今季の藤枝MYFCは、CK時にイラストによるサインボードを導入したことで大きな成果を挙げて注目を集め、開幕2連勝で首位スタート。さらに槙野智章監督が8月の月間監督賞を受賞するなど話題には事欠かない。
ただ今回は、現時点ではまだそれほど注目されていない藤枝の10番=菊井悠介の充実ぶりについてお伝えしたい。
そうした特徴は、槙野監督が追求する変幻自在の攻撃“ミラージオ”とも相性が良く、J2・J3百年構想リーグでは開幕から2シャドーの主力となって、4節までで3得点と結果も出した。ただ、その後はケガが重なって本来のパフォーマンスを出し切れず、本人としても納得のいかないハーフシーズンとなった。
そのため今季に向けて彼は、強い決意を固めていた。
「百年構想リーグでは感覚が良い時にケガをしてしまって、復帰して感覚が良くなりだした時にまたケガをしてしまってという繰り返しだったので、今シーズンに入る前からケガをしないようにすることを一番に考えてきました。そのために日常生活からいろいろ変えてきた中で、今はそれがすごく合っていて、ケガをしないことにつながっていると感じますし、ケガがないからこそ槙野さんのハードな練習を100%でやれていて、ゲームでもすごく走れてるし、身体が切れているという感覚があります」(菊井)
その言葉を証明するかのように、今季は開幕からコンスタントに高いパフォーマンスを継続し、開幕当初は正確なプレースキックでセットプレーからチャンスを量産。菊井のキックを他の選手が折り返してからのゴールや、彼のゴールと言っても良さそうなオウンゴールもあったので、アシストはまだ1つだが、得点への貢献度は非常に高い。
さらに、4節・富山戦(3-2)では鮮やかなミドルシュートで今季初ゴールを決め、5節・八戸戦(0-0)でも得点にこそつながらなかったが多くのチャンスを演出した。そして前節・宮崎戦(2-3)では、16分に自ら崩しのパスを通して自ら左隅を正確に射貫くゴールを決めたが、味方のオフサイドで取り消しになってしまう。これが先制ゴールとして認められていれば、試合展開はまったく違っていた可能性が高い。
ただ、その宮崎戦では、菊井個人としては観る者を唸らせるボールタッチやパスを連発し、多くのチャンスを演出して、今季最高と言えるほどのパフォーマンスを披露した。
裏へのループパスやループシュートも彼が得意とするプレーのひとつだが、宮崎戦の89分にゴール前に走り込む沼田駿也に通したループパスは圧巻だった。
「正直言うとあれは見えてはいなかったんですよ。ボールが来る前に1回あのスペースを確認しただけですけど、ボールを受けた時のボヤっとした間接視野と感覚で、あそこに味方が走ってくれてるんじゃないかなと思って出しました。だから、GKに取られるだけのボールになっちゃう可能性もありましたが、ああいうパスが出せる時って、自分でも(周りが)見えてる時だし、感覚や調子が良い時だと思っています」(菊井)
そうして沼田の速い動きにピタリと合わせ、真鍋隼虎の決定的なシュートにつなげたパスは、菊井のファンタジスタぶりを象徴する1本でもあった。
「ボールタッチは、僕の中ではまた全然違う感覚なんですよ。ただ、身体が切れて走れていると、ボールを触る回数は絶対に増えてくるし、そこは自分としても求めている部分ではあるので、ボールタッチにも良い影響が出てくるのかなと思います。だから、そこは今後も続けてやっていきたいです」(菊井)
昔のファンタジスタとは違ってハードワークもまったくいとわず、良い形でボールを受けるために幅広く動き、パスを出しても再び受けるために足を動かし続ける。もちろん、守備においても自分の責任はきっちりと果たしている。
槙野監督が、秋本真吾スプリントコーチを招聘して走法や走力の強化に注力している中で、菊井もそれを前向きに受け止め、肉体的には相当キツい中でもつねに頭を動かしながら全力で走っている。自分のトップスピードや走力が上がっていることも実感できている。
また、自分のプレーさえ良ければいいよというタイプではなく、周囲を引っぱるキャプテンシーが旺盛なことも彼の特徴のひとつ。松本時代には2024年から2年間キャプテンを務め、藤枝でも「リーダーシップグループ」に名を連ねて、ゲームキャプテンを任されることも多い。
プレーの冷静さとは対照的な気持ちの“熱さ”も魅力の彼に、J1昇格に向けたチームの本気度について聞いた。
「自分がこのチームに来たときよりも、勝利への執念やスピリットというところは、チームとして180度変わってきたと思います。八戸戦の後も引き分けで満足してる選手なんて誰ひとりいなかったですし、むしろロッカールームでは負けたような雰囲気でした。みんな優勝するために、昇格するために本気になっているので、どうやって勝っていくかということに対するこだわりという部分は、チームとしてすごく基準が上がっていると思います」(菊井)
今後も彼が徹底した自己管理を続けて負傷離脱することなく、今のコンディションを維持することができれば、J2屈指の10番として菊井悠介の評価はますます高まっていくだろう。ただ、彼自身にとってより重要なのは、自ら周囲を牽引しながらチーム全体でJ1に上がれるだけの地力を積み上げていくことだ。
Reported by 前島芳雄
ただ今回は、現時点ではまだそれほど注目されていない藤枝の10番=菊井悠介の充実ぶりについてお伝えしたい。
宮崎戦は、個人としては最高のパフォーマンス
