
確立しきったと思われていたいわゆる“ミシャ式”に、変化が生まれ始めている。もちろんこれが史上初のことではないだろうが、リーグ戦4連敗中と低迷にあえぐチームをどうにか上向かせるべく、チームが舵を切ったのはフォーメーションのマイナーチェンジだった。前線1トップ2シャドーの3-4-3の攻撃陣の配置を変え、2トップ1シャドーの3-5-2がリーグ再開を迎える名古屋の基本布陣に据えられつつある。明治安田J1リーグで8試合7得点14失点と自慢の攻撃力が鳴りを潜め、弱点ばかりを露呈しているような戦いが続く中、さすがの超攻撃的チームも守備の要素をどこかに潜り込ませなければ、そもそもファイティングポーズが取れないことに気づいたわけだ。
しかしそれはネガティブなことではなく、むしろポジティブなことにも思える。今季開幕前の苫小牧でのキャンプでは前線の選手たちの多くが「守備を何とかしないと」と“本番”を迎えるにあたって警鐘を鳴らしていた。それはGK陣を筆頭に後ろの選手が攻撃面での貢献を口にすることとは対照的で、それはつまりこのチームの本質が攻撃で試合をマネジメントする、得点で試合に勝っていくというフィロソフィーにあるということを示してもいた。しかし結果として現状は苦しく、2勝6敗の今季リーグ戦の中で好印象な試合を挙げた時に浮かび上がる内田宅哉という存在をピックアップしたところが冒頭の3-5-2という布陣であり、やり方を大きく変えることなく不足していた要素を埋める解決策となっているのであった。
おそらく最初は内田のマンパワーによる発見だったのだと思う。高強度のプレーを連続して、高頻度で繰り返すことのできる背番号17の特徴を生かし、右シャドーでありながらボランチの役割まで任せるというある種の“パワープレー”がこのチームの守備面の不安を解消し、攻撃面も力強くサポート。ビルドアップの枚数をひとり増やしながら前線に飛び出す人数をひとり増やすという超人的なタスクはその負荷のあまり一度は負傷につながったほどで、復帰した内田は「まだ足りない」と驚きの発言をする一方でチームはその点をもう少し整理している感もある。それがトップ下という明確な位置取りで、前述のようにボランチ然として振る舞うと下がりすぎて上下動の負担が大きくなる部分を軽減したのは明らか。快勝を収めたJリーグ ヤマザキビスケット ルヴァンカップ2回戦の北九州戦を振り返った時には、「反省点としては下がって回してるだけじゃなくて、どんどん縦に入れて、3人目で自分や森島選手が入っていくという攻撃のリズムがもっとできたら良かった」と内田は語っているが、今は内田がもっと高い位置で従来の2シャドーの役割をひとりで担っているようなものに修正されている。
内田によってトップ下というポジションが生まれたことで、恩恵を受けているのがFWたちだ。山岸祐也と木村勇大はその効果を嬉々として口にし、ゴールに向かうことができていると笑顔を見せる。

「よりゴールに近い場所で動き出しをやれたところがよかったことと、そこから降りると相手はついてきにくいと思うし、モリシ(森島司)がいて、ウッチーがいて、ボールに関われる選手が、動き回る選手がいたから俺もすごく“前”に専念できたところはある。入らなかったシュートも含めて今日(北九州戦)のシュート数は多かったし、やっぱりペナルティエリアの近くで勝負してこそ自分の良さが出る。“1分の1”でチャンスを決めるのも大事だけど、今日は4~5本打ったし、それだけ打てば入るしってところ。この形はチームとしての新たな試みで、チームとしても新しいことをやりつつ球際でも全員が戦い続けられた。そういう意味で良かったんじゃないかな」(木村)
「ルヴァンカップからフォーメーションが変わったことで、自分はボールを触る回数が圧倒的にこれまでのリーグ戦は少なかったんで、このフォーメーションになってからけっこう“自由に”というか、ボールに触る機会がすごく増えた。それは自分のポジションを変えられるからで、北九州との試合はそこで1点も取れたし、その後の練習試合も1点取って、自分的には攻撃の部分で充実というか、良い方向に向かっているなと感じている。自分たちが良い時というのは、中盤の3枚と前の2枚の距離感が近くて、北九州戦でもボールをその場で奪い返してチャンスを広げたり、展開したりっていうシーンが出た。ああいうシーンはリーグ戦で増やしていきたかったものだったから、ルヴァンカップでそういうシーンが出たというのは良かったと思う」(山岸)

さらに山岸は攻撃力で圧倒して好成績を収めた百年構想リーグと今の違いを「ミシャのサッカーは幅と深さをしっかり取れというものだから、そのスペースに前の選手が落ちてきて、っていうところがあったけど、そこがうまく回らなくなった時に自分たちの弱さがすごく出る試合が多くなってしまった」と話している。極論してしまえば攻撃が上手くいってしまえば相手が対応に回るので、リスクは勝手に軽減される中で攻撃の質を追求していけたが、相手も研究を重ねて明確な対策を打ってくるので、そこに対してリスクの方が大きくなった結果が現状ということである。「試合中に相手のディフェンスの選手が『これ取ったらあそこ空いてるぞ』みたいなことは話していた」とも山岸は証言するが、翻ってここに逆のクサビを打てるのが内田という存在であり、いま生まれたトップ下というポジションの理由である。内田は言う。
「相手の攻撃の“初手”を潰すことができればというのは、こういう攻撃的なサッカーをやってる中では必要になってくると思う。自分たちの後ろにはスペースがたくさんある中で、その負担を減らすっていう意味でも、攻撃のメンバーがどれだけ切り替え速く相手陣地でボールを奪えるかがすごく大事。そこは自分が見せたい部分ですし、相手にやられている部分の改善点というか、対策ではあると思うんです」
とかく言われるのは4-1-5という特殊な布陣の「1」周辺にぽかんと空いてしまうスペースを起点にされてのカウンターへの対策で、現にそこからの失点も少なくない中では、ここをどう埋めるかに目は行きがち。あるいはそこを狙われることをリスクと捉えて攻撃にかける人数が減ってしまい、そのために攻撃に不備が生じてまた攻められるという悪循環も事象としてはあった中では、シャドー内田のボランチまでカバーする奮闘や、トップ下内田のファーストDFとしての貢献度は確かにその対策として明確ではあった。
それをシステムとして戦いだしたこの3週間の準備期間はいざ実戦では、“J1リーグ”でどれほどの効果を発揮するのかは「まあ見てみよう」ということにはなってくる。とにかく今は練習でも試合でも内田の存在感が大きくなり続けていて、とある練習の際には「ウッチーが11人いるのが一番強い」という選手たちの声も聞こえてきた。それはウォーミングアップの際の談笑の最中であった一方で、川崎F戦に向けた1時間にもおよぶミーティングの後に聞かれたことでもあった。そう言うだけの理由は、推し量れるのではないか。「10人が明神なら勝てる」といったニュアンスのことを言ったのは、かつての日本代表監督だったか。ハードワーカーがチームを救うということは、攻撃に特徴を持つチームにおいては往々にしてあることだ。
キャプテンの稲垣祥も「ポジティブ。もちろん対策されていることもあるけど、それ以前に構造的な部分を補う意味でも変化は必要だった」と、チームに起きた変化を歓迎している。そしてリーグ再開初戦の注意点を「まずはやっぱり良い守備から入っていかないといけない。まずはそこからビシッと入れるようにはしたい」と守備面に置いた。かくして木曜日のトレーニングではプレッシングのかけ方をペトロヴィッチ監督が指示する珍しい場面があり、それは守備練習というほどの強さではなかったが、重要なテーマであることもまた確かめられるところではあった。
「やっぱり負けている時は良かったこともできなくなっていったり、なかなか難しくなってきたりするけど、そうじゃなくて選手のいいところを出していってポジティブに、ミスしてもいいからどんどんプレーしていけるようなチームに、次の試合ではなっていけばいいなと。それで勝てればいいなと思ってます。勝ちに行きたい」
北九州戦の時点でもう、山岸は流れが変わったことを感じていた。木村もそうだ。
「チームとしてはもう勝たないとダメっていう状況で挑んで、全員でそれにちゃんと勝てたっていうのは、本当にそれはほんとよかったと思うから。個人的にもゴールが遠くなってた中で決められて。ウッチーも決めてくれて、アシストもついた。相手関係なくそれは大事なことで、仮に天皇杯の鳥取戦みたいに負けていたら、また『なんで?』みたいになっていると思うし、練習をそこからまたみんなで頑張っても、“どうやって勝つんだっけ”ってなると思うから。どんな相手でも勝つのが大事だし、勝てたことがよかった」
その立役者とも言える内田は短く、「これをしっかりと、リーグ戦になった時にも表現できるようにできれば」とした。現在、毎回のトレーニングで見せる内田の迫力はまさしく鬼気迫るものがある。容赦のないコンタクトと、決して諦めることのない運動量。それは稲垣や米本拓司という本物をこの名古屋で見つめ続けてきたことを如実に感じさせるものだった。「それはもう受け継いでます、ちゃんと」。それをしっかり口にできる内田は名古屋でもう5年目。とある夏の終わり、「暑いですね。でも30度を超えるのももう今日明日くらいじゃないですか?」とすっかり名古屋の住人になったことを感じさせたものだが、彼が名古屋を救うひとりになっていることは何とも喜ばしかったりする。

さあ、勝負が再開する。苦境にある名古屋だが、選手たちの目は死んでいない。勝つために必要な変化とともに臨む5連戦、その初戦からフルスロットルで名古屋のミシャ式の進化形が見られることに期待したい。
Reported by 今井雄一朗