ…』で終わるより、『“あれ”だったけど勝ち切れたね』の方がまだいい」と菊地泰智は燃えていた。殊勲の2ゴールを挙げた永井謙佑は試合後に「負ければ何言われるかわかんない。いろいろなプレッシャーの中でやってました」と本音を少しだけのぞかせた。端から見れば“控え選手たちがチャンスをもらった”、“だったら思い切ってやれば勝敗は関係ない”ようなシチュエーションかもしれないが、決断した監督も含め、みんな大きな責任を背負って戦った90分だった。



その中でも、めちゃくちゃ青春していたのが小野雅史だ。まずは勝って「超良かったっすよ」と破顔一笑。「今日は、いいところ悪いところ含めて結果だけはほんとうにこだわった。バタバタしても経験のある謙佑くんだったりが絶対にやってくれると思ってましたし、引っ張ってくれた。とにかく90分で勝つっていうのが大前提で、大事だった」と興奮気味に語り、ゲームの内実についてをまず教えてくれる。序盤の混乱を経て内田との役割分担を明確にし、後半からは菊地をトップ下にしたことで自分とのラインも開通させた。「ダイナミックなプレーとか、やっぱりいつも出ているメンバーとは違う部分もあるので、それが良いか悪いかは別として、やるなら“そこ”で点取らないといけないなっていうのは正直ありました」と、このチームならではの戦い方を意識するところはあったと言い、そこに触れた瞬間に、彼の中に渦巻いていた喜び、“このチームで勝つ”という熱い想いを呼び起こした。



きっかけは後半37分ごろにあった、まるで練習の序盤にやるボール回し(鳥かご、ロンド)のようなパス回しを彼らが見せたのだと聞いた時である。「僕もちょっと楽しくなっちゃって」とにっこり笑った小野は、溜めていた気持ちを爆発させた。



「自分自身にもその時間では余裕ができていて、パスコースとか相手の動きにもどんどん慣れて見えるようになって、みんなも動きが出てきたんで、そこは良かったなって、うん、思いますね。でも、やっぱり今日は気持ちの部分で、みんなの勝ちたいっていう気持ちが身体を動かしたかなって、ほんとうにそこは思います。今日はほんとうにどうしても勝たなきゃいけなかったというか。その、特別な気持ちも正直あって。“このメンバーで”っていう。もう、みんなとも昨日、ずっとずっと言ってました。『絶対勝ちたいね、負けたくないね』って。『やっぱりね…』って言われたくなかったんで、そこは絶対に否定されたくなかったんで、それがこの試合につながったかどうかは別としても、自分たちのプレーも出せたと思うし、結論として、勝った。前期に負けた相手に対してしっかり勝ちきったっていうのはすごく、自分たちにとっても良かった。クラブとしても、サブチームで勝つっていうのはすごいところで、一番そこが大事だったと思うんで、今日はほんとうに良かったと思います」

永井は言っていた。「ディフェンスのメンバーがすごく身体を張ってくれて、最後もピサノが止めてくれたり、その直前で瑶大だったり、ケネだったり、マサだったり、いろいろな選手がシュートブロックして防いでくれたシーンもたくさんあった。最後まで一体感を持ってやることができた」。勝ちきれた要因は根性、と言ってはいけないが、その気持ちをもって勝点3をつかんで離さなかったのは事実だ。その永井にしてもビルドアップでやや嫌な雰囲気になった時間帯に自陣ゴール前まで行って後輩たちを鼓舞し、落ち着かせ、困ったら前に蹴れとばかりにフォアチェックの速度と頻度を歯を食いしばって上げた。若手からベテランまで気迫で乗りきった試合を、小野も苦笑まじりに振り返る。



