
謙虚すぎるのだ。後半アディショナルタイムの劇的逆転ゴールを決めてなお、「みんながみんなで勝ち取ったゴール」と真っ直ぐな目で言い切る。得意のアシストは「ほんとに触って入るのが理想」と自分のお膳立ての質にどこまでもこだわるおもてなしっぷり。決まらなければ自分の質で、決めてくれれば相手の手柄。自分の得点が勝利につながったことは嬉しいが、「自分が今日の勝利を決めたとは正直思ってない」と、決勝点を挙げた自分にはあまり関心がない。それよりも「みんな最後までしっかり守ってましたし、陽也なんか1人でもうあっちこっちに走って、最終ラインに瑶大が入って弾いてくれて、謙佑くんも前線で追っかけてくれて…、ほんとみんなで闘った試合だったので、ほんとにそのおかげで勝てた」と仲間の奮闘を称えてやまない。しかし、だからこそ誰もが中山克広の名古屋移籍後初得点を喜び、笑顔で彼を迎えた。こんなに嬉しいことはないと、全員が彼を祝福した。
無意識と偶然が、彼をゴールに導いた。今季はプレシーズンからずっと「もう、点が取りたいんです僕は。今年はやっぱり。まずは1点でいいので点が取りたい」と得点を意識し続けてきた百年構想リーグのアシスト王は、しかしその想いとは裏腹にゴールとの距離感が縮まらなかった。この2ヵ月間で、何度「もっとシュートが打てたのでは」と彼に聞いたかわからない。その度に彼は「シュートの意識はもちろんあるんだと思う。チャンスがあればゴールは狙うし、だけどウイングでワイドなぶん、クロスからのアシストも意識している。どっちに比重をっていうのは難しい」と優柔不断かつアシスト寄りの思考を吐露していた。岡山戦でも少なくとも二度、自分でシュートを打てる場面で中央への折り返しを選択したことがあった。「ちょっと中が見えすぎたというか、マイナスが空いていたので、そこを狙ってしまった。その状況でよりゴールに入りやすい可能性を考えると、そういう選択肢も出てきちゃう」。ハイスピードの突破の過程の中でそれだけ見えているのは素晴らしいことだが、それでは得点は決められない。
そこで得点シーンである。そもそも中山は無我夢中だったと言い、この場面を試合直後はあまり覚えていなかった。「自分でも得点シーンを映像で振り返りたい」。苦笑した彼の持っていた記憶はこうだ。「はっきり覚えてないですけど、ヒデからこのあたりに来そうという感覚があって、動き直して、そこからシュートを打って、ごちゃごちゃってなって、もう1回打ったみたいな感覚」。実にアバウトで、まさしく無我夢中だった。だが、あれこれ考えるまでもない状況が彼をシンプルにゴールに向かわせたところが良かったとも言える。コーナーキックで中央にいたので、「やっぱあそこにいるならフォワードの動きをしなきゃいけないですし」と思考が切り替わっていたのも良かった。そしてひとつの偶然が、いや必然かもしれないが、中山を“あそこ”にいさせてくれたことが、そこにさらなる追い風を吹かせていたことが見逃せない。
「もともと今日はトクとコーナーキックを交互で蹴るっていう感じでやってたんですけど、トクのキックの精度が今日は高かったですし、あの場面はそのままトクにお願いして、僕はキーパー前のポジションに入っていた。そこでファーにこぼれて、ヒデが…ちょっとその前の流れははっきり覚えてないんですけど、ヒデがファーから折り返したボールを、っていう感じで。そこの動き直しはゴール前の選手は、ゴール前にいる限りはやらなきゃいけないので、自分も得点を狙える立ち位置に動き直した感じでした。でもいつもはキッカーだからそこにいないし、そうでなくてもこぼれを拾うポジション。でも今回はトクがキーパー前のポジションだったので、そのトクと入れ替わってやっていたから、トクがキッカーのあの時は僕がキーパー前にいたという」