今年、松本山雅FCから完全移籍で加入し、いきなり10番を背負った菊井。ボールタッチやコントロールのセンスにあふれ、視野の広さやアイデアの豊富さも生かしてゴールにつなげていく能力は、昨年までJ3でプレーしていた選手とは思えない領域。閃きを感じさせるプレーも多く、今や絶滅危惧種と言われる“ファンタジスタ”系の司令塔だ。そうした特徴は、槙野監督が追求する変幻自在の攻撃“ミラージオ”とも相性が良く、J2・J3百年構想リーグでは開幕から2シャドーの主力となって、4節までで3得点と結果も出した。ただ、その後はケガが重なって本来のパフォーマンスを出し切れず、本人としても納得のいかないハーフシーズンとなった。
そのため今季に向けて彼は、強い決意を固めていた。
「百年構想リーグでは感覚が良い時にケガをしてしまって、復帰して感覚が良くなりだした時にまたケガをしてしまってという繰り返しだったので、今シーズンに入る前からケガをしないようにすることを一番に考えてきました。そのために日常生活からいろいろ変えてきた中で、今はそれがすごく合っていて、ケガをしないことにつながっていると感じますし、ケガがないからこそ槙野さんのハードな練習を100%でやれていて、ゲームでもすごく走れてるし、身体が切れているという感覚があります」(菊井)
その言葉を証明するかのように、今季は開幕からコンスタントに高いパフォーマンスを継続し、開幕当初は正確なプレースキックでセットプレーからチャンスを量産。菊井のキックを他の選手が折り返してからのゴールや、彼のゴールと言っても良さそうなオウンゴールもあったので、アシストはまだ1つだが、得点への貢献度は非常に高い。
さらに、4節・富山戦(3-2)では鮮やかなミドルシュートで今季初ゴールを決め、5節・八戸戦(0-0)でも得点にこそつながらなかったが多くのチャンスを演出した。そして前節・宮崎戦(2-3)では、16分に自ら崩しのパスを通して自ら左隅を正確に射貫くゴールを決めたが、味方のオフサイドで取り消しになってしまう。これが先制ゴールとして認められていれば、試合展開はまったく違っていた可能性が高い。
ただ、その宮崎戦では、菊井個人としては観る者を唸らせるボールタッチやパスを連発し、多くのチャンスを演出して、今季最高と言えるほどのパフォーマンスを披露した。
裏へのループパスやループシュートも彼が得意とするプレーのひとつだが、宮崎戦の89分にゴール前に走り込む沼田駿也に通したループパスは圧巻だった。
「正直言うとあれは見えてはいなかったんですよ。ボールが来る前に1回あのスペースを確認しただけですけど、ボールを受けた時のボヤっとした間接視野と感覚で、あそこに味方が走ってくれてるんじゃないかなと思って出しました。だから、GKに取られるだけのボールになっちゃう可能性もありましたが、ああいうパスが出せる時って、自分でも(周りが)見えてる時だし、感覚や調子が良い時だと思っています」(菊井)
そうして沼田の速い動きにピタリと合わせ、真鍋隼虎の決定的なシュートにつなげたパスは、菊井のファンタジスタぶりを象徴する1本でもあった。
自分さえ良いプレーが……ではなく
ただ、身体的なコンディションの良さと、ボールタッチの良さは、必ずしも一致するものではないと彼は言う。「ボールタッチは、僕の中ではまた全然違う感覚なんですよ。ただ、身体が切れて走れていると、ボールを触る回数は絶対に増えてくるし、そこは自分としても求めている部分ではあるので、ボールタッチにも良い影響が出てくるのかなと思います。だから、そこは今後も続けてやっていきたいです」(菊井)
昔のファンタジスタとは違ってハードワークもまったくいとわず、良い形でボールを受けるために幅広く動き、パスを出しても再び受けるために足を動かし続ける。もちろん、守備においても自分の責任はきっちりと果たしている。
槙野監督が、秋本真吾スプリントコーチを招聘して走法や走力の強化に注力している中で、菊井もそれを前向きに受け止め、肉体的には相当キツい中でもつねに頭を動かしながら全力で走っている。自分のトップスピードや走力が上がっていることも実感できている。
また、自分のプレーさえ良ければいいよというタイプではなく、周囲を引っぱるキャプテンシーが旺盛なことも彼の特徴のひとつ。松本時代には2024年から2年間キャプテンを務め、藤枝でも「リーダーシップグループ」に名を連ねて、ゲームキャプテンを任されることも多い。
プレーの冷静さとは対照的な気持ちの“熱さ”も魅力の彼に、J1昇格に向けたチームの本気度について聞いた。
「自分がこのチームに来たときよりも、勝利への執念やスピリットというところは、チームとして180度変わってきたと思います。八戸戦の後も引き分けで満足してる選手なんて誰ひとりいなかったですし、むしろロッカールームでは負けたような雰囲気でした。みんな優勝するために、昇格するために本気になっているので、どうやって勝っていくかということに対するこだわりという部分は、チームとしてすごく基準が上がっていると思います」(菊井)
今後も彼が徹底した自己管理を続けて負傷離脱することなく、今のコンディションを維持することができれば、J2屈指の10番として菊井悠介の評価はますます高まっていくだろう。ただ、彼自身にとってより重要なのは、自ら周囲を牽引しながらチーム全体でJ1に上がれるだけの地力を積み上げていくことだ。
Reported by 前島芳雄