
すっかりオフシーズンに入っていて、移籍などのリリースも現時点では特にない。WESTグループ3位、最終順位6位で特別大会を終えた名古屋グランパスは6月13日のJリーグオールスターDAZNカップに出場した4名を除いて7日からオフに突入し、ベストイレブンたちも1週間遅れで束の間の休暇を楽しんでいる。新たなシーズンの始動日は7月1日と区切りもよく、4日からは新たなキャンプ地である北海道は苫小牧での強化合宿をスタートさせる。ミハイロ ペトロヴィッチ監督のスタイルの浸透はかなり進んだ感もあるこの半年間だが、昇降格のないノープレッシャーな日々が終わったことは自覚しなければならないところ。PK戦による勝敗がなくなり、勝点を巡る駆け引きもよりシビアになる中では、名古屋のような攻撃特化のチームこそ、より気を引き締めてかからなければ痛い目を見る。
そうでなくとも、シーズン終盤は痛い目を見続けた。ゴールデンウィークの連戦を上手く切り抜けたことで首位に立ったが、WESTグループのラスト2試合を6失点、4失点と大量失点で敗戦。守りを整備するより、相手より得点を増やすことの方にフォーカスした方が、結果的には良い結果が出るような仕組みのチームだが、先に防波堤が決壊しては肝心の攻撃の方も機能不全に陥る。そのためにも先制点が何より重要だと説くのはチーム最年長の武田洋平だが、これは当たり前すぎるようで真理でもある。“攻防一体”のスタイルを形作る根幹が“攻”の方に偏っているチーム設計だから、攻撃でマネジメントを引っ張らなければならず、それには先制点がキーファクターであると同時にバロメータにもなってくる。さすが長老、端的な言葉にたっぷり意味を乗っけてくる。
この点については、フィールドの最年長であり町田との最終戦でも得点を挙げた永井謙佑も言及していた。新たなスタイルで戦った半年を経て、来季への展望を聞いた時、「まあ、厳しいことを言うと…」と切り出す。しばしのオフを挟んで始まる“本番”に対する警戒心に、ラスト4試合でひとつも勝てなかった悔しさも載せて、ややトーンを落とした声で永井は話す。

「失点しないようにということ。監督の美学はわかっているけど、やっぱり失点するとプランも崩れるし、連続失点をするシーンが最後の方は多かったので。そこはベンチワーク含め、みんなでそうならないようにしないといけないなっていう課題をすごく、この残り3試合、4試合ぐらいでは感じたので。そこでしっかり踏ん張れれば、同点にする、あるいは逆転まで行けるっていう攻撃の能力はみんなが持っているから、まずはそこの部分ですね。この半年はけっこうレギュレーション的にもオープンになりやすい、そういうシチュエーションがあったこともあると思いますけど、ここからは優勝争い、そして降格という、今まで通りの厳しい世界がある。そこはみんなでこだわってやっていきたい」
永井はまた、独創的に確立された“ミシャ式”に則った戦い方についても「勝ちゲーム、負けゲームの質はすごく似てるよね。『負けている時はそのシチュエーションだよね』っていう負け方が多い。そこのマネジメントも個々の選手で感じながら、どうやって毎試合で自分でフィードバックして連係を高めるか」と、試合の中での状況対応力とケーススタディの重要性も説いた。ミシャ監督はかなりしっかりとしたルールとセオリー、ポジショニングや戦術を選手に明確な答えとして授けてくれるが、それが万能でないのは当然であり、そこから先は選手たちのひらめきやアイデア、もっと言えば状況判断の確かさがプラスアルファの“勝つ力”を生んでいくようなところがある。
以前に行なわれた練習試合の中で、永井はその点に触れていた。「ミシャが『そこのポジションにいろ』って言うので、そこにいすぎて逆に後ろがパスを入れづらそうにしていた。そこは全体的なローテーションをさせながらうまくかわせた部分はあったので、そこも混ぜながらうまくやっていきたい」。絶対必勝の戦い方などあるわけがなく、ましてやJリーグで20年近く使われてきた半ばトラディショナルな戦い方を彼らはやっている。どこに強みがあるのか、どこに穴ができやすいのか、それはもうわかりきっている一方で、強みが出れば絶対的なアドバンテージを得られる戦い方であることも、この半年間で名古屋の面々は体感してきた。だから必要なのは各々で考えて、このスタイルをうまく運用していくこと。それはキャプテンの稲垣祥も同じことを感じているから、確かさが増す。