「だから、彼のおかげで点が取れました」と中山はニヤッと笑った。徳元悠平とは普段から公私ともに仲が良く、年齢がひとつ上で後輩の面倒見もいい徳元は何かにつけて中山を目にかけてきたところがあった。出場機会がなかなか得られない時期には練習後にカフェに誘って『カツの気持ち、俺はわかるよ』と話を聞き、落ち込みそうになる中山を支え、ともに歩んできた盟友である。最近気づいたのだが、少し前まで中山は“トクくん”と呼んでいた徳元のことを、最近は“トク”と呼ぶようになった。彼らの関係性は深まる一方で、だから今回の得点を徳元も我がことのように喜んでいる。「今までも点を取れてなかったですし、悔しそうな顔をいっぱい見てきたんで」。チームメイトも同じ気持ちのようで、この日が誕生日だった山岸祐也は「思い出に残る、記憶に残るゴールだった」と声をかけたとのこと。徳元はまた、「あいつ、キッカーやりたくないからゴール前に行ったんですよ(笑)。でも良かったなと。俺に蹴らせて良かったな、ってあいつには伝えました」と満面の笑みを浮かべた。
ハーフシーズンの最中では「ちょっと何人かは諦めてますよ(笑)。『お前はもう点はいい、アシストだけしとけ』みたいに言う人も多いんで」と自虐ネタにもなっていた中山の得点だが、これでヤマはひとつ超えられたのだろうか。清水時代を引き合いに出し、中山はよく「点を取り出すとどんどん行くタイプ」と自分を表現していた。確かに前所属時代にはJ2ながらハットトリックも達成しており、“ケチャドバ”体質なところはありそうだ。今季の目標を報道陣には「1ゴール」と謙虚に宣言していたところ、4節にしてそれは達成されたわけだが、ここからの上方修正はあるのかと思いきや、「あとはなるがままですね。引き続きそこは。ゴールを狙うときは狙うし」と大言壮語は避けた。それは実に彼らしい謙虚さで、まだ1ゴール決めただけ、何かを成し遂げたわけではないというのは確かにその通りである。「あれだけのチャンスを作っている中で決めきれず、勝てない、いや“勝たせてあげられない”という試合もあったので、余計に申し訳なかった。今日、自分のゴールで勝たせられたのは良かったと思う」。中山の自画自賛はこれぐらいが限界だ。だが、それが良い。この奥ゆかしさと強力なドリブル突破のギャップが、中山克広という選手の魅力となって、さらなる声援を呼ぶ。

ペトロヴィッチ監督も背番号27の得点を待っていたひとりで、試合後には「近いうちに2点目、3点目が見られるのではないか」とハッパをかけたという。それを聞いた中山の返答は「見れるんじゃないですかね」と曖昧なもの。そこは次でと言おうよと励ますと、「まあまあ」とこちらを制して「見れると思います!」と一応宣言してくれた。知る人ぞ知る事実だが、中山は練習では良いシュートをめっぽう決めている。カットインシュートも、こぼれ球を力強く仕留めることも、これまでの実戦での“仕留めなさ”が嘘のように得点を決めている。しかし実戦では得点の可能性をより高める方に意識が向いてしまうので、自分の得点の選択肢が判断の下位に置かれてしまう。これは難題だ。もちろん彼が一番のスコアラーになる必要性はそれほどないのだが、彼が点を取りだせばチームには新たな形も生まれてくる。優しく謙虚な中山は味方の動き出しを活かしたいし、その方が得点の確率が上がると信じて疑っていない。“より可能性の高い方を選ぶ”はミシャ式を実行していく中では超重要な部分なので、これはそのまま個人の課題でありチームにとっての永遠のテーマになっていくのかもしれない。彼はその意味では“ミシャ名古屋”を象徴する選手と言える。

「自分が自信を持って選択したものが同点のPKにつながったり、自分の得点につながったりとできているので、それは引き続きやれればと思います」
できれば今後はシュートの選択にももう少しだけ自信を…と思いつつ、中山はそれでいいとも思ったりする。突破力、推進力、守備への貢献度の高さ、ふんわりとしたそのキャラクター。そこに彼の代名詞となったアシスト力と、今後の覚醒が期待される得点力も加えて、名古屋の中山克広である。岡山戦で見せたその存在感は彼のポテンシャルを再認識させてくれるものだった。30歳になった選手にポテンシャル、というのも変かもしれないが、彼は30歳を“オジサン”とは思っていない。「僕が1年目で横浜FCにいた頃ってもう、すごかったんです。松井大輔さん、カズさんもいましたし、南雄太さんもいたし、中村俊輔さんもいた(笑)。30代後半の人たちがバリバリでやっていたんで」。オーケー、中山は今も伸び盛りで成長中である。次も、その次も、結果にコミットする姿を見せ続けてほしい。
Reported by 今井雄一朗