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【取材ノート:今治】その落ち着きがチームを導く。櫛引一紀がホームデビューで初勝利を誓う

2026年8月14日(金)


経験豊富、百戦錬磨のセンターバックである。J1、J2を舞台にプレーし続けて、プロ16年目の2026/27年シーズンは、自身にとって6チーム目となるFC今治のエンブレムを胸に戦う。

5シーズンを過ごしたV・ファーレン長崎から6月に完全移籍で今治に加入し、迎えた明治安田J2リーグの開幕戦で見(まみ)えたのは、リーグ屈指の強度を誇るいわきFCである。


ゴールネットの張り具合を確認するために、およそ5分、遅れた前半のキックオフ直後、いわきは早速、ゴールキックを契機に人数を掛けて、押し込んできた。セカンドボールの拾い合いの中、ペナルティエリア手前でボールに触ったのが、今治でのファーストプレーとなった。

即座に2人、3人といわきの選手が殺到し、ボールを奪いにくる。その間をぬうように右のスペースに持ち出すと、冷静に目の前でフリーの新井光につなぐ。そこからテンポよく駒井善成、エジガル ジュニオとボールが渡り、エジガルがエリアを飛び出してきた相手GK佐々木雅士をかわすビッグチャンスとなった。

エジガルのシュートは全速力で帰陣した相手DF岩下航にブロックされたが、開幕戦、それもアウェイゲームという状況下で、チームはその後もいわきの高強度なスタイルに対し、受け身に回らない戦いを展開。最初のプレーは、その姿勢をはっきり示すものだった。

「特別、チームのやることとして、つなぐことを意識したわけではないですね、正直なところ。もちろん、モウさん(アベル モウレロ監督)がやりたいサッカーはつなぐことなんですけど、自分としては開幕ということで、多少なりともみんな硬いところがあると思い、『ここで一つ、つなげられれば、みんな落ち着けるのかな』と。そういう意味で、しっかり判断できたのはよかったです」

パスがつながれば、選手それぞれがつながる。今季からチームを率いるスペイン人指揮官のモウレロ監督は、それをピッチ上で表現できたとき、「バンドがすばらしい演奏をしているような、見ていて楽しい気持ちになるはず」と表現する。そして初陣となる開幕戦を控え、いわきを次のように最大限、リスペクトしていた。

「今治と同様に、いわきも自分たちのパーソナリティーを持っているチームです。自分たちとは対極的で、ボールを持ったとき、より強く、速く、縦に攻撃してくる。狭いスペースから広いスペースまで、状況に応じて異なる強さを見せてきます。
どちらが優れているか、という話ではありません。いわきはスペインでいえば、アスレティック・ビルバオのようなパーソナリティーを持っています。そういうチームは、必ずといっていいほど、自分たちが大切にしているものがあり、チームに芯が通っています。本当に危険なチームです。
開幕戦は、互いの異なるパーソナリティー、サッカーを見せ合うような、非常に面白いゲームになると思っています」

試合はモウレロ監督が予想したように、それぞれが演奏を競い合う、いわば“対バン”のような様相で展開していく。結果的に、いわきが彼らの演目である走力と勢いで上回った後半早々に2失点し、1-2で敗れはしたが、今治がつなぐことを見失ったり、放棄することはなかった。その意味で、これからにつながる第一歩を踏み出した開幕戦であった。

高強度のいわきを相手に90分間戦い続けて、今治デビューを果たしたベテランも、はっきりと手応えを感じている。

「自分たちのやりたいサッカーを100パーセントできる時間帯ばかりではないことを理解した上で、その姿勢を失くしてはいけないと思います。今治はつなぐこともできれば、蹴ってセカンドボールを拾って攻めることもできる。そこが自分たちの良さだと思うし、(いわき戦も)ただ蹴ることだけに逃げたくないという思いがありました」

その意味でも最前線のエース、エジガルをチームとしてどう生かしていくかは、極めて重要だ。

ブラジル人ストライカーが今治に加わった明治安田J2・J3百年構想リーグでは、苦し紛れのロングボールを当てるのが精いっぱいで、チームとしてポテンシャルを十分に引き出しきれないことも少なくなかった。長崎で多くの試合を共にしたセンターバックから見て、エジガルを生かすポイントは、どこにあるのだろうか。

「当然、相手も意識してエジのところに厳しく来ます。そういう意味でボールの奪いどころでもあるし、リーグにはうまくて強いDFもたくさんいる。アバウトなロングボールで競らせても、勝てないことも出てきます。
エジの場合は、特に足下にボールをつなげてあげられれば、そこからチャンスが膨らみます。本当にうまい選手なので。だから、いかに胸から下でコントロールできるいいボールを供給できるか。それが、大事になってきます」

選手の距離感を大事に、つなぐことを恐れないモウレロ監督のサッカーだからこそ、最終ラインから最前線への新たなルートが切り開かれる期待も膨らむ。

「このサッカーは、チームにとても合っている。後ろから見ていて感じます。エジ以外にも良いFW、中盤にも足下の技術が高い選手が、今治にはたくさんいますから」

開幕戦で修正すべき点も見えてきた。特にクロスに対して、DFの前に入られて合わせられるピンチが何度かあった。増席工事が完了したホーム、アシックス里山スタジアムでの開幕戦となる次節、RB大宮アルディージャ戦でも、間違いなく重要な勝負どころとなる。

「サッカーで最もゴールが生まれるのはクロスからだと思います。相手も人数を掛けてゴール前に入ってきますし。それに対して、必ずしも同じ人数で守れるわけではない。でも数的不利な状況でも、守らなきゃいけない。内側から絞って、一番危ないところから守っていきます。
大宮も、どんどんクロスを上げてくるチーム。最大限に注意します」

豊富な経験に裏打ちされた落ち着きと判断力が、チームの守備に一本の筋を通してくれるに違いない。堅固さが増すことで、攻撃力が引き出される。ホームデビュー戦で、守備からチームを今季初勝利へと導いていく。

Reported by 大中祐二