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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:穏やかに、なればこそ揺るぐことなく。佐藤瑶大の誇らしき成長。

2026年11月2日(月)


3連勝、のち2分2敗。10月に待っていた3週間に凝縮された7連戦の結果は残念ながら尻すぼみな結果に終わった。リーグ4連敗で中断期間に突入し、自分たちの足元を見つめ直した成果が川崎F、岡山、柏に対する公式戦3連勝であり、それは彼らの戦力が本物であることを証明した一方で、こういったスタイルのチームにありがちな顛末を辿っているとも言える。それは状態が良くなれば良くなるほど、攻撃の内容にこだわれるようになっていき、結果として決定力の問題が浮上してくるということだ。得点が取れればそれはすべて“良い攻撃”なのだが、“良い崩し”を得点への道筋に置くと、“内容はいいのに結果が出ない”という悪循環に陥りやすくなる。Jリーグ ヤマザキビスケット ルヴァンカップ敗退の浦和戦では後半45分間だけで15本のシュートと10回の決定機があったにもかかわらず、0-1を1-1にすることしかできなかった。ここからはある意味でチキンレースだ。決まるまでやれるか、他の方法を探す羽目になるか。ペトロヴィッチ監督は間違いなく前者の監督なので、名古屋は腹をくくるしかない。

しかしながらこの7連戦はそうした傾向が明確になった以外にも、チームにとってはポジティブな発見がいくつかあった期間でもあった。その最たるものが選手層の拡大で、小野雅史や甲田英將がそれまでの準主力のような序列から主力へ格上げされるだけの活躍を見せたのは非常に大きな収穫だった。そしてもうひとり、センターバックの佐藤瑶大がようやく、正しく使われ出した感がある。“ようやく”である。リーグ戦での今季初スタメンは第11節のC大阪戦で、ディフレクションが失点になってしまった悔しい試合ではあったが、絶対的存在の藤井陽也の不在を感じさせない見事なパフォーマンスでコーチ陣にその実力を認めさせた。最初は藤井の欠場を埋める起用だったが、10月の大一番だった神戸戦では藤井の復帰をスタメンで迎え入れ、4バックでの戦いの中核を担っている。完敗の感が漂う1-3という結果には「うまくいったかどうかは3失点してるんでわかんないですけど」と遠慮しつつ、「局面、局面のことで言えば、陽也が運ぶところだったりはうまくいっていたと思うし、連係面もよく喋りながらやってくれたけど、もっとリスク管理のところはできるし、もっとやっていけばもっと良くなる感覚はある」と一定の手応えを口にした。もともとが自信家だが、その言葉の裏側にはもっと深い心の機微が今はある。



今季の佐藤はとにかく心を穏やかに、“凪”という言葉がぴったりの心境でもって自己研鑽に励んできた。半年間の百年構想リーグによって新体制の土台が形成され、その中で佐藤は3バックの左を中心として右でもプレーしてきたが、レギュラーシーズン18試合中5試合のみに出場は留まり、プレータイムも280分と少なかった。負傷離脱の時期もあったが彼の実力を思えば物足りなく、それは当然のことながら今も同じだ。 2026/27シーズンはここまで10試合に出場しているが、プレータイムは302分。ほぼすべてが交代出場で、スタメンは2試合しかない。大卒6年目の28歳としては焦りがあって不思議でない状況だ。トレーニングでは良いパフォーマンスを安定して発揮し続けているだけにそれはなおさら、むしろ観ている側の方が感じるところで、「正直モヤモヤはするっすよ」と佐藤本人も認めはする。認めはするが、そこで腐る男ではない。いや、なくなった。昨年、浦和から名古屋に移籍してきた当初はまだ若さの残るギラついた性格を見え隠れさせていたが、Jリーグオリジナル10を3チームも渡り歩いて来れば多くのことを経験し、多くのものを見もする。そしてたどり着いたのが矢印を自分へ向け続け、すべてを“自分のせい”にする非・他責思考。25年の最初はとある先輩に「まだ“何者か”になりたいんだよね」と貪欲と焦燥の入り混じる気持ちを見透かされていた男は、たどり着いたのである。