「いやあ、今日はなんかみんな人格変わったんじゃないかってぐらいに気合い入って、声も出して、叫びまくってました(笑)。相手のスタジアムも素晴らしかったんで、そこでは声をかけないと伝わらなかったところもありましたけどね。叫ばないと聞こえない、ほんとうに。でもそういうところでも全員が集中を切らしてなかったし、コミュニケーションを最後までとっていた。足がつりそうな選手とかもいたけど、ほぐし合って、身体でちゃんとブロックに行って、それが間に合わないシーンとかもあったんですよ。ロングシュートとか。それでもみんな滑りに行ったりとか、少しでもぶつかりに行くとか、それだけでも変わった。そういう意味ではほんとうに気持ちの入ったゲームだったと思います。やっぱりこのメンバーがほんとうに僕にとっては特別で。キャンプからずっと、今日のメンバーで勝つことは特別なものだったと思う。ミシャも今日は『裏切ってほしい』と、『自分の評価が間違っていたっていう、そういうゲームにしてほしい』っていう風に言われてた。だから全員がそこに対してベクトルが向いていたと思うし、それでも“チームのために”っていう気持ちもあった。今日はいつもと違うメンバーですけど、だけど全員で勝ち取った勝利かなと思います」

“全員”とは言わずもがな、名古屋に留まったメンバーたちも含めた全員ということである。美しい心意気だ。もちろんその一方で、いちサッカー選手として自分のアピールができたという気持ちもある。久々の90分出場は小野という選手の特徴を考えても必要な条件ではあり、「90分出るのは全然違うものだし、選手としての価値はやっぱりそこにある。自分なんか特にたくさんボール触らないといけないから、10分じゃ足りないじゃないですか」とまた笑う。小野とてこの試合の立ち上がりは苦戦していた。しかし全員でその状況を何とかしようと闘い、試合中にチームを良い方向へと修正しながら戦えたことが、勝利を引き寄せたと手応えを感じる。「うまくいかなかった時間も、噛み合わない時間にも、ちょっとイライラする時間も正直みんなあったと思うんです。それでも集中力を切らさずに、ハーフタイムは雰囲気も良かった。全員がコミュニケーション取り合って」。最後のチャンスは決めたかったと苦笑いするが、勝てたことですべてはポジティブにとらえることもできる。

永井は今季、このチームでプレーすることの方が多く、常に彼らに教えて、諭すように声をかけながらプレーを続けている。練習中や練習試合の中ですら、「ここに動いてくれ」ではなく「ここに動いてくれ、でもそれができないなら言ってくれ。だったら俺はこっちの動きにするから」と懇切丁寧なコーチングで仲間を引き上げようと必死に取り組んでいる。そういうことを聞くと決まって「だってそこまで言わないとわからないんだもの」とつれないが、そんな面倒なことをわざわざしてくれるのだから、彼も相当に仲間想いで優しい男だ。ベテラン勢として仲の良い野上結貴は永井が記者に囲まれているのを見て、「これがベテランですよ!」と嬉しそうにしていた。“このチーム”で勝ったことを、このメンバーたちは本当に喜んでいる。そんなかわいい後輩たちを眺めて、永井は言うのだ。



「『ミスしてもいいんでチャレンジはしよう』っていう話をしてきた。そのチャレンジの中で、ボールの取られ方が悪くて失点しそうにはなりました。でも、落ち着けばやれるメンバーだし、やらないことには成長もしないんでって感じです。このメンバーとは長くやってるからね。そういう意味では自分の良さだったり、他の選手の良さも出せる。でも今回休んでいるメンバーの中に入った時に、いかに自分の良さを出していけるかは今後も課題だし、そこはやっぱり自分たちのプレー時間を増やさないといけない部分もありますね」

ここで満足するなと大ベテランは言った。ターンオーバーで勝つのは大事で、すごいことでもある。しかしやるべきことは何かを見失ってはいけない。重要なのはここからだ。サブチームとして勝つのではなく、自分たちが主力組に成り上がっていく、その第一歩とできなければこれはただの“いい話”で終わってしまう。素晴らしい勝利を挙げたその余韻を良い思い出とせずに、次への糧としていくこと。しかしそれができる選手たちであることは、何よりもこの勝利と勝ち方が示している。

Reported by 今井雄一朗