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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:大敗が示した名古屋の進むべき道。貫く想いはさらに強く、鮮やかに

2026年5月19日(火)


好事魔多しとは、まさにこのことである。3日前までは百年構想リーグの西地区を引っ張る絶好調のチームだったのだが、たった1試合の結果で首位を追いかける立場になった。細かな勝点計算や順位が並んだ際の条件など、最終節で再び首位に返り咲くにはいくつかのパターンがあるが、まずは90分にせよPK戦にせよ、勝って初めて道が拓けるような状況が正直なところ。理想的とも言える勝ち方で記録した3連勝の内実には十分な必然性が備わっていたとは思うが、世の中に無敵や万能というのはなかなか存在しにくいものだ。それはC大阪が名古屋の強さを受け入れ、然るべきリスクを負って大勝につなげていった過程からも、よく理解できた。


1-6の大敗を喫した試合後の名古屋の選手たちの表情は、明るくはなかった一方で悲壮感や無力感もなかった。「前半の相手は得点シーン以外にはチャンスらしいチャンスもそこまでなかったし、自分たちの方が良いビルドアップをして、良い崩しもできていた」とは藤井陽也の感想で、徳元悠平も「うまくいってない感じもなかったし、最後の部分で良いクロスが上げられなかった、良い崩しができなかっただけ」と点差ほどの劣勢はなかったと言う。野上結貴も「これまで勝った試合の中でも、ビルドアップはけっこう上手くいった方の印象ではあった。ただ、クロスが合わない、最後のところの精度が合わなかった。失点に関しては半分には減らせたけど」と、何もできずに惨敗した、という試合ではなかったことを率直に語る。

確かにその意味では紙一重の戦いで、その紙一枚を隔てたのが決定力やチャンスメイク精度だったことが、1-6という大差につながった。そこにもう一つ加わるのが前述した“名古屋の強さを受け入れた”というC大阪の戦い方である。野上はこうも言った。「相手はこっちの攻撃を許容してる感じで、そこからボランチが取った時に一気に入れ替わるシーンから、カウンターでどうするかというフェーズだったと思う。そこのカウンターを仕留められた」。なるほど違和感はそこにあったわけだ。この試合、4バックの相手に対するアドバンテージが大きい名古屋の攻め方の特徴としての、サイドチェンジはじめワイドポジションを活かす流れは滞りなく作れていた。それはG大阪戦や京都戦でも明確に誇示していた強みであり、通常ならばそこをどう抑えるかを考えるのが戦術である。たとえば京都は5トップに対して4バック+ボランチの5枚での対峙を目論んだが、山岸祐也に尹星俊とのミスマッチを見抜かれ大立ち回りを許した失策もあった。

そこでC大阪は序盤は田中駿太を同じように下げて対応する立ち上がりから、右サイドバックのディオン クールズが1人で右の数的不利を賄えることが分かり、4‐2‐4のような形で守備を形成。クールズは中山克広とのマッチアップをこなしながらも、逆サイドのクロスに対しては左シャドーの木村勇大にもしっかり対応し、勝利の陰の立役者となってみせた。木村は「相手はサイドをけっこう捨てている感じがあった」と証言し、しかしクロスは上がっているのだから、やはり問題は精度と決定力だったと悔やむ。「だから、そういう質のとこじゃないですかね。結局は相手の方がそういうところで良かったんで、やられただけ。もう明確にそこの差だったんじゃないかな」。前半終了間際に意地の1得点を返した背番号22だが、確かにこれもセットプレーとはいえクロスから始まる波状攻撃が実を結んだ形だった。クロスが跳ね返され、内田宅哉がポスト直撃のシュートを放ち、こぼれにいち早く反応した浅野雄也がゴールを狙い、最後を木村がねじ込んだ。この質をその他の、“捨てられていた”サイド攻撃でも発揮できていれば、大量失点につながるカウンターの質も生まれていなかっただろう。

その質にしても、最初の4得点はすべてボランチの石渡ネルソンが絡んでおり、彼がそこまで前に行けた理由はその推進力や身体能力だけではないと考える。クールズが4バックの堅持を保証してくれたことで中盤の底を2枚でバランス取りすることができ、なかなか崩せないと見るや攻撃に加勢してくる徳元の背後を柴山昌也らと有効活用しに行けたからだと思う。名古屋が十分な攻撃力とチャンスクリエイト力を見せてC大阪の守備ラインを“5枚”で対応させていれば、必然的に石渡は中盤の守りの要としてプレーせざるをえなくなり、カウンターの迫力は半減したはず。そうなれば逆に名古屋の高嶺朋樹や内田宅哉は攻撃のサポートと即時奪回の担い手として前向きのベクトルでプレーすることができ、藤井や野上、果てはシュミット ダニエルまで加わったビルドアップは厚みを増してより得点へのアプローチを増やしたに違いなかった。それは前2戦で、名古屋が実際に起こしたムーブメント、モメンタムとも言えるものだったからだ。名古屋に対する勝ち方とは“20年もの”のミシャ式を理解した立ち回りだけでなく、強みを受け入れた上でのファストブレイクにもあったのだと気づかされた試合だった。この日のC大阪には守りまくってカウンターという印象は少なく、だからこそ名古屋は今後のケーススタディとしていかなければいけないものと言える。そしてそれは、逆説的にも自分たちの進む道を強く意識させるものでもある。

「どうすればよかったか? でも、みんなも精一杯守ろうとしてやった結果なんですけど、その前に守備でついてきていないとか、そういう細かいところはありました。マンツーなんで、誰かがついてこないと絶対に数的不利になるので、そういうシーンはいくつかはあったかなと思います。それをしっかり決められてしまった。相手もクオリティが高かったし、前半は相手の打ったシュートがほぼ全部入った感じだと思うんで(4本で3得点)。相手は最後のクオリティが高かったし、自分たちはやらなければいけないところをやらなかったのかなと思いますけど」