「戦い方の大枠はできたと思うので、その枠をみんなで共有しながらゲームを進めていくことは、ある程度はできるけど、優勝するには、ACLを取るにはまだ足りないところがあるっていうのも明確で。目指しているところにはまだ届いてないし、足りてないし、満足するような出来ではない。なんか微妙な感覚での『いい感じになってきてるよね』とか『チームとしてうまくいく時間増えてるよね』と、雰囲気としての“いい”が一番怖い。あくまでも僕らはまだ目標には届いてないし、そして大きな課題もある。そことしっかり向き合いながらやっていかないと、痛い目を見る。ラストの数試合でもそれは感じているから、このままではまた痛い目を見るのは間違いない。そこの空気感は履き違えないようにしたいです」
自身は第16節の京都戦での負傷をきっかけに、もともとオフに手術を行なう予定だった三角骨の除去手術に踏み切り、来季のフル稼働に照準を合わせている。手術直後に「状態は良くて今から残りの試合出られそう(笑)」と言うぐらい足首の経過は良好で、「キャンプは8割以上やりたい」というこだわりもあり、特別大会のラスト4試合を欠場することになったのはチームには痛手だったが、全快の稲垣が“2年目”のチームの先頭に立ってくれるのならば、これほど頼もしいこともない。稲垣はまた、欠場中のチームや仲間に対して「申し訳ない」と言い、しかしうっすらと感じていて、自らの不在に明確に出た課題に対して「逆にキャンプから向き合えるし、そこを潰す作業をより早い段階からしていける」とあくまで前向きな捉え方を心掛けた。優勝以外では勝敗にこだわる必要性が薄かったこの半年間の中で、新チームの立ち上げ、理解、実践、習熟、そして課題解決というところにまで着手できるようになったというのは、改めてこの5ヵ月間の名古屋の急成長に驚く部分ではある。
7月から再起動するチームにおいては、ミシャ監督はフィジカルコンディションの改善と強化を明言しており、同時に常に成長と進化を求めている連係面のブラッシュアップにも取り組むとした。シーズンが終わり、オフに入ったものの、これは通常のオフではなく、通常ならばむしろコンディションが本当の意味で上がり出す時期でもある。藤井陽也はオールスター後に「半年間だけどタフなシーズンだった」と言っていたが、選手たちもオフだからとそこまで状態を落とさず、来る新シーズンへの準備を重ねてきているはず。手応えもあった半年間を無駄にしないためにも、ここでリセットするのはもったいない。「この半年間で積み上げてきたものは終盤にかけて、より精度は上がっている。次はキャンプを通してもっと精度を上げるところと、リスク管理のところ。そのバランスをしっかり取れれば、もっと良いサッカーができる」と言ったのはアシスト王に輝いた中山克広だ。可能性は全員が感じている。ちなみに町田との最終戦、退場者が出てポジションと疲労のやりくりが難しい中、彼がボランチを務める時間があった。「状況も状況だったし、(鈴木)陽人みたいなフレッシュな選手がサイドで突破を、っていうところもあって。ただ自分がそこから足がつっちゃって、ボランチもうまくできなかったんですけど」と事情を説明した中山はさらに一言、「まあ、“新しい景色”を見ることはできました」とニヤリ。言わずもがな日本代表のオマージュであり、半年でジョークの腕も上げたのかと感心させられた。あとはオールスターの決定機を仕留めていれば…。

中山はまた、「監督もすごい気合いが入っていたので怖いです。気合が入りすぎている」と苦笑いした。実のところ、ミシャ監督は5月の頭ぐらいからすでに「夏のキャンプでは…」という話し方もしていたらしい。ここまでのチームづくりを見ていれば、その手順や組み立て方はとてもシステマチックで再現性があり、ビルディングプランはもう夏以降の分まで含めてこの半年間の指導をしていたのだと想像する。その中で当初は「焦らないで」とばかりに「まだ始まったばかりだ」と言っていた指揮官が、WESTグループのみとはいえ上位を争い、得点王とアシスト王も合わせて4名のベストイレブンを輩出するに至ったチームを見れば、プランも前倒しに、より意欲的なものにアップグレードしていてもおかしくないとは思う。中山の言う気合とは、果たして“鬼のミシャ”降臨を意味するのか。
オフは長いようで短く、終わってしまえば一気にチームは次シーズンへと加速していく。補強はあるのか、移籍はあるのか、どのようなチームプランがそこから見えてくるのか。新しいユニフォームも発表が待ち遠しく、それをこの梅雨の時期に感じていることはシーズン移行があるからこそ。始まる前というのはいつも楽しみしかないもので、その前段が良い印象ならばなおさらにそうだ。前年度の残留争いから一転、特別でポジティブな半年間を過ごした名古屋が、ここからさらにどんな進化形を見せてくれるのか。あれはまだプロローグだったのだと思わせてくれるような“次”に、今から期待が止まらない。
Reported by 今井雄一朗