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【取材ノート:名古屋】勝利に不可欠の“こだわり”。名古屋に気づきを与えた節目としての柏戦。

2026年10月20日(火)
柏との試合は何だか、名古屋にとっては特別感がある。毎回がそうとは限らないが、いろいろなことがあった。たとえば直近では2024年シーズンの無得点での開幕3連敗を止めたのがアウェイの柏戦での勝利で、その年はホームの柏戦でも4連敗を勝利で止めている。




少し時計を巻き戻せば楢崎正剛現GKコーチがJリーグ通算600試合出場を達成したのも日立台で、その翌日には柏が古巣の西野朗元監督の解任報道があったりもした。
2011年の連覇がかかっていた優勝争いで大きな壁として立ちはだかったのも柏で、対戦成績が1分1敗だったことを考えると、勝点1差で優勝を逃した最終結果はなおのこと悔しいものだった。
それ以外にもいろいろあると思うが、さっと思い出せるのはそういったエピソードで、何が言いたいかといえば今季の柏との第1ラウンドもまた、チームの潮目を感じる試合になったなということだ。

リーグ4連敗からの公式戦4連勝はいかにも劇的で、しかもペトロヴィッチ監督が率いるようになってからのベストゲームのひとつにこの柏戦は数えられるクオリティがあった。


得点に絡んでいないという意味においては“陰の”という枕詞をつけざるを得ない、しかし貢献度からすれば“MOM”と言えるハイパフォーマンスを披露した和泉竜司はこの試合を「チームとしてもっと上に行くために必要な部分というのは、今日の試合にあった」とし、「みんなのやることが明確になって、しっかりそれを90分間やり続ければこういう試合にできる。改めて、そういうことを感じるゲームになった」と笑顔を見せた。



もちろん柏のスタイルと名古屋のスタイルの相性が良かったという点は忘れてはならないが、相性だけでこの快勝は生まれるものではない。それが和泉の言う“やり続ければ”という部分であり、発想の転換とも言うべきひとつの要素でもあった。良い攻撃をしようと思って上手くいかなかったところが、良い守備から入ると自分たちの強みがいかにも発揮されたのである。

「引いて守ると相手は上手いので、どうしても後手になってきつくなるのはわかっていました。今日は(永井)謙佑くんがスタメンでしたし、前からどんどんプレスをかけて、なるべく自分たちのゴールから遠いところ、相手のゴールに近いところでボールを取って、そこから良い攻撃にとみんなでやっていた。それがゴールにもつながった。当然、ミシャのサッカーは攻撃がすごく重要視されてますけど、どっちがスタートかっていうのは、別にどっちでもいいと思っているんです。良い守備からの良い攻撃、ボールを奪ってからの自分たちがボールを持つ時間も増えてきたし、そこは相手も嫌がってるのは見てて分かっているので。それをやりきるだけの走力だったり、忍耐力とかもみんながだいぶ割り切ってやれてきている。最後まで全員が守備に戻るところも、(永井)謙佑くんや(木村)勇大、ウッチー(内田宅哉)もそうですけど、前の選手もしっかり戻して、守るときはしっかりみんなで守っている。そこからのきつい時間の攻撃にはまだまだ課題はあるんですけど、そこもやっぱりチームとして成長していける部分。良い守備が良い攻撃につながっているというのは、その通りかなと思います」



和泉は相手のキーマンの1人であった久保藤次郎を無力化する役割も担い、ほぼ完遂した。「藤次郎がレイソルのストロングだというのはどの試合を見てもわかってました。ただ、そこでやらせないことで自分たちのゲームになるというのも自分では思っていた」

守備に特徴がある選手ではないが、対人能力の高さはチームメイトの誰もが認めるところ。フィジカルでもスピードでも真っ向から立ちはだかり、その上で周囲の選手の力をうまく引き出すことまでやっていたのだから、そのキャパシティには脱帽である。この日の3得点のうち、前半の2得点の起点となったのは高嶺朋樹の強力なボール奪取だったが、彼をあの高さでプレーさせたのは和泉の仕事でもあった。
さらには同じサイドのシャドーである木村もまた、個人的な課題克服に燃えていた試合であったことも見逃せない。

以前から木村はマンツーマン守備の構造的な課題として、3バックの相手との試合の際に対面の右センターバックが積極的に上がってくるタイプの場合、そのマークで自陣の低い位置に戻らざるを得ず、その後の攻撃参加に距離がありすぎることを挙げていた。しかしこの柏との試合の先制点の場面を見返してほしい。木村はその課題に対し、どストレートな解決法でもって立ち向かい、最高の結果を得ているのである。



「やっぱりレイソルは上手かったし、後ろも全員が攻撃参加してくるから、もちろん自分が下がる回数も増えた。今までそういう相手には自分としてもパフォーマンスに納得できていない試合が多くて。
町田とか広島とか3バックの右が上がってくる試合は守備で後手を踏んで、あんまり自分のプレーができてない感覚が多かったので。だから自分の中で今日はすごく大事な試合だなと思っていた。
守備も死ぬ気で行くし、そこからどれだけ前に出ていけるかってところで、1点目のアシストは本当に俺が狙っていた形でしたね。最終ライン近くまで下がって、そこから一気にスプリントをかけていく。それは意識ひとつ、覚悟ひとつでできることだと思ったから。戸嶋選手が上がってくるし、小泉選手とかも右側にいるし、久保選手もいて、相手も右の方が仕掛けてくる回数も多かった。
だから俺と竜司くんがけっこう守備に引っ張られる形になって、途中でその受け渡しとかを話し合いながらやってたんですけど、受け渡ししつつも責任を持ってついていくところはついていかないとダメ。そういうタスクもしっかりやりきれたんじゃないかなと思う。
こんなにがっつりマンツーでいく戦術を使ってるのは名古屋だけだと思うし、だから人と人の戦いを制すれば今日みたいなゲームができる。そこをサボったり、個々の局面で緩くなってやられるようなところがひとつ、ふたつ、みっつと出てきてたらたぶん、“チンチン”にされてたと思う。全員が、勝つために何をするべきかっていう責任感をもって戦った結果です」

その木村に何度も決定機をプレゼントした永井は「決めてれば俺のアシストついたのになあ」と試合後に後輩をイジり倒していた。早生まれで38歳の年代になる37歳のストライカーは、その経験を余すことなくチームに還元し、自らが誰より走ってこのチームを勝たせようと身を削っている。

「今日は基本、自分は古賀選手を見ていたんですけど、相手のボランチがプラスワンを作りに来た時はそこも消しながら、うちの(森島)司と(稲垣)祥が上がってこれるタイミングを作ったり。行けない時は俺が中間ポジションを取って二度追いしたりしながら、ぼかしながらで、押し返せる時に押し返すっていうやり方でやってましたね」

これだけのことを考えながら、何より実行できるのがこの大ベテランの凄みだ。練習でもその存在感は大きく、常に何かを喋ってピッチ内の雰囲気を良くしようとしている。それは試合のロッカールームでも発揮されるらしく、ハーフタイムは永井がその口火を切ることで、後半に対する選手たちの意見交換が活発化するという。プロフェッショナルなので、全員がいろいろなことを考え、感じながらプレーをしているのは当然だが、自己主張や意見を表明することができるかどうかは人それぞれのキャラクターもある。永井はいつも「大変よ。言わないとわからないし」とぶっきらぼうに答えるが、誰より仲間が好きで、チームを勝たせることに全身全霊を注いでいる。



永井はまた、柏戦での自分の役割を「僕らも疲れるけど、相手を疲れさせるっていう作業は大事でした」と語った。「俺がその倍は疲れてたけど」と自虐をしつつも、その裏には仲間への信頼感の向上があったのは間違いない。「昔に比べてスプリントに行ける回数は減った」とは30代後半のFWとしての悩みではあり、だからこれまでは足を貯めておく試合もあったのだが、この柏戦においては永井のアクセルはベタ踏みだったと思う。

「疲れたら、“できる”選手はベンチに今日もたくさんいた。(山岸)祐也がいて、マテウスがいて、カツ(中山克広)がいて、ヒデ(甲田英將)もいた。もう、相手を疲れさせることだけ考えてた」。

ベンチメンバーの充実はこの連勝と無関係ではなく、木村も「すごい頼りになる先輩たちが控えてるんで、後ろには。だから出しきろうって思いでやれた」と語っている。
それが前述のロングスプリントにつながったことは言うまでもないだろう。



後半のダメ押しゴールにしても、水曜日のルヴァンカップ岡山戦で2得点の大活躍を見せた甲田の突破から始まり、その2得点をふたつともアシストした山岸が冷静に仕留めている。誰が出ても戦力が落ちない、交代がチームを加速させる、というのは勝てるチームに共通の特徴である。それを常日頃から言い続けてきたキャプテンの稲垣は、柏戦の勝ち方とこの連勝におけるチーム力の誇示をもって、「いい意味でシステムにあまり固執しなくとも、自分たちの中で引き出しを持てるようになってきた。それを表現できるようになってきた」と、次のステージへと進みつつあることを感じている。

「普段からやっている練習とかやりたいサッカーっていうのは、何も、負けてる時と今こうして勝っていても変わってない。一つひとつのプレーへのこだわりとか、ひとつの戦いへのこだわりっていうところで、やっぱりこれだけ変わってくる」

決勝点を決めた木村は本質を口にする。彼の決めたゴールは美しい放物線を描いたが、日々の積み重ねがあの軌道を導いていた。

「シュートを打つことしか考えてなかったけど、コースは古賀選手がかぶってて見えなかった。でも普段から“一生”シュート練習やってるんで、ゴールの場所はわかってたし、やっぱり日頃の賜物じゃないかなとは思うっす」



こだわりの証明である。和泉の久保封じも、永井の奮闘も、それが勝利に不可欠だったから、こだわれたし執着もした。特殊なシステムやマンツーマンディフェンスによってどこかシステマティックに見えるペトロヴィッチ監督のスタイルだが、それを支えているのは個の精度である。つまりはこだわりだ。それを身に染みて感じ、やれば結果がついてくることを実感したのがこの4連敗と4連勝だった。そして生まれたひとつのベストゲームとしての柏戦を機に、名古屋は変わるきっかけを得ようとしている。

Reported by 今井雄一朗