野上は抑揚なく、冷静にフラットに試合を振り返った。攻め込んで一気にひっくり返されるような展開の中では藤井の奮闘も際立ち、3点、4点と点差が開いていく中では果敢というより勇敢とも言えるレベルの縦パスを打ち込んで何とか反撃を、という気概も見せた。「ほんとに勝たなきゃいけない試合だったので、なんとか盛り返したかった。後半の連続失点のようなこともしてはいけないし、なんとか同点に追いつくっていう意地を見せなきゃいけなかった」。守備の要にして攻撃の基点のひとつ、という多忙なシーズンにやりがいを感じている生え抜きのDFリーダーは、「ああいうところから逆転できるような強さをつけなきゃいけない」と唇を噛む。同い年の木村も「前半が終わった時点では『全然いける』って感じで雰囲気も良かった。後半立ち上がりのガミくんのやつ(VARで得点取り消し)が入っていたらまた違ったかもしれないですけど」と言い、さらには“負け方”についても言及した。

「0-3になってもサポーターの人たちはみんな声を出してくれていたので、俺らがやんないとダメだった。チーム全員でもっと前へ、前へとプレスをかけて、1-6じゃなくて2-6、3-6にするだけでも違うし、今日はあのまま1-6で終わっちゃったのがダメだったんだと思う。6失点するのがまずダメですけど、6点やられたとしても、それを2-6や3-6にすれば、最後まで声を出してくれているサポーターの人たちの気持ちも違うと思うし、やられたまま終わったというのが今日はダメでした。前半で1-3にして、後半で巻き返したら一番良かったですけど、後半も同じようにまた3点取られたというのもダメだった。前半足りなかったところが後半もそのまま足りなかったからなので、そこはちゃんとチーム全員で見つめ直していく」



この点については藤井も「失点の場面は耐えなければいけなかったけど、失点しても自分たちのプレーを続けようというところはできていた」と、チームの心は折れてなかったと前を向く。「攻撃の部分でボールの取られ方が悪いシーンは多かった」という点については木村も「ボール持って押し込んで、取られてカウンターみたいな流れがずっと続いていた。クロスを上げてシュートを外したとしても、やりきって相手のゴールキックからという流れをもっと作れていたら違った展開になっている。相手がやりたいようにボールを取って、前向きの矢印で全員が出てきて、という流れでずっとやってしまった」と、攻撃時のリスクマネジメントが不足していたと感じている。大敗の後でこういう言い回しは変かもしれないが、攻めの思考が揺るがない部分には頼もしさすら漂う。“どうやって守るか”は“どうやって点を取るか”と背中合わせ。わずか4ヵ月でこの突き抜け方に達したことは驚きでもある。

「『最後に勝つにはこれがいい学びだったな』って言われるような最終節にしたい」。徳元は自らのクオリティを反省しながら、最後に笑うのが自分たちであることを望んだ。野上は相変わらず「最後勝って、あとは結果待つだけだと思うので。そのための準備を1週間するだけ」とクールだったが、藤井は「次で勝つしかない。少し負傷者が出たりとか、そういうのはほんとに言い訳にならない」と決意を口にした。稲垣祥や原輝綺が負傷欠場だったこの一戦で、彼らの不在を嘆く声もあるが、それが敗因とは思わない。彼らとて敗因にされたくはないだろう。守備が悪くて大敗したのではなく、攻撃の不調が呼び込んだ惨敗なのである。そういう文脈で読まなければミシャ名古屋のストーリーは別の物語になってしまう。その時のベストチョイスで勝って行けるチームであることは先の長崎戦でも証明したはずだ。うまくいかなかった要因をピッチ外に求めるのはフェアではない。

「試合後にサポーターの人たちも言ってくれましたけど、まだ終わってないんで。次の試合の結果でほんとに全然“ある”んで。今日、神戸がPK戦で負けたというのも、まだ運が全部離れてないところかなと思う。最終節はアウェイですけど勝つだけ。内容ももちろん大事だけど、ほんとに“勝つ”ことが一番大事。何がなんでも勝つだけ」



今季8得点目を挙げた木村は勝って結果を呼び込もうと意気込んだ。山岸の9得点と合わせて前線2人のストライカーで17得点は間違いなくJリーグ最強のFW陣であり、チーム総得点29は東西リーグ通じて最多なのだから、やはり名古屋は攻め勝つことに覚悟を決めるべきなのだろう。それは神戸と勝点が並んだ時に、自分たちが上に行く理由にもなるのだから、なおのこと前面に押し出すものとなる。服部健二スポーツダイレクターも「もっと時間がかかると思っていた。こんなに速くここまで来るなんて」と驚くチームの成長は、今この局面にあるだけでもある種成功ではあるのだろう。だが、彼らは何も勝ち獲っておらず、現状に満足しているわけでもない。今ここにおいてできることは“最善を尽くす”という他力も含んだ目標にはなるのかもしれないが、実際にやるべきことは同じである。ゴールを奪い、勝点を奪う。できれば美しく戦い、しかし猛々しくも闘う。「自分自身でもこれは間違った選択をして、自分に苦しい課題を与えてしまったんじゃないかなって思う時もあるけどね」とペトロヴィッチ監督は笑う。美しく勝つのは難しい。しかしその険しい道を一歩ずつ、だけど着実に前進しているチームがここにある。最終節も彼らは攻める。攻めきって、何が起こるかを楽しみにしている。

Reported by 今井雄一朗