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【取材ノート:福岡】ロングスローだけじゃない。激化するポジション争いの中で成長を期す前田快

2026年8月11日(火)


令和8年8月8日。シーズン移行した2026-27明治安田J1リーグの開幕戦でJFA・Jリーグ特別指定選手の前田快(神奈川大学4年生)が途中出場で“Jリーグデビュー”を飾った。


「緊張感はなかった」

出番が回ってきたのは、67分。1点ビハインドの状況でボランチの前田は冷静に、そして野心を持ってやるべきことを遂行した。それまで相手の背後へのパスが多かった福岡の攻撃に変化を加える。「自分のプレースタイル」と口にするようにライン間の狭いスペースでボールを受け、素早く散らし、鋭い楔のパスも差し込んだ。中盤で落ち着きを作ったことでボールの循環は良くなり、ゴールに向かうシーンは増加。チームの潤滑油となり、百年構想リーグ王者相手に大きな存在感を示した。

「相手に代表経験者が結構いる中で、まずは、自分がどれくらい通用するのかなというところと0-1と点を取りに行く中で、(入る前までは)ちょっと背後のボールが多くてオープンゲームになっていたので、間で受けてモロくん(師岡柊生)とつながるプレーを意識しました。その中で、何本か縦パスを刺せたりとか、友くん(見木友哉)との関係で(攻撃の)起点にはなれたんじゃないかと思います」

今年の2~6月に行われた百年構想リーグは、これまでのJリーグと一線を画し、公式記録上は別の扱いになるため、前田にとってこの試合が“Jリーグデビュー戦”。2025年9月に2027シーズンからの加入が内定し、特別指定選手としてプレーした特別大会で大きなインパクトを残しただけにその言葉を聞いて違和感を覚える人もいるだろう。第1節の岡山戦で途中出場を果たすと、鮮やかなゴールで衝撃のデビューを飾り、トータルで4試合に出場。神奈川大学ではキャプテンを務め、関東大学2部のリーグ戦や大学選抜の活動と並行しながら戦うタイトなスケジュールの中でもプロの世界で力を示した。


そんな実力者の前田の名をより世間に知らしめるきっかけになったのが持ち味のロングスロー。あっと驚く規格外の飛距離を出し、球種も投げ分け、チャンスをクリエイトする。百年構想リーグ、そして神戸戦の終盤でもスタジアムを大きく沸かせた。ただ、自分たちのやりたかったロングスローからチャンスを作ることができず、逆にロングスローから失点して開幕戦は敗れただけに「結局、ロングスローもああやってチャンスになるという中で、相手の方が本数は多かったし、その中で自分もロングスローでやり返したかったけど、本数が少なかったので、もっと投げさせて欲しかった」と悔しさを滲ませた。

そのぐらい思い入れのあるロングスローという武器。すっかり前田の代名詞として定着しつつあることを本人はどのように感じているのか尋ねた。

前田はすぐに「それでいいんです」と微笑み、言葉を続けた。「それで試合に出て『そうじゃないよ』と(いうプレーを)見せるのでそれでいいです。ロングスローで(試合に)出ていると思ってたらいいです。ずっとそうだったので。大学リーグの中でも1部の選手とかから『なんであいつがプロに行くんや』みたいな感じに思われた時に『ロングスローやろうな』みたいな感じに思われて、自分の中で嫌やったし、逆にロングスローじゃない部分も見せたかったから。段々それを証明できていると思うし、全日本(大学選抜)とか入って、いろいろ1部の選手とやる中で自分の特徴とか、ロングスローだけじゃないというのも多分見せられていると思います。『ロングスローだけじゃない。舐めんなよ』みたいな感じのところは今後も見せていけたらと思います」。

ロングスローという武器はあくまで試合に出るためのきっかけの一つ。そうやって掴んだチャンスでしっかりとそれ以外の特徴を見せてプロの舞台でも存在価値を高め、ここまでのし上がってきた。

「何でもできる、点も取れて守備もできる選手。オランダ代表の(フレンキー)デ ヨングみたいな感じになりたいなと。チャンスがあればボックスに入っていって、守備でも貢献して、周りのカバーも行ってみたいな。『上手いだけじゃダメ』というのは自分も子どもの時から思っていて、中田英寿みたいな、上手くて、強くて、速い選手が理想」と話す前田の今シーズンの目標は、アシストとゴールを合わせて2桁だ。

その為には先発の座を奪い、出場時間を増やしていく必要がある。「(開幕戦で)やっぱりスタートから使われないというのは、多分タイトな中(堅いゲーム展開)でプレーするのがまだだという評価だと思います。逆に椎くん(椎橋慧也)とかはそういう中で、0(無失点)に抑えたりとかというのが得意だと思うので、もっともっとオープンな展開以外でも自分の特徴を出していけるようなプレイヤーになりたい」とギラギラした目で意気込む。

ボランチには、チームの心臓である見木や百年構想リーグの途中で加入して定位置の座を掴んだ椎橋、そして今シーズン、世界的ビッグクラブのバルセロナやチェルシーでプレー経験のあるオリオール ロメウが加入。さらに、秋野央樹や奥野耕平、福島和毅と実力者も控えており、ポジション争いは激化している。

その中で前田は、自分の良さをもっと出していきながら中盤のプレイヤーとしてより成長するためにチームを動かす発信力が課題だと考えている。

「発信力という部分が自分の課題なところでもあって、自分はアイデンティティが高い選手じゃないと思っていて、人を動かしてというところにも、多少、自信がなくなってコーチングできなかった部分も百年構想リーグではあって、先輩についていく部分というのがあったんで、そこは徐々にですけど、先輩にも言えるような立ち振る舞いが取れるような、自分の分かっていることや見えたことを周りに伝えられるような選手になりたいなと思います」

ホーム開幕戦ではクラブ史上最多となる17,538人の前で「ありがたみを噛みしめながらプレーした」と振り返る前田。ピッチ内外でたくさんの人が支えてくれているからこそ、自分は気持ち良くプレーできる。「おかげさまの精神」という言葉を大事にする背番号55は、これからもロングスローという武器を活かしながら、ボールを刈り取り、前に運んで、積極的にゴールに関わるプレーで見る者のココロを躍らせていく。

Reported by 武丸善章