「自分のことに集中してるからかな。他のことに全く興味がないというか、どうでもいい。“自分が動けるようになってるのが楽しい”とか、“自分のできることが増えてきてるのが楽しい”っていう感覚。だから、それにはどうしたらできるようになるのかな、ってずっと考えている。もちろん味方を見てサッカーをするし、味方とのコミュニケーションはもちろんたくさんとっていて、味方にも求める。でも自分が今、たとえばモチベーションが下がっちゃうとしたら、“自分がいま何ができてないか”や“これができなかったな”で少し落ち込むぐらい。全部自分のせいなんですね。自分が今やりたいことに集中できているから他がどうでもよくなるのかな。今は試合に出て、僕のせいで失点したら、試合中は落ち込まない。試合後はもちろん反省する、でもそれぐらいです。ディフェンスって、やっぱりそのぐらいのメンタルでないと。試合中にぶれちゃったら終わりだし、プロ1年目に感じていた、『あの人すげえメンタルだな』が今はやっぱり大事なんだなってすごく思います。あの時、そのメンタルを持っていた人たちが今の俺と同じぐらいの年齢なんですよ。僕はJリーグで150試合とか200試合とかに出ているわけじゃないんで、このメンタルで今の自分がいいのかどうかわかんないですけどね(笑)。もっと試合に出るためにギラギラしてた方がいいのかなと思うこともあるし」

“あの人たち”とは彼のキャリアを振り返れば、昌子源や三浦弦太あたりか。なるほど日本代表経験もある、いわゆる一流である。しかし当時は「すげえな」と思うばかりで、それが自分にとっても良いのかどうかは曖昧だったと佐藤は言う。大卒は即戦力でも、まだまだ血気盛んな自分をどんどん前面に押し出していく、そういう年齢である。空中戦の強さとフィード能力で大学ナンバーワンDFと称された、その自信や自負もあっただろう。G大阪でも浦和でも、ポジションに定着しそうになった時期はそれぞれにあり、しかし続かなかった経験が彼を謙虚にもさせた。名古屋に来た当初はギラギラした自分を「疲れちゃうんで」と否定するところから入り、それでもまだ練習では感情が勝っていたが、今は違う。いい意味で黙々と、自分の力が起用に見合っていれば勝手に出番は生まれ、増えていくと思い直してサッカーと向き合えている。「僕もプレーではギラギラしてる気がするんすけどね。球際とか」。口調はすっかり大人である。初めて話をしたのはわずか1年前だが、言葉からにじみ出る気持ちの質がまるで違う。「普通にやることを淡々とやる。ギラギラ感はしっかり持ちながら、でもあまり気合いは入れすぎずに。悔しい思いもありますけど、それをエネルギーにはしてないっす」。悔しさは心の動きだが、外的要因によって生まれることも多い。頑張らされるのは疲れるものだ。佐藤はだから、「自分がうまくなるために毎日頑張ろう」と、内発的なモチベーションで自然体を保つ。自分でやるから頑張れるので、佐藤は今季、ちょっと足が速くなったぐらいだ。

心の余裕はプレーの幅や、懐の深さも育んでいく。前述の神戸戦での4バックはほぼ練習をしていない。可変型のシステムを駆使する今の名古屋はたしかに4バックを試合の中ではやっているようなものだが、オリジナルの並びとして明確に4-4-2を試行した回数はそれほど多くない。特にこの時のような、センターバックタイプ(原輝綺は違うかもしれないが)を4人並べた形は初めてで、藤井との2センターバックをどう成立させていくかは一種の賭け、もう少し穏やかに言えばチャレンジだった。試合前日、練習ピッチではペトロヴィッチ監督が佐藤、藤井の順に声をかけ、話し込む姿が見られたが、いかに彼らが重要視されていたかということだ。特にそれまでは出場機会があまりなく、特別に密にコミュニケーションをとることはあまり見られなかった佐藤にそうした時間が設けられることは、彼の努力の成果と言えた。選手起用を“戦友”に例えて語る指揮官である。その信頼に足る存在の仲間入りをできたことは、佐藤の選んだ道が正しかったという何よりの証明になる。その過程を見てきた者のひとりとして、それは何だか誇らしい。



実を言えばたまに愚痴のようなものは聞く。それはガス抜きのようなもので、他愛のないやり取りにすぎない。大人になったとはいえ、それでもまだ20代である。同い年の内田宅哉や原輝綺も努力の人だが、彼らがスタメンを占めるようになるのは良い傾向かもしれない。耐える力と考える力を持ち、他責にしないから彼らはしばしば失点の場面にも居合わせ、当事者にもなる。その場面を担えるのは決定機を迎えるストライカーと同じで、ミスが大きな反響を呼ぶ。それでも責任から逃げない彼らは、自分と向き合い、次の一歩を踏み出す。「モチベーションはなんと言うか…、本当に今はいつでも変わらないんすよね」。なぜか申し訳なさそうに佐藤は笑う。守備の選手を指して“鉄壁”という表現があるが、揺るがない心を手に入れた男はまさに今、その言葉にふさわしい男になりつつある。

Reported by 今井雄一